第181話 たまに行う魔王らしいこと

「レイ。いいことを思いつきました」


「なんですか? 蘇生すべき魔族のことですか?」


 気が早いが、次の蘇生対象を考えてくれたのだろうか?

 フィオナ様ってガシャは外すけど、そこを外したことはないからな。


「プリミラの武器のこともありますから、次回はテクニティスあたりを考えています」


「ああ、魔法工芸とか魔法細工とか、その役割の魔族ですか」


「ええ、きっとプリミラが今より強くなりますよ」


 そういえば、今のプリミラがどの程度の強さかは、ステータスでしか知らないな。

 まあ、ディキティスより強いと考えると、俺のダンジョンくらい簡単に突破できるってことだろう。


「話がそれましたね。いいことを思いついたのです」


「プリミラ強化の話じゃなくてですか?」


「ええ、ダンジョンのことです。ダークエルフの村近辺に作ったダンジョン、最近面白いことになっているじゃないですか」


「ああ、欲望のダンジョンですね。ロペスが考えてくれたので、カジノでお金を回収するようにしました」


 案外うまくいっていて、ダンジョンで稼ぐという目的から、カジノで稼ぐという目的に変わっている者も多い。

 ダンジョンは、あくまでもカジノのための資金調達になってきているようだ。

 それも、ハーフリングだけでなく、人間も徐々にその傾向に変化していっている。

 いや、欲望のダンジョンなんて名前をロペスが広めたのか、その手の侵入者が増えてきたといったほうがいいか。


「欲望というのであれば、ガシャこそもっともふさわしいと思います!」


「まあ、フィオナ様はそうでしょうけど……」


 なに? ガシャ回したいの?

 別に、もうちょっとダンジョン魔力の蓄えは残っているから、それもいいといえばいいけど……。


「し、失敬な……! 私だって、ガシャを我慢することはできるんですよ!?」


「大丈夫ですか? 変に我慢しすぎると、かえって体に悪いかもしれませんが」


「私を何だと思って……あ! ガシャは我慢できますが、レイの成分が足りないのは我慢できません」


 え……昨日一緒に寝たじゃん……。

 俺成分とやらはわからないが、それで補給できたんじゃないのか。


「ということで、我慢は体によくないですからね。はい、抱きしめられなさい」


「……はい」


 嫌じゃないけど、ある意味で辛いため、若干躊躇してしまう。

 まあ、結局のところ断ることはないので、早めに観念してしまおう。

 相変わらず、見た目以上に力は強いし、見た目どおりにやわらかくて気持ちいいけど、生まれたての魔族にはよくないと思います。


「では、今日はこのままずっと抱きしめますね」


「いや、ガシャの話なんだったんですか……」


 まさか、この話題にもっていくための無意味な会話だったのか?

 フィオナ様め。賢いじゃないか。


「あ、そうそう。ガシャもカジノに置いたらいいんじゃないですか?」


 うまいことフィオナ様にしてやられたと思っていたが、どうやら本当に案があったらしい。

 背後から抱きしめられ、耳元をくすぐるようにして伝えられた案は、意外なことに悪くないものだった。


「ガシャですか……なるほど、つまり宝箱を設置すると?」


「そのとおりです。なんせ、魔王の私が勝てないほどですからね! きっと、欲望の名のもとに集まった者たちであれば、沼に沈んで抜け出せなくなりますよ」


 顔は見えないが、絶対に悪い顔しているんだろうなあ……。

 まるで魔王様だ。実にフィオナ様らしくない。


「それで、カジノに宝箱を設置して、どういう出し物にするんですか?」


「私と同じ苦しみに味わってもらいます。具体的には、使用料を払った者が魔力を注ぐ権利と、宝箱を開ける権利を得ます」


 なるほど……フィオナ様がふだんしていることに、使用料が追加されるというわけか。

 必要なのは俺のわずかな魔力だけと考えると、使用料はそこまで高くなくても元を取れそうだな。


「初めは自身の魔力を注ぎ、すべて注ぎ終えてから中身を取得することでしょう。そうしていずれ気づくのです。魔力は注げば注ぐほどいいと」


「まあ、実際のところそうみたいですからね」


 たった1の差で泣いているフィオナ様を見ると、きっと一定魔力ごとに抽選内容が変わっているんだと思う。

 しかし、そうなるとけっこうな危険があるんじゃないか?


「でも、色々と大丈夫でしょうか?」


「色々とは?」


「まず、危険なアイテムといいますか、良いアイテムが出たら、自分たちの首をしめることになりませんか?」


「そこは問題ありません。なんせ、色々と試しましたからね……。侵入者たちが10人や20人程度で協力しても、私たちの脅威となるアイテムは出ませんから」


 侵入者が100の魔力をもっていたとしても、20人で2000か……。

 そういえば、フィオナ様って9000じゃなくて、その下のほうでもガシャ結果の検証してたもんな。

 まあ……結果は残念ながらということは、俺も聞いたので知っているが。


「それでも、万が一ということも」


「その手のチャレンジは、早々起こらないはずです。なので、もしもわずかでも危険そうであれば、トキトウに事前に中身を見てもらいましょう」


時任ときとうの選択肢ですか……たしかに、中身は確実にわかりますね」


 だけど、それはあくまでも中身がわかるというだけだ。

 危険なものが出てしまうのであれば、結果はわかっても変えようがない。


「そして、魔力の量をちょろっと変えるだけで、案外中身は簡単に変わるんですよ。蘇生薬はそれでも出ませんでしたけどね!」


「そうなんですか、じゃあ1とか注ぐだけでも」


「ええ、きっと再抽選されています。まあ、たいていはより悪い結果になります。蘇生薬はそれでも出ませんでしたからね!」


 どれだけ根に持っているんだよ……。


「まあ、それでもだめだったときは、オクイにこっそり中身を変えてもらいましょう」


 ……つまり、地面かなにかに潜ってもらった奥居おくいが、誰にも見えないように宝箱の中身を入れ替えるということか。

 なんてあくどい、今日のフィオナ様は魔王のような所業じゃないか。


「なるほど……あとは、宝箱に魔力を注ぐって発想を与えてしまうのは平気でしょうか?」


「大丈夫じゃないですか? だって、みんな知っていますから。魔族だけでなく、他の種族たちも」


 そうだったのか。じゃあ、この世界での宝箱の常識ってことになるな。

 あれ、でもそうしたら、わざわざカジノの宝箱を利用する者は現れるのだろうか?


「ダンジョンで見つけた宝箱でいいやってなりませんか?」


「それも問題ないはずです。なんせ、ダンジョンでは宝箱に魔力を注ぐ余力なんてありませんから」


 ああ、そういうことか。

 だから、どの侵入者も魔力なんて注がずに、見つけ次第宝箱を開けているのか。

 少しずつ注いで後で回収と考えたとしても、他の侵入者に回収される可能性もあるからな。


「あとは……宝箱そのものを持ち帰って、安全な場所で魔力を注ぐとか?」


「宝箱は魔力由来のものですからね。ダンジョンから出たら、むしろ中身は残念なものになりますし、そもそもわりとかさばる重いものなので、持ち帰るのは危険です」


 それなら、安全な場所でいつでも挑戦できるカジノのほうを利用しようって気になるわけか。

 思いつく問題点は、わりとどうにかなっているみたいだな。


「ちなみに、遠隔で魔力注入や、ばれないような中身入れ替えは、最初のうちは積極的に行います」


「どうしてですか?」


 脅威になるアイテムなんて、あまり出てこないっていう話じゃなかったか?

 もしも、頻繁に行わないといけないということであれば、やはり宝箱ガシャなんてやめておくべきじゃないのか?


「ハズレばかりですと、ダンジョンの宝箱でいいとなるじゃないですか。ちゃんと当たりが出ることを証明すれば、あとは沼の中です」


「初めのほうで大当たりを引いた方が言うと、説得力が違いますね」


 蘇生薬の出現を体験したからこそ、フィオナ様は見事にガシャ沼にはまってしまったわけだしな。

 自分の経験を活かして、他者に恐ろしいことをさせようと企んでいるのか……。


「ええ……きっと、もう一生かかっても引けない大当たりでしたから……」


「え、わりと……とまではいきませんが、たまに引けているじゃないですか?」


「ふふ……どうですかね?」


 ああ、たしかにな。

 最近では、蘇生薬は俺のほうばかりが引いてしまっている。

 フィオナ様は、四天王を強化したり、部下が喜ぶものばかりを引いているか。


 抱きしめる力が強くなったのは、きっとガシャのハズレを思い出して、思わず力が入ってしまったんだろうな……。

 しかたない。このくらいなら、受け止めてあげるとしよう。


    ◇


「ぐはぁっっ……!! ふゅぅっ……ふゅぅっ……」


「だ、大丈夫ですか? プネヴマ」


「エピクレシ……ちゃん……成仏しちゃうかも……」


「落ち着いてください。あなたは受肉した霊体なので、成仏とかありませんから」


「あれは、もはや名画……だから……記憶に、残して……おかないと……」


「早めに慣れないと、わりと頻繁にテラペイアの世話になっちゃいますよ。ああ、もう意識がないみたいですね」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る