第23話 幕間 ④
「メイちゃん、自信満々に言ってた会得した料理ってゆでたまごだったの……?」
「ゆでたまご、だったの……」
「で、そのゆでたまごも失敗した。姉ちゃん、なんか作ってくれ。俺ら餓死する……」
「餓死する……。サキ姉……お願い。あたし、もう調子乗ったこと言わないから……」
「……ハァ」
姉貴の口から、あきれたため息が落ちる。俺とメイは揃って土下座を敢行した。
「……今からだとかんたんなモノしか作れないけど、いい?」
「サキ姉のかんたんなモノ、超歓迎!」
「……じゃあ作ってくるから、ちょっと待ってて」
そう言って、姉貴がキッチンの奥へと消えていく。その背中に俺は感謝の念を送った。
なんだかんだ来てくれて、なんだかんだで作ってくれる。最高の姉貴だ。あとは待つだけ。
そして、三十分後――。
「おぉ……なにこれ、クッソ美味しそう……」
「マズそうに聞こえるんだけど……」
食卓に並んだ料理の数々を見て、メイが感嘆の声を漏らす。応じる姉貴の言葉はそっけなかったが、まんざらでもなさそうではあった。
意外と姉貴はシンプルだ。
喜怒哀楽を顔に出すタイプではないが、褒めると素直に喜ぶ。弟だから分かる、微細な姉の心情だった。
ともあれ、この料理が褒めるまでもなく絶品なのは間違いない。
俺とメイはものの数分で目の前の料理を平らげた。うん、もはやセミプロだ。
「さすが姉ちゃん、来月でついに四捨五入するとアラサーに突入するだけはあるな」
「四捨五入すんな」
冷めた視線と共に落とされたげんこつが、思いのほか痛かった。地味に怒ってたらしい。
「そう言えば、メイちゃん。借りた小説、おもしろかったよ。悪くない出来だった」
「ホントに!? サキ姉に褒められるのが一番うれしい! 犯人、意外だったでしょ?」
「うん、予想外だった。トリックはちょっと無理があると思ったけど――」
「なあ、メイ。たまには俺にも読ませてくれよ。なんで姉ちゃんにしか貸さねーのよ?」
「えっ、だって……漢字とかあるよ?」
「いやあっても問題ねえわ! 俺を何歳だと思ってやがる!? 全部ひらがなで書かれてるほうが読みづれー年齢には達してんだよ!」
「達してるみたいよ、一応」
「達してるふうに見えないんだけど……」
「…………ッ!」
俺はそこまで馬鹿だと思われてたのか……?
確かに字が多い漫画は読み飛ばす傾向あるし、目と耳とかそんなとこばっかメチャクチャ良いし、体育の成績とその他の科目の差も激しかったけど、そこまで馬鹿じゃない。自分では中の中から少しだけ下くらいのレベルだと思っている。
が、姉貴といい、メイといい、下の中くらいに俺を扱ってるような気がする。心外だった。
「……茶化すことが目的だったりしない?」
「しないよ。真面目に読んで真面目に感想返す。良いことばっか言うとは限らねーけど」
「それは全然かまわない。むしろ望むところよ。おもしろいって言わせる自信はあるけど。ヒョウ、ぜったい最後まで犯人分からないよ。超意外な人物だもん。そう来たかー、って」
メイは自信のまなこでそう言うと――でも、最後はいたずらっぽく笑って話を締めた。
「あっ、でも意外って言っても、今までに一度も登場していなかった人物が犯人とか、そういう小学生が読んでもクソ認定するような展開じゃないから安心してね。あたし、それ中三のときに書いた
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