寝すぎたオッサン、無双する〜親友カップルをかばって昏睡から20年、目覚めたら俺のハズレスキル〈睡眠〉が万能究極化してて最強でした。超人気配信冒険者の親友の娘姉妹が、おじサマと慕って離してくれません〜
寝すぎ19 試される度量と覚悟。……え? 限界超えるって物理的に?
寝すぎ19 試される度量と覚悟。……え? 限界超えるって物理的に?
てっきり食事を終えたと思い込み、唖然とするネルトの前にパフィールが置いた麺料理。
熱々の湯気を立てるそのラーメンの名は、このマンションの下層階にある〈天下一三郎〉のコッテリツヤツヤ野菜テラマウントマシマシギガントマックス。その特徴は、異常なまでのデカ盛りと濃厚という言葉では表せないくらいのコッテリさ。
まず、うず高く盛られたシャキシャキの野菜炒めの量はそれだけで大皿山盛り一皿分。その横に添えられたタレの染み込んだチャーシューは、むしろブロック肉のぶつ切りといったほうがふさわしいほどに超極厚。
これでもかと盛られた何人前あるのかという大量の麺。スープは、底の深いスプーンですくって逆さにしてもすぐには落ちないほどに半ペースト状で超濃厚。もはや、ただのラーメンとは別種と成り果てた一品、いや逸品が超巨大特製どんぶりに盛られ、そこに鎮座していた。
――え? あれ? 何これ? もう腹がけっこう限界なんだけど? そもそも、さっき俺の退院祝いを兼ねた食事って終わったんじゃ?
もう一度ネルトはそう思い、スピーリアを見るも。
「ずるずるずる。はぐはぐはぐ。もっもっもっも。……ん? ネルおじ。どうしたの? 早く食べないと、冷めちゃう。大丈夫。コレは子どもの頃からのわたしの大好物。絶対美味しい。絶対気にいる。わたしが保証する」
そう言って、それはそれは幸せそうに大好物をノンストップで食べ進めつつ、無邪気な青い瞳でネルトを見つめる。
――そのとき。ネルトの頭の中に強烈に昨日寝ながらインプットしたばかりの一つの映像、さわやかに笑ってインタビューに答える男の姿が浮かび上がった。
『ええ。やっぱり体が資本ですからね。食事には常に気をつけています。最大のパフォーマンスを発揮できるように、常に大量に、体が満足する美味くて魔力が豊富なものをって。その中でも〈天下一三郎〉のラーメンは最高に美味くていいんですよ。魔物肉や魔力含有野菜をふんだんに使ってて、量だって一番多いコッテリツヤツヤ野菜テラマウントマシマシギガントマックスなら、僕でも二杯で腹八分目になっちゃいますからね。実はまだ小さい下の娘も大好物で、さすがにまだ僕と同じ量は食べられなくて大盛り止まりなんですけど、いつかは「ハワぱぱと同じ量食べる」って意気込んでいるんです。はは。しばらくまた忙しいですが、またぜひ娘と行きたいですね』
『あ、あの怪物じみた量を、それも二杯食べてまだ腹八分目……!? さらにまだ幼い娘さんが、大人の私でもきついお、大盛りを制覇ですか……!? さ、さすがの健啖家ぶりです! これも英雄冒険者としての強さの秘訣の一つでしょうか! その血を色濃く受け継ぐ娘さんにもいまから期待大ですね! 以上、本日のゲスト、冒険者協会幹部のハワード・ピースフル氏でしたぁ〜!』
その語る内容にそぐわない、きらきらさわやかな笑顔に引き気味のインタビュアーのコメントでネルトの頭によぎる映像は途絶えた。
――は、ハワード……!? 寝る20年前も確かに大量にばかすか食ってたけど、お、おまえ……!?
カタン……。
「ネルおじ……。食べ……ないの……?」
自身の分を半分ほど食べ進んだところで箸を置き、妹のスピーリアがふたたびネルトを見た。
その不安げに揺れる父親ゆずりの潤んだ青い瞳に、ネルトは――
「い、いやっ! 食う食う! うっひょお〜! 美っ味そうだなぁ〜!」
「……ん! 最高に美味しい!」
――意を決して箸をとり、上に乗る山のような野菜炒めからバクバクと食べはじめるネルト。己を鼓舞しながら、一心不乱に大量の麺をすすり、極厚ブロックチューシューを食いちぎり、パンッパンに膨れ上がりもう無理ぃっ! と限界を訴えるはちきれそうな腹を無視して、ラードのような半ペースト状のテカテカコッテリスープを飲み下す。そして。
「ぷっはぁ……! な、なんとか……! く、く、食いきったぜ……!」
限界を超えた死闘を終えた
けっして長くはない時間。だが規格外のその量に何度くじけそうになったか。そもそも俺もう腹いっぱいなんだけど? それでもネルトは食べ進んだ。それは、すべて。
「ネルおじ……! 美味しかった、ね……!」
――この輝くようなきらきらとまぶしい笑顔を守るために。
「ああ……! スピー……! 最高、だったぜ……! ふ、あ……! わ、悪ぃけど、ちょっと……寝……る……」
本心からそう言って
そして、数分後にパッチリと目を覚ました。起きてすぐに腹をさするも、もうそこに異変はない。
――よし……! きっちり機能したな……! 万能究極化した俺のスキル〈睡眠〉の特殊系派生の一つ、〈睡眠時超消化促進〉……!
名前のとおり寝ている間の消化を促進するその派生スキルを最大限に使って、ネルトはわずか数分であの超カロリー爆弾の消化に無事成功していた。
その代わり、それ以外の効果はほぼ発揮されておらず、一日の終わりの疲れや気怠さなどはそのままだ。
「ふぁ……! まあ、いいけどな。メシも食ったし、あとは風呂入って寝るだけだし。……あれ? そういや、あのふたり、どこ行った?」
ガチャ。
「スピー? たくさん頼んだのはいいけど、そんなに食べれるの? あたしは〈天下一三郎〉食べてないから、まだまだ余裕だけど」
「ん。大丈夫。パフねえ。心配ない。スイーツは別腹だから」
――あ、え?
困惑するネルトの前に、戻ってきた娘姉妹の手にした皿が次々と広々としたテーブルの上を埋めつくすように並べられていく。甘い甘い匂いとともに。
「あ! 起きたのね! オジサマ! ちょうどよかったわ! さ、みんなでシェアして食べましょ! あたしの大好きな、さっきのレストランの一流パティシエが作ったスイーツの数々を! 三等分にしてもらったから、みんな全種類一回ずつ食べれるわ! パパからオジサマもなかなかのスイーツ好きだって聞いてるから、うれしいでしょ! ね?」
パフィールはそう言って、それはそれは幸せそうに大好物のスイーツの数々をひとしきり眺めてから、無邪気な赤い瞳でネルトを見つめた。
「……ああ、ああ! 超、超うれしいぜっ! 思わず涙が出るくらいにっ!」
そして、
「ふふ。どう? オジサマ? 美味しい?」
――この輝くようなきらきらとまぶしい笑顔を守るために。
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