第12話 幕間 ➁
「今頃アイツ、異世界で楽しくやってんのかなぁ……」
虎谷が死んでから、三か月が過ぎた。
最初の三日は茫然自失。
頭にかかったもやが、四六時中、リアリティーを消し飛ばしていた。
何が起こったのか理解できない。
否、理解はしていたが受け入れたくはなかった。
が、一週間が過ぎ、二週間が過ぎ、一か月が過ぎると、段々と悲しみの心が薄れていった。
薄れることなどありえないと思っていたのに、嘘みたいに薄れていったのだ。
人間はそれができるから生きていけるのだと、俺はこのとき改めてそう思った。
そう思って、さらにそこから二か月が過ぎた。
二か月が過ぎると、だがときおり思い出したように寂ばくの念が心のうちに押し寄せる。
今もちょうど、そのタイミングだった。
「姉ちゃん、つまんねーよー。どっか遊び行こうぜー。どっか連れてってよー」
俺はその感情を押し殺すように、姉貴に向かって無邪気でクソな言葉を投げかけた。
「なんであんたと遊び行かなきゃなんないの。一人で遊べ。あたしを巻き込むな」
「一人で遊んだってつまんねーよー。メイは友達と出かけてるし、俺は友達いねえし……」
「…………」
姉貴の表情が若干と変化する。
が、彼女はすぐにその変化を打ち消し、
「……じゃあ、買い物でも行く?」
「行く行く! 帰りに何か食ってこーぜ! もちろん、姉ちゃんのオゴりで!」
「その代わり、あんたは荷物持ちだからね」
「りょーかい!」
俺はことさら明るく応えて、勢いよく立ち上がった。そのまま、スマホを手に取りリビングを出る。一人になったところで、俺はつぶやくように吐き落とした。
「記憶、あったらいいな。おまえのままで、新しい人生を歩めてたらそれだけで半分転生成功だろ。たとえ人間じゃなかったとしても、記憶がないよかはるかにマシだもんな」
でももし――。
仮にもし――。
俺は細く長い息を吐くと、その先の言葉を乾いた空気にゆるりと流した。
「でももし記憶がなかったとしても、おまえはおまえだよ。どんなヤツに転生してるか分からねーけど、そいつは間違いなくおまえだ。おまえだよ、虎谷信人」
異世界転生――荒唐無稽と知っても願う。
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