寝過ぎ4 って、なーんでオジサマが悶絶してんのよぉぉっ!?

「ふひいゃあああぁぁぁっ!?」


『『『『ずbLをpかかtざ!ふe?たやぃせ』』』』


 ――無理!? もう一秒だって本当に無理ぃっ!?


「す、スキルっ! 〈肉体超活性〉っ!」


 ネルトの病室のベッドと床に並ぶ100台を超えるスマホから大音量で垂れ流され超高速再生された、混ざりに混ざった別々の情報による意味不明な言語と、もはや音の暴力と化した大洪水。


 まるで尾を踏まれた子猫のような悲鳴を上げながら、ぺたんと床の上に座りこんで耳をふさいだ少女パフィールは、たまらず自らのスキルを発動させた。


 〈第一の果て〉にたどり着いた歴史的英雄冒険者のひとり、父ハワードの才能を色濃く受け継いだ、妹と並び彼女自身を超一流配信冒険者へと押し上げた〈肉体超活性〉のスキルを。


「みみっ! 耳っ! 耳ぃぃっ!」


 本来は、もちろん自身の生体魔力の精密操作にそんな命令など必要ないが、叫ばずにはいられなかった半泣きのパフィールは力のかぎりにそう叫んだ。


 すぐにその意思に呼応し、パフィールの耳に魔力が集中してより強靭に、さらに薄い何層もの魔力でできた膜が形成され、耳栓の役割を果たしていく。


「ふ、ううぅ……! 何なのよ、これぇ……! オジサマぁっ……! そこで気持ちよさそうにのんきにすぴすぴ寝てるスピーは……! どうせスキルで外界との感覚遮断してるんでしょうけどっ……!」


 〈肉体超活性〉のスキルのおかげで、それでもようやく騒音と言って差し支えない程度に弱められた意味不明な音の大洪水の中でパフィールはよろよろと立ち上がる。


「ゔ……んゔぁ……? ぶ、ぶぎぃやばああああああぁぁぁっっ!?」


「って、なーんで起きた途端にオジサマが悶絶してんのよぉぉっ!? いまのいままで平気でぐーすか寝てたじゃないぃっ!?」


 乱れてしまった自慢のゆるく巻いた金色ツインテールを整えながら、半泣きの恨みがましい赤い瞳をベッドの上のネルトに向けていたパフィールに思わぬことが起きる。


 パチリと目を覚ましたと思ったら、途端にネルトがその両耳を抑え、部屋の角にいるパフィールの比ではないほどに悶絶しはじめたのだ。


 もちろん、尾を踏まれた子猫のような可愛らしいものではなく、ダミ声で。


「びぎぃやばああああああぁぁぁっっ!? があああっ!?」


「いいのねっ!? オジサマっ! 止めちゃっていいのねっ!?」


 ダミ声で悶絶し、片耳を抑えもう片手で半泣きになりながら乱暴な手つきで次々とベッドの上のスマホの再生を止めていくネルト。


 それを見たパフィールもまたものすごい速さで次々と床の上に並べられたスマホの再生をダダダダダ!と指で止めていく。


「ぎびじばああああぁぁぁっ!?」


「ネル……おじ……? ん、んぅ……?」


 そのとき、泣き叫ぶネルトの乱暴な手つきで揺れたベッドから眠っていた妹のスピーリアがずり落ちる。


 そして、寝ぼけまなこできょろきょろと辺りを見回すと――


「スキル〈精神超感応〉。うるさい。全部止まって」


 ――発動した自身のスキルで、一瞬で残り全てのスマホの再生を停止した。


「っっあ……!?」


 さっきまでの凶乱が嘘のように静まり返ったネルトの病室。


 あとに残るのは、部屋全体に無差別に広げられた妹の静かな怒りをこめた停止命令の魔力精神波にあてられて、まるでボス猫ににらまれた子猫よろしく自慢の金色ツインテールを尾のようにぴんと逆立て硬直した半泣きの姉パフィールと。


「あ、あ……ば……びゃ……?」


 さらに超至近距離で完全に無防備にくらったせいで、かっちりとかたまり、まったく身動きがとれなくなったネルト。


「ふ、ぁ……んぅ……? 静かになったから……もうちょっと……寝る……」


 その全てを放置して、またベッドに突っ伏してすぴすぴと気持ちよさそうに寝息を立てはじめるマイペースな妹スピーリアという、混沌極まる光景だった。

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