第185話 美辞麗句が苦手な男
「南の国サンセライオ。海が近くて、住んでいる人たちは褐色で、いかにもって感じのリゾート地みたいな国だな」
「で、でも、暑そうですよ? うちは太陽こそないものの、良い国だと思いますよ?」
まあ、そこらへんはいずれ俺たちの国も、あんな国にしてみたいものだ。
それか、水の国アルマセグシアのような、巨大な港町みたいなのもいい。
うちの場合、太陽はないけれど魔力のおかげか、そんな陰気な感じもしないし、賑やかな夜の街みたいなのがいいかな?
「向こうにもカジノはあるみたいだな。さすがに、一朝一夕で作ったうちのより大きい」
「で、でも、宝箱はありませんし、賑わいならうちだって負けていません!」
宝箱は、そう簡単に数を集めるのは大変だろうからな。
ダンジョンならば、放っておくだけでも作れるみたいだけど、それ以外となると魔力の濃度が相当高くないといけないらしい。
クララも言っていたが、秘境だったり神域のような場所でないと、発見は難しいようだ。
「食事は海産物がメインか。このへんは、アルマセグシアのほうがさすがに上だな」
「うちには、マギレマがいますから。最終的な料理は、うちのが上じゃないですかね!?」
……さっきから、フィオナ様が俺に地底魔界をプレゼンしてくるのはなんなんだろう。
それらの情報は知っているというか、俺とフィオナ様で一緒に地底魔界を作っているじゃないか。
「あの……知っているので、言わなくても大丈夫です」
「知っているのなら、うちだって捨てたものではないと思いますけどねえ!」
「捨てたものというか、俺は地底魔界のほうが好きですけど」
「な、なんだ。なら早く言ってくださいよ。まったく、もう……」
もしかして、自分の国に自信がなかったので、他の国への対抗心を燃やしていたのだろうか。
それなら俺も協力して、このダンジョンというか国を発展させていかないとな。
「ついに、うちを捨てて他の国に行くのかと心配したじゃないですか」
「それで、やけにアピールしてきたんですね。俺がここから離れるはずないじゃないですか」
「そ、そうですよねえ! レイは私のですもんね~!」
機嫌よく俺の頭をなでるフィオナ様を見るに、やはり自分の国が他に劣っていないか心配だったようだ。
そもそも、俺が出会った時点では地底魔界はすべて崩壊していたからな……。
この国というかダンジョンを作っているのは俺であり、そこが魅力的でないのなら俺の責任のほうが大きい。
「二人でがんばりましょうね」
「え、ええ! レイがいれば、私はそれだけで満足ですから!」
たしかに、俺がいればダンジョンの施設は作れるもんな。
だが、そこの住人や、各種職業の者たちまではまかなえない。
やはり、蘇生薬が今後も必要ということだ。
小さいながらもずいぶんと活気に満ちていて、良い国ということはわかった。
さすがに、国のすべてを見通すのはピルカヤでも無理なので、どれほどの戦力や主要キャラ、転生者がいるかはわからない。
しかし、
連中は別行動ということで、ジノのときと同じような協力体制だけ築いたというところか。
「強そうなのは、やっぱり王であるこの男か」
リズワン。
若々しいながらも、れっきとした王であるらしく、国民からも慕われていた。
ステータスを見てもわかるように、戦闘能力は非常に高く、リピアネムがそわそわしている。
そんな王は、ピルカヤが遠めから観察しているとも知らずに。
……お説教されていた。
『なにしてんだ。あんた』
『運命の出会いを果たしに!』
『部下も連れず、たった一人でダンジョンに?』
『王としてではなく、一人の男リズワンとして体験したくてな』
『まさか、ダンジョンの奥まで進んでねえだろうな』
『はっはっは! さすがの俺も、それを自重するくらいの常識はある!』
『そもそも、一人でダンジョンに向かう王なんて、言語道断なんだよ』
すっごい、怒られている。
なんか、既視感もある……。
「リズワン……侮れませんね。あれだけのお説教が、まるで
どこに感心しているんだ。
というか、前回のガシャの件といい、フィオナ様と気が合いそうな王様だな。
「私もいずれ、プリミラのお説教に耐えられるように……」
「では、慣れるまでお説教しますね」
「じょ、冗談じゃないですか~」
「私なら、いつでもいくらでも、魔王様をお説教できますが?」
「で、できなくていいです!」
こっちは、まだまだ部下のお説教が通用することを考えると、リズワンという男、たしかに侮れないな……。
しかし、この姿でさえ主要キャラのように見えてくるな……。
豪放磊落で、行動力のある王様。いかにも、主人公たちの仲間になってくれそうじゃないか。
道を歩きながらお説教されているというのに、国民たちは幻滅するどころか楽しそうに観察し、時には応援の声までかけている。
「この王様。カジノと宿以外には行かなかったんだよな?」
ロペスに尋ねると、少し記憶を整理するそぶりを見せてから、答えが返ってくる。
「ああ、特にダンジョンの奥には近づきもしなかったぜ。この説教の内容を聞く限り、万が一がないように警戒していたのかもな」
となると、警戒心は国松たちに匹敵するかもな。
あるいは、ロペスのように直観か。
なんとなく、この王の人物像からすると、後者のほうがイメージに合っている気がする。
「
うち、転生者もそれなりにいるんだけど、ゲームプレイヤーが奥居だけなんだよなあ……。
そして、そんな彼女も大してゲームをやり込んでいないどころか、リピアネムに殺されて諦めたらしいので、不完全な情報しかない。
「すみませんが、あまり詳しくなくて……ただ、あの王様は味方キャラだったみたいです。それも、だいぶ強いし頼りになると言われていました」
「奥居自身は、仲間にしなかったのか?」
「国に行っても、とくにイベントが起きませんでした……。あの王様、いろんな場所に行ってしまうので、そもそもほとんど会えませんし」
「なるほどな。どおりで、うちのダンジョンにも来るわけだ」
好奇心を押さえきれずに、部下たちに苦労をかけるタイプの王か。
そして、その中でも線引きを行えているため、それが原因による問題は起こらないと計算できていると。
「リピアネムに倒してもらえたら楽なんだけどなあ……」
「行くか!?」
「待った」
「うむ」
「あの王様、どうせダンジョンの入り口にしか来ないと思う。そんな場所にリピアネムを派遣したら、大騒ぎどころじゃない」
そう言うと、リピアネムも納得してくれたようだ。
俺の罠やモンスターによる襲撃も、おそらく意味はないな。
というか、国松と違って、あの王様ならソウルイーターくらいなら倒しそうだ。
「かくなるうえは……あの王を破滅させますか」
「どうしたんですか? 最近魔王っぽいですよ?」
フィオナ様が、まるで魔王みたいなことを言い出した。
「魔王ですけど!?」
そうだけど……そうじゃないというか。
フィオナ様っていうのは、もっと魔王らしくなくて、残念で、かわいらしい存在だと思うんだ。
「まったく! 生意気な口はこうです」
「ひゃい」
フィオナ様は俺のほおをつねりながら、先ほどの続きを話した。
「あの王は、どうにも今回の欲望のダンジョンと相性がいいはずです」
「たしかに、本心からたのしんで、いまひたね」
喋りにくい……。
「ええ。なので、このままカジノに入り浸らせて、あの王を破滅させてやりましょう!」
「いやあ……はすがに、王のしひん力をなめてまへんか?」
「王とはいえ、自由に使える資金力は意外と少ないものなのですよ……私だって、玉座の魔力を使ったら、プリミラに怒られたじゃないですか」
それもそうか。
どうやら、リズワンにも優秀な部下はついているみたいだからな。
勝手に国の資金なんて使わせるはずもないか。
さすがは経験者だ。よくわかっているじゃないか……。
なんですか? なんで、ほおをつねる力が少し強くなっているんですか?
「なんか、変なこと考えていたでしょう?」
「ふふうのことです」
普通だよな? うん。いつもどおりのことしか考えていない。
誤解がとけたのか、ようやくフィオナ様は、俺のほおから指を離してくれた。
「頻繁に欲望のダンジョンに通うっていうのなら、他の客と同じように扱いましょうか」
「ええ。ただし、リズワンにはあたりのテコ入れはなしです」
そもそも、一度自力で当てているからな。
それも込みで、他の客と同じ扱いだ。贔屓はしないし、逆に不当な扱いもしない。
できれば、国の資金をつぎ込んでほしいが、期待はできない。
うちのダンジョンを適度に楽しんでもらい、せめて魔力と金を落としていってもらうしかないか……。
◇
「ボスがやべえ」
「魔王様相手に、あそこまで軽口を叩けるのは、さすがにレイ様だけじゃないかねえ……」
「心臓に悪いからやめてもらいたいような、あのお二方の場合は気にしないほうがいいような」
「四天王様方でさえ、あそこまでとはいかないからねえ……」
「もしも俺たちが真似しようものなら、頬肉を引きちぎられるだろうな……」
「いや、顔面を潰されてると思うよ……」
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