寝すぎ45 ピースフル姉妹の〈ぴすぴす攻略配信〉3〜!。 ぴすぴす〜!。姉妹無双(妹)…… 無理しちゃ、だめ……?

「ん。パフねえ。ここはわたしがメインでいく。ネルおじといっしょに、見てて」


 ロックリザードの群れを倒して、さらに進んだ洞窟型ダンジョンの中。


「「「キキキキキィ!」」」


 そう告げるスピーリアの視線の先に映るのは、天井に張りつく一体が体長50センチほどの蝙蝠、リンクバットの群れ。


 飛びまわるその動きは非常にすばやく、反響音で敵の動きを察知し、しかもその高い知能で100を超える数で連携して攻撃してくる非常におそろしい魔物。


 生半可な配信冒険者ではパーティーを組んでも危険とされるほどの凶悪さを誇る。


 だがしかし、この娘姉妹の妹にとっては、むしろおあつらえ向きの相手でしかなかった。


 ――すうっと、スピーリアが青い瞳を細め、手にした愛剣・薄氷うすらいをまっすぐにリンクバットたちに向けて突きだす。


「スキル〈精神超感応――細波さざなみ〉」


 スピーリアの体から青白い魔力があふれ、肩までの銀色の髪を揺らし、その場で薄氷をヒュンッと無造作に横に薙ぐ。


「「「ギ……ッッ……!?」」」


 ドササササササササッ!


 ――そして、それで戦いは終わりだった。


 すばやい動きも、反響音での察知も、高い知能も、物理的には見えも聞こえもしない強烈な精神波の干渉の前には何の意味もなさない。


 100を超える数の群れは何一つ抵抗できず、すべて張りついた天井から洞窟の固い地面に叩き落とされた。


「「「ギ、ギッ……!?」」」


 落ちた際に一部が折れた羽をばたつかせ、地べたでもがく蝙蝠の群れの前。スピーリアの持つ青い刃がひときわ青く染まり、強烈な冷気を放つ。


「〈凍てつく風フローズン〉」


「「「ギッ………………?」」」


 もう一度、スピーリアがその場で薄氷を振るう。だがそれは、攻撃ではなく――葬送。


 すでに勝敗の決した相手の生命いのちを薄氷を媒介にした強烈な氷魔法があますことなくすべて凍てつかせた。


 ピコン。


『う、うっおおお!』

『す、すげえ……!? 100体をたった……ふ、二振り……!?』

『やっべえ……! めちゃくちゃカッコいいし、綺麗……!』

『やっぱ、スピーちゃんの戦いかたは大群相手に映えるなぁ……!』

『ああ……! 今日のは、いままでのベスト5には入るぜ……!』

『いいもん見たな……! ズームしたりとか唇アップとか、アングルも凝ってたし……! ドローンさん、がんばった……!』


『『『チャリンチャリンチャリンチャリン――』』』


 興奮冷めやらないリスナーたちの勢いのまま、過度な競争を煽らないよう、配信画面には金額が表示されない応援課金音が姉のときと同様に止まない勢いで鳴り響く。


 すると、そこでスピーリアが撮影用ドローンに向かって、きょとんと小首を傾げた。


「みんな。応援してくれるのはうれしいけど、無理しちゃ、だめ……?」


 ピコン。


『『『チャリンチャリンチャリンチャリン――』』』


『無表情だめだしたすかる』

『このわかってない感じがたまらない……!』

『大好きなお姉ちゃんの真似してて可愛いねぇ』

『無知っ娘(15歳)はあはあ』


「…………ん?」


 姉と同じことをしているのに、なぜか自分のときは応援課金が止まずむしろ加速することに、スピーリアはもう一度きょとんと小首を傾げるのだった。


 そして、一方。


「あたし、ぜんっぜん出番ないじゃない……」


 すっかり妹に見せ場をすべてもっていかれて、蚊帳の外のパフィール。


 根が真面目で一生懸命な姉は、いつでも戦えるべくまじめに愛剣・ほむらをしっかりと手に携えながら、呆然と立ちつくしていた。


 ピコン。


『チャリン』

『パフちゃんの呆然顔たすかる……!』


 ――そしてまあ、中にはこういう特殊な状況シチュエーションを好む変わりものリスナーも当然いたりするわけだった。

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