寝すぎ20 屋上露天風呂。天上と地上の星々に誓って。……ぺた、ぺた。

「はぁ〜! 最っ高だなぁ〜! マジで〜!」


 超広々とした湯船に浸かって手足をだら〜んと伸ばしたネルトは、頭上を見上げながら思わずそうつぶやいた。


 その茶の瞳に映るのは――満天の星空。


 親友の娘姉妹、姉パフィールと妹スピーリアが住む52階建て超高層タワーマンションのその屋上。そこもピースフル一家の所有物だと言うプール併設の広々とした露天風呂をネルトはいま満喫していた。


 大量のご馳走のあとに用意された、妹スピーリアの大好物の超デカデカ盛りラーメンと、姉妹ふたりとも好きだけど、どちらかと言えば姉パフィールのほうがより大好物な多種多様なスイーツの大量シェア。


 スキル〈睡眠〉の特殊系派生の一つ、〈睡眠時超消化促進〉に頼りつつも、なんとか姉妹ふたりの信頼と、きらきらとまぶしい笑顔を守りきった戦士おとこに与えられた束の間の休息。


 もとい、ふたりに譲ってもらった昏睡前から数えて20年ぶりとなる一番風呂に浸かりながら、ネルトはその精神と体を心ゆくまでほぐしていた。


 ――起きてまだたった二日なのに、マジで超いろいろあったなぁ……! などと思いながら。


「あ〜! マジ最高〜! 生き返る〜! これからは毎日この風呂に浸かれるのか〜! 思えば、寝る20年前は金がなくて、桶一杯のお湯で体拭くのが精いっぱいの日も多かったからなぁ〜! 魔導具や魔導技術もいまほど発展してねえし、しかも高価だったから、庶民にはまだまだ普及してなかったしよ〜!」


 昨日使ったスキル〈睡眠〉の特殊系派生の一つ、〈超睡眠学習〉で仕入れた知識で、この〈果ての先〉の時代では一般家庭にも浴室が完備されているのがあたりまえなのは、ネルトも知っていた。


 けれどその中でも、この外気や外の影響を完全遮断して内部を快適空間に保つ、透明かつ強固な結界に覆われたこの絶景広々露天風呂が最上級の贅沢の一つであることは疑いようがない。


 ザバッ……!


 見上げれば、天上に瞬く満天の星々、見下ろせば人の営みという名のあたたかな地上の星々あかり。水音とともに立ち上がったネルトはかたくこぶしを握りしめた。


「よし……! いま決めたぜ……! これだ……! これを俺の目標あがりにするぞ……! 配信冒険者として一刻も早くデビューして、超人気で超モテモテの大金持ちになって、自分の力でタワマン買って露天風呂で、それで夢のこ、混よっ――!?」


 ガララ……!


 ぺた、ぺた。


 ――い、いまの音……!? と、扉を開けて、誰かが入って……来、た……!?


 ……否、すでにネルトは気づいていた。スキル〈睡眠〉の永続強化で得たその高い能力により底上げされた、実戦経験は足りなくとも親友ハワードのような英雄冒険者並となった研ぎ澄まされた感覚と、何よりも――今日一日ずっと一緒にいたという事実によって。


「ん。ネルおじ。わたしもいっしょに入る。だから、背中流しっこ、しよ……?」


 背中ごしに聞こえる甘い、甘い声。


 ――いま、その度量と覚悟と精神が限界を超えて試される。

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