第186話 原作キャラたちによる強化合宿

愛美まなみ。その後、国松くにまつとの連絡はどうだ?」


「全然ね。国松も自分の国で、完全に自由に動けているわけではないみたい」


「エーニルキアの王め。相変わらず、有望な転生者は自分のものか」


「でも、国松さんは、ぼくたちに会う前は、一人でダンジョンに来るくらい自由だったみたいですよ」


「お前たちと協力関係になったからだろうな」


「私たちと?」


「うむ。お前たち姉弟は、我が国の転生者であることを国松に話している。それは、エーニルキアの王にも伝わっただろう」


「たしかに、私たちの国に来ないかって話はしたけど……」


「その勧誘が、連中を警戒させているのだろうな」


「……無理やりこの国に連れてくればよかったわね」


「たしかに国松は欲しい。ジノもな。だが、やつらの国の者たちも、魔王と戦うのならば重要な戦力だ。ここで、反感を買って、魔王との戦いから降りられるのも困る。あの場はお前たちの判断が最適だった」


「結局、今までと変わりなしね……前進したと思ったんだけどな~」


「前進はしているとも、なにせ広貴こうきしかいなかったはずの、ゲームプレイヤーを二人も仲間にできたのだからな」


「ジノのほうは、会ってもないけどね」


「国松が仲間である限り、時間の問題だろう。勇者リックたちもな」


「でも……まだ足りないと思います」


「ああ、魔王の恐ろしさは伝え聞いている。仲間は多いほうがいい。人類だけではなく、転生者もな」


    ◇


「ジノ。残念ね」


 珍しく、いつものような薄ら笑いではない。

 余裕がない。そんなことが伝わる真剣な表情だった。


「あなたのことを、本格的に賢者として育てないといけなくなったわ」


「あのバカはともかく、まさかロマーナたちまで失うことになるなんてね……」


「つまり、俺はその代役となるべく、強くならないといけないと……」


 ずいぶんと無理難題をと思いそうになったが、途中で気持ちを切り替えた。

 ロマーナはたしかに強い。エルフの国ヤニシアの中でも、有数の実力者だった。

 だけど、勇者ではない。彼女たちの強さでさえ、魔王には太刀打ちできない。

 魔王を倒して元の世界に帰るというのであれば、あれ以上の実力は身につけなければならない。


「それが一番理想的だけど、まあ、さすがにそんな無茶は言わないわ」


「え?」


 決意したのだが……どうやら、俺の飼い主たちはそこまで期待していないようだ。


「ロマーナを失っても、まだ私たちがいるからね。さすがに、この状況では部下に任せてられないわ」


「だから、あなたを鍛えるのは私たちよ。しばらくは、外の世界に行けなくなるけれど、問題ないわよね?」


 問題ないかどうか。

 彼女たちは、それを俺に聞いているわけではない。

 もう決定事項であり覆ることはない。


 だが、いいだろう。

 いい加減、俺も国松もいつまでも勇者に守られるだけではいけない。

 最高評議会のエルフたち。まぎれもないこの国の最強の戦力。

 彼女たちに直々に鍛えてもらえるのであれば、今まで以上に強くなれるはずだ。


「ええ、よろしくお願いします」


「あら、やる気はあるのね」


「それじゃあ、しばらくは毎日怪我することになるけど……手加減は得意だから、安心してちょうだい」


 そう言って、目の前からフアナの姿が消え……。

 風? 魔力が膨れ上がって、急に目の前……。

 痛み? わからない。

 なにも、わからな……。


「だめね。全然だめ」


「しょうがないでしょ。なるべく安全に、時間をかけて数千年以上の計画で育てようとしていたのだから」


「困ったわね。ロマーナを失ったから、新しい隊長が欲しかったのだけど、まだまだ時間がかかりそうだわ」


「私たちが行動するにしても、国を守れる部隊くらいはほしいものねえ」


「ジノ、起きなさい。回復はしてあげたでしょ。あの程度の速さ、ロマーナなら簡単に対処できるわ」


「ロマーナほどは期待しないと言っても、ある程度はできてもらわないと困るの。せめてなにか反応できるまで、続けるわよ」


 ……なるほど。

 自分がいかに温室の中で育っていたかわかった。

 いいだろう。せめて、防御くらい……。


「また、だめ」


「まずは、目で追えるくらいはしてほしいわね」


「回復終わったわよ。さあ、ジノ起きなさい」


 や、やってやるとも……!


    ◇


「話はわかった」


 おおとり姉弟と別れ、国に帰って早々に王に呼び出された。

 どうやら、僕の動向に王が興味を示したらしい。

 珍しいこともあるものだと、聞かれたことを答えていくと、王はため息とともに眉をひそめた。


「やはりか。サンセライオの者が多いと聞いたが、こちらの転生者を狙うとは」


「ね、狙うと言いますか……転生者同士で、協力できるようになっただけだと思います」


「その、姉と弟はそうだろう。だが、あの国の王であるリズワンは、あわよくばお前を自身の国の者にしようと考えているだろうな」


 あの国の王様、だいぶ行動力があったからなあ……。

 他種族とか、他国とか、おかまいなしに気に入った者は自国に勧誘していたっけ。

 なんだったら、この国の勇者であるリックたちも、ゲーム中は勧誘されていた。


「クニマツ。お前は他の転生者たちとは違う。いずれ来る魔王との戦いにおいても、その力が必要になるだろう。どうかこの国で、リックたちと共に魔王に立ち向かってくれ」


「は、はい!」


 意外だ。王にまで、そんなことを言われるとは……。


「とはいえ、リズワンたちが干渉してくる可能性は高い。クニマツよ。そのダンジョンに通うつもりはないのだな?」


「は、はい。あそこは想像しているよりも危険な場所みたいなので、僕だけでは対応できないかと……」


「ならば、ちょうどよかった。サンセライオの者たちとはしばらく会わないほうがいいだろうな」


 せっかくできた転生者の仲間だけど……。

 王としては、転生者という人員を他国に奪われたくないということか。

 だったら、今確保している者たちを、もう少し面倒を見てもと思わなくはないけれど……。

 転生者が自主的に行動するように、あえて指示は出していないのかな?


「リックたちと共に行動するといいだろう」


「えっ!?」


「不服か? 勇者との仲は悪くないと聞いていたが」


「い、いえ。足手まといになりそうなので……」


「気にする必要はない。どの道あの者たちも、魔王と戦うときには、他者と協力しながら戦うことになる。各種族の勇者とそのパーティのみで挑んだ結果が、魔王による勇者の皆殺しだからな」


 そうだ……。

 魔王は、リックたちのパーティが万全な状態で挑んでも勝てなかった。

 魔王以外は倒せたということだが……おそらく、状況から考えると生き残りもいるはず。

 現に、ピルカヤはかろうじて生き残っていたからね。


「わかりました。リックたちに、頼んでみます」


「それがいい。他国と協力するのもいいが、まずは自らの力を鍛えることも必要だ」


 たしかに……いい加減、レベルを上げないとね。

 リックがいなければ、死にかけのピルカヤにすら太刀打ちできなかった。

 愛美さんと広貴くんがいなければ、ダンジョンの中で死んでいた。

 仲間集めも必要だけど、僕はまだまだ地力が足りていない。


「では、話は以上だ。今後も活躍を期待している」


「ありがとうございます。それでは、失礼します」


 活躍……しばらくレベル上げだから無理そうだけどね。


    ◆


 対峙して理解した。魔王は自分たちよりも強いと。

 今になって、もっとこうしていたらという考えが出てきそうになるのを、ぐっと押さえつける。


「あとは魔王を残すだけ、ここで負けるわけにはいかない……」


 魔族の拠点。地底魔界に住まう者たちは倒した。

 四天王たちも、手ごわかったが仲間たちとともに倒してきた。

 だから、こんなところで負けるわけには……。


「何度も何度もこの繰り返し……いい加減、うんざりする……」


 魔王がつぶやく声は冷たい。

 しかし、怒りを含んではいるものの、その怒りは、それどころか敵意すらも、こちらに向けられてはいない。

 だというのに、そんな魔王が相手だというのに、このままでは勝てない。

 それが薄々理解できてしまった……。

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