第180話 欲望も金銭もすべてここに置いていってください
「さすがに警戒して、無茶な侵入はしてこないか」
そこが、
それに今回は、
もしも、分裂体をダンジョンの外に作っていたとしたら、無理してダンジョンで倒しても意味がない。
ダンジョンの外で復活されて、情報を持ち帰られるだけだ。
「であれば、気にするだけ無駄そうですね。それよりは、他の侵入者からの評判を気にしましょう」
フィオナ様の言うとおりだ。
ここで、下手に手出しをできない国松たちのことを考えるよりも、このダンジョンの今後のことを考えたほうが有意義だろう。
「わりと人入りが多いのは、やっぱり難易度調整のおかげなのかな?」
だとしたら、プリミラに感謝しないといけない。
臆病な俺の場合、どうしてもダンジョンを難しくしたくなるからな。
「やはり、そこそこの危険で、それなりの成果を得られるというのは、猜疑心をなくせますね」
フィオナ様もそう言ってくれているし、バランス調整って大事なんだよな。
思えば、ゴブリンダンジョンとかは、俺一人でもできたのだが……あのときは、そもそもできることが少なかったからこそかもしれない。
罠もモンスターも、そこまで危険じゃないものしか配置できなかったからな。
「だから言ってるだろぉ……やりすぎはよくないんだぞ」
「みたいだなあ。まあ、これからもアナンタとプリミラにチェックしてもらおう」
「えぇ……」
「お任せください」
なんとも正反対な返事が返ってきたが、これからも頼りにさせてもらおう。
「あとは、ハーフリングが多めだよな」
「たしかにそうですね。ドワーフダンジョンのときよりも多い気がします」
なんやかんやで、ちゃんとダンジョンの動向を見ているフィオナ様からも同意してもらえた。
やっぱり、人間や獣人よりもハーフリングの数が多いようだ。
なにか、彼らを満足させるようなものを用意していたっけ?
……思い当たることがない。どうせなら、現場で働いているハーフリングのロペスに聞いてみるか。
◇
「そりゃあ、俺のせいだろうな」
「ロペスの?」
宿で働いてくれている以外にも、なにか客寄せみたいなことをしてくれていたということだろうか。
「あの温泉宿自体が、俺が同族を出し抜いて成功した、儲け話だと思われているみたいだぜ」
前にそれで同族に絡まれたって言ってたな……。
てっきり、その件はそれっきりかと思っていただが、もしかしてまだまだ似たような状況だったのか?
「大丈夫か? なんか嫉妬して嫌がらせされたりとかは……」
「嫉妬して真似しようとして失敗するやつらはわりといるが、ウルラガの旦那のおかげで文句ひとつ言われねえな」
「張り合いねえ。つまんねえ。レイ、俺もダンジョンで遊びてえよ」
「やめとけってぇ……あんな場所で、正気かよお前……」
「うっせえなへたれ」
ああ、そうか。
前にやったダンジョンのテストって、ディキティスじゃなくてウルラガでもよかったな。
そのうち、大規模な難易度変更が必要になったときは、ウルラガもあてにしてしまおう。
「それじゃあ、必要なときは、協力してもらうかもしれない」
「おお、話がわかるじゃねえか。任せろ、全部ぶっ潰してやっから」
「知らねえぞ。俺、知らねえからな……」
それじゃあ、潰されないように、罠やモンスターをたくさん仕掛けておこう。
なんとなく、獣人に近いので、その予行演習役としては最適かもしれない。
「っと、悪い。脱線した」
「かまわねえさ。まあ、同族の嫉妬はあるが絡んでは来ない。むしろ、俺を利用する方向に考えを変えたみたいだ」
「利用……。ああ、もしかしてロペスの宿を使って、ダンジョンで稼ごうとしているとか?」
「そのとおり。何の得にならない嫉妬なんてしても仕方ねえからな。だったら、せいぜい便利な施設と割り切ってしまえば、ダンジョンの罠解除や索敵役としてそれなりに稼げるみたいだぜ」
たくましいことだ。
で、あれば必要となるのは、ダンジョン探索の報酬となる宝のほうだな。
「宝を増やすか、あるいは適当に宝石の採掘場でも作るか」
「それもいいんだが、並行して別のことできねえかな?」
「別のこと?」
どうやら、ロペスにはすでに考えがあるみたいだな。
さすがは、現場で働かせているハーフリングなだけある。
「ダークエルフダンジョンを、欲望のダンジョンに変えちまおうぜ」
……どういうこと?
◇
「まったく……ロペスもリグマも、俺のことをなんだと思っているんだ」
絶対に、面白ダンジョン施設生産マシーンだと思っているだろ。
否定はしないけどな。俺の価値ってそれがすべてだから。
「はい、は~い。今回、おじさんはなんも言ってないと思いま~す」
「ロペスと乗り気で話してたの知ってるからな」
「そりゃあまあ、そんな本格的なギャンブルというか、カジノみたいなのできたら通うだろうからなあ」
さあ、今回はそこまでプレッシャーはないぞ。
温泉のときと違って、俺に期待しているのは一部の従業員たちだけだからな。
……温泉人気、今考えるとすごかったなあ。
「私、カジノなんて行ったことないや。
「私もないけど、
「え~……」
「なあ、ロペス。レイ様ってカジノまで作れるのか?」
「まあ、期待しすぎちゃいけねえけど。ボスならできそうなんだよなあ……」
従業員であるハーフリングたちが、ロペスに尋ねているところを見ると、やはりハーフリングたちに期待されているようだ。
あとは、人間が何人かって感じだ。獣人たちはほとんどいない。
「まあ、今回は娯楽室から発展すればいいなって感じでやってみるか」
「最悪の場合、カード勝負だけでも構わねえぜ。ボス」
「そう言ってもらえると、どんどん気が楽になる」
お、スロット。ルーレット。
いけるじゃないか。……やっぱり、ダンジョンと言いつつ、わりとなんでもできるよな。
これって、フィオナ様が元のダンジョンというか、地底魔界で魔族のための街を作っていたからだろうな。
今後も、欲しい施設に関連するメニューを選択し続ければ、案外メニューに解禁されるかもしれない。
あ、色々作り終わったからか、セットでカジノという施設になってくれた。
最悪できなくてもいいと思っていたけれど、なかなかの施設になったんじゃないか?
「……な? ボスすげえだろ」
「ああ……なんでもできる方だな……」
なんでもはできないから、期待しすぎるとがっかりするぞ。
さて、これで準備はできた。あとは、宿の近くに作ればおしまいだな。
……そういえば、フィオナ様も興味がありそうだったよな?
「フィオナ様の部屋の隣にも作りましょうか? カジノ」
「う~ん……みんなで遊びたいのなら、作ってもいいですけど、私はやっぱり宝箱のほうが……」
ああ、俺が作るものを見て思い改めたのか。
たしかに、フィオナ様が求めるものは、カジノじゃ手に入らないからな。
さて……国松たちは、そろそろ引き上げるようだし、ちょうどいい。
あいつらがいなくなってから、欲望のダンジョンとやらを作ってやるとしよう。
◇
ロペスのやつ、今度はなにを企んでいるんだ?
居心地の良い温泉つきの宿屋を追い出されて思ったのは、勝手な行動への不満よりも疑問のほうが大きかった。
まあ、俺たちハーフリングだからこそ、あいつの行動の真意が気になっているだけであり、獣人とかはいかにも不満って顔だけどな。
まあ、これでもここにいるような連中は、野宿には慣れている。
ダークエルフの村で各々野宿をしてしまえば、そこまで大きな問題ではない。
だがなあ……あの温泉は便利だったから、そこだけは辛いなあ。
「まあ、今日からまた使えるって話だったし、何をしていたか見せてもらうとするか」
ダンジョンの入り口まで移動する。
すると、すでに人だかりができているようで、あいつの考えがまた成功しているであろうことを想像させた。
いったい、なにを……。
宿はすでに以前と同じ状態に戻っている。
俺たちが、連日ダンジョンに潜っている間、よくわからない壁で隠されていたのだが、綺麗に撤去されていた。
問題は、その横にある明らかに場違いな店……。
カジノだと……?
「おいおい……どうやってこんなもの用意したんだよ」
あの野郎、宿と商店のときから薄々感じていたが、さてはよほど腕のいい建造魔法の使い手と組んでやがるな?
そういえば、あいつ自身転生者だったことだし、もしかしたらその手の分野に特化した転生者でも見つけたか。
「それにしても、盛況だな……」
中にいるのはハーフリングばかりだ。
客だけでなく、店員もハーフリングで構成されている。
そのせいで、イカサマするっていうのも難しいだろうな。
というか、あいつらドワーフダンジョンで行方不明になったと思ったやつらだな……。
ほんの少しとはいえ心配していたというのに、ロペスにいち早く協力して金稼ぎをしていたってことか……。
まったく、これだからハーフリングってやつらは信用ならない。
「とりあえず……俺も今日はここで稼ごう」
ハーフリングたちがカジノに入り浸るせいで、本来の役目が不足していると人間や獣人に呼び出されたのは数時間後のこと。
危なかった……。こうして、雇ってもらえなかったら、あのまま財布の中がなくなっていたところだ……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます