第193話 根腐れ知らずの花紅柳緑
「ソウルイーターパラダイス作戦は却下されたので、ここらで新しいモンスターを作ってみようと思います」
「かわいいんですけどねえ。ソウルイーター」
さすがはフィオナ様だ。
あの子はかわいいし、頑張っていることを、よく理解している。
まさか、頑張りすぎてしまうため、監査役二人に増やすことを却下されるとはな。
「ガシャ、いいですよねえ……。誰かの結果であれば、安心して見ていられます」
「まあ、これに関してはハズレとかないので、回す方としても安心できるんですけどね」
「そんな夢のようなガシャが……」
ショックを受けているけれど、フィオナ様のガシャだって同じだと思う。
蘇生薬一点狙いだから、他のすべてがハズレに見えるだけで、それらを分け与えられた者たちからの評判は上々だからな。
「それじゃあ、久しぶりに上位モンスターを作成しますね」
上位モンスター作成:消費魔力 20
けっこう前に解禁されたメニューだけど、これ以降は上位メニューとか解禁されないなあ。
もしかしたら、ここで打ち止めなのかもしれない。
まあ、ソウルイーターみたいな、かわいくて強い子ができることもあるし、十分かもしれないな。
ちょっとアホの子っぽいけど。
「む~~……」
ところでだ。
俺に両手をかざして、うなっている魔王様ってなんなんだろう。
その気になれば、その手のひらから炎が生み出され、一瞬で消し炭なんだよなあ……。
そんなことは、絶対にしないだろうけど。
「なにしているんですか? フィオナ様」
「祈っています。力を送っています」
……むしろ、不運になりそう。
いや、さすがに失礼だし、泣かれるからやめておこう。
俺がここで、なにかしらを当てればいいだけだ。
「じゃあ、改めて」
魔力を消費することで、何もない空間になにかが現れる。
この光景にも慣れたものだ。
ソウルイーターのような前例もあるし、ちゃんと広い空間で行うことも忘れていない。
さて……けっこうでかいな。
姿を成形途中なので、シルエットだけしか見えないが、なかなかにかさばる見た目っぽい。
これは……ツタ? それに鮮やかな真っ赤な花?
なるほど、どうやら今回作成できたのは、植物系のモンスターのようだ。
食人花(赤) 魔力:50 筋力:53 技術:18 頑強:66 敏捷:27
動きが遅く技術もないけれど、他のステータスがなかなか高い。
特に頑強は、聖光の刃の攻撃も耐えられそうなほどだ。
それにしても、気になるのは赤という文字だ。
これって、たぶん他の色もあるってことだよな。
「人食い花ですか。ソウルイーターほどではありませんが、なかなか大きな体ですね」
「こいつがいるだけで、ダンジョンが一気に緑化しそうですね」
もしかして、温泉と融合した果樹園の呪いだろうか。
いや、それにしてはちゃんとこちらに懐いてくれているし、考えすぎだな。
「では、次を回しますね」
「ええ、きっといい結果になりますよ」
根拠のない自信だが、なんだかんだでそんな気持ちにさせてくれる。
見た目はいいからな。美人の応援は力になるものなのだろう。
「それじゃあ、次は」
◇
「だぶった……」
「レイ、落ち着いてください。色とりどりでいいじゃないですか」
食人花(青) 魔力:54 筋力:47 技術:20 頑強:72 敏捷:21
食人花(黄) 魔力:52 筋力:51 技術:15 頑強:73 敏捷:23
食人木 魔力:50 筋力:50 技術:18 頑強:75 敏捷:21
ええい、どいつもこいつも似通ったステータスしやがって。
そして木にいたっては、花もついていないし。
見た目は植物なので、なんとも癒される光景じゃないか。
「基本的には、頑丈な種族なんですね。こいつらって」
「そうですね。頑丈というか、生命力が高いので、粘り強く戦ってくれますよ。そう! 私のガシャへのあくなき挑戦のように!」
「じゃあ、負けるじゃないですか」
「……」
「ふぉめんなさい」
おのれフィオナ様。
最近では、無言で俺のほおをつねるようになって、ずいぶんと遠慮がなくなってきたじゃないか。
「魔王様。レイ様。べたべたしているところ失礼します」
「してませんけどぉ!?」
してないな。
むしろ、互いの意地をかけて戦っていたところだ。
まったく、プリミラにも困ったものだな。
「それよりも」
「それよりも!?」
「魔王様うるさいです」
「魔王の意見なのに……レイ」
「はい」
フィオナ様をなぐさめつつ、プリミラの言葉を待つ。
まあ、なんとなくはわかるけどな。
「植物のモンスターをたくさん作ったのですね」
「ああ、俺の意志じゃないけど」
ここまで全部が全部植物となると、果樹園から本当になんらかの派生が起こったんじゃないかと思ってしまう。
今度、温泉にマグマを入れ続けてみようかな……。
そうしたら、炎系のモンスターが生まれるのかもしれない。
……ピルカヤが、また自分のほうがすごいとアピールしそうだけど。
「もしよかったら、私に預けていただけませんか?」
「いいけど、もしかして畑や果樹園の人手でも足りなくなった?」
言ってくれたら、いつでもモンスターを作成したのに。
しかし、プリミラは首を横に振る。
人手は足りているということだが、まあそうか。
ダークエルフたちも、よく手伝ってくれているもんな。
「ここまで植物らしいモンスターとなると、私の畑で成長できないかと思いまして」
「……なるほど。ありえそうだな」
あの畑、なんか作物が大きかったり成長速度が速かったりするからな。
案外モンスターにも有効かもしれない。
「では、しばらくお借りいたします」
「ああ、ということだ。みんな、しばらくはプリミラの下で働いてくれ」
◇
そんなやり取りから数日。
俺とフィオナ様は、プリミラに畑にきてくれと呼び出された。
「健やかに育ちました」
「ツタの数すごいことになってるな……」
食人花(赤) 魔力:50 筋力:53 技術:18 頑強:70 敏捷:27
食人花(青) 魔力:54 筋力:47 技術:20 頑強:76 敏捷:21
食人花(黄) 魔力:52 筋力:51 技術:15 頑強:77 敏捷:23
食人木 魔力:50 筋力:50 技術:18 頑強:79 敏捷:21
だが、ステータスのほうは、頑強だけが伸びている。
手数が増えて、他のステータスも上がるかと思ったが、そう簡単な話でもないらしい。
「収穫も手伝ってくれるのでいい子たちです」
「ああ、たしかに。ツタが多いから、効率がよさそうだ」
じゃあ、やっぱり攻撃の回数とかも増えているんじゃないか?
ステータスには反映されない強化ってことなのかもしれないな。
まあ、いずれにせよ、この子たちのダンジョンデビューはまだだからな。
そこで、どのくらい戦えるのか見てみることにしよう。
「ふむ……私もツタとか生やしましょうか?」
「どういう思考からそうなったんですか」
「手数が増えるので、レイの頭をたくさんなでられますよ?」
「でも、ツタですからね。手の方が……」
しまった。
なんか自然な会話だったので、つい本音が漏れそうになった。
……あ、だめだこれ。ばれた。
フィオナ様が、にやにやしながら調子に乗っていらっしゃる。
「ほ~う? つまり、レイは私の手で頭をなでてほしいと? 甘えん坊ですね~」
「……まあ、ツタよりそっちのほうが似合ってますよ。フィオナ様は」
「それじゃあ、たっぷりなでてあげますからね~。寝室に行きましょう」
「いや、まだ仕事中で……」
なんだこの力。
ツタとか生やさなくても、その細い二本の腕で十分じゃないか。
さすがは魔王。その圧倒的な力で、今日も下っ端魔族をいじめるつもりだな。
「みなさん。あれが魔王様とレイ様です。仲睦まじいですね」
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