寝すぎ15 無防備姉妹と、〈ネルおじサマ〉。……ん? いつもそうしてるの、知ってる?

「あーっ! もうっ! なんで家に帰るだけで、あんな恥ずかしいめに遭わないといけないのよっ! ただいま! いま帰ったわ!」


 ついさっき、タワーマンション内のセキュリティ用の魔導装置によって、容赦なく複雑な乙女心を暴露された娘姉妹の姉パフィール。


 いまだ興奮冷めやらぬ様子で玄関の扉をガチャッ! と開けると、ゆるく巻いた金色ツインテールをふりふりとみだし、悪態をついたままずんずんと中へと入る。


「ん。ただいま。わたしも、いま帰った」


 続いて、妹のスピーリアが銀色の髪をさらりと揺らしながら、ひょっこりと玄関の扉を潜る。


 そして、最後に入ってきたネルトは――


「う、嘘……だろ……!? こ、この玄関だけで……20年前に……俺が間借りしてた……宿の部屋より、広い……!?」


 ――圧倒、されていた。


 そのザ・小市民的考えかたでは、まったく想像できないまさに超大金持ち(セレブ)の家のスケール感に。


「あ、オジサマ? 知ってるかもしれないけど、靴はここで脱いでね? ここからは土足厳禁だから」


 備えつけられたベンチに腰かけながら、黒タイツに包まれた足を組み、パフィールはブーツの紐をほどいていく。


「あ、ああ! パフ! この20年でわかってきた知識の一つで、外で付着したいろんな目に見えない悪いものがついてるかもしれないから、家の中では靴を脱いだほうがいいって話だろ?」


「さっすがオジサマ! まあ、あたしたちにとっては、もうこれがあたりまえだし、単純に靴脱いでたほうがラクってのもあるけどね!」


 同じように対面のベンチに腰かけながら、靴ひもをほどいていくネルト。


 パフィールのような可愛い女の子が無防備に目の前で靴を脱ぐ――土足文化があたりまえだった、いままでの人生でなかった状況につい動揺し、受け答えにもそれが混じってしまう。


 それでも、その目はしっかりと組まれた足や太ももに向けられているあたりは、やはりさすがだった。


「ん〜! ふぅ……! すっきりした……!」


「っ!?」


 ――そのとき、さらなる動揺がネルトを襲う。


 パフィールの近くに腰かける、なんだか気持ち良さそうな声を上げるスピーリアへと目を向けると、そこにあったのは――生足至高


 靴はもちろん、白タイツまで片方脱いだスピーリアがそのしなやかな脚を伸ばし、足指をわきわきと踊らせている。


「ちょっと、スピー!? あ、あんた何やってんのよ!? お、オジサマの……前で……」


「ん? 何が? パフねえ? 家の中だとこのほうがラクだし、気持ちいい。いつもそうしてるの、パフねえだって知ってる?」


 頬を赤らめ、叫びながらもだんだん声が小さくなっていく姉パフィールに向けて妹のスピーリアはきょとんと首を傾げながら、あっけらかんと空中にそのしなやかな脚を躍らせて、すぴゅぴゅんともう片方のタイツも抜いていく。


 そうしてスカートに覆われた間際、指先から太ももの付け根あたりまで無防備にさらされた生足をばっちり堪能したネルトだった。


 ――が、同時に戦慄する。


 う、嘘だろ……!? 俺、まだ家の中に入ってすらねえぞ……!? なのに、このふたり、特にスピー……! さっきのここに来るまでの魔導車の中でもそうだったけど、どんだけ俺に対して無防備なんだよ……!?


 ――いまさらながらに、ネルトはやや後悔する。


 いくら無二の親友の娘たちとはいえ、いや無二の親友の娘たちだからこそ、この無自覚無防備な誘惑の多い美少女娘姉妹との一つ屋根の下の同居生活を安易に決めたことに。


 ……とは言っても他にアテもねえし、まがりなりにも負かしたハワードのやつにも『パフとスピーを頼む』って託されたしな……!


 仕方ねえ……! いざとなったら、奥の手を使うまでだ……! そう……! 万能究極化した俺のスキル〈睡眠〉の力で、ハワードとフィーリアの信頼と、ふたりから慕われるこの〈ネルおじサマ〉の立場……! 必ず守りとおして見せるぜ……!


 ――そうかたくネルトは、心に誓う。


 とりあえずのところ、いまは――無防備に生足をさらした妹を見て急に恥ずかしくなった姉パフィールが頬を赤らめ、ひざを立てながら靴を脱ぐ仕草をじっくりと目で楽しみながら。

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