第179話 リーインカーネーションかく語りき
「実際死んだかと思ったわよ」
「お姉ちゃん死んでたよ。ぼくもだけど」
なんで、生きてるのさ……。
ダンジョンから命からがら逃げだし、部屋にこもっていたところ来客があった。
それが、ダンジョンで死んだはずの姉弟。僕が見捨てて置き去りにした、あの二人だ。
「え、あ、あれ……な、なんで」
「落ち着きなさいよ。
「うん、国松さんは僕たちと違って、なんの保険もなくダンジョンに挑んでたからね。無事でよかったです」
保険……。
もしかして、この姉弟の能力か?
「説明しておけばよかったけど、ほら、もしもあんたが悪い転生者だったら、よくないじゃない?」
「あ、そういう判断はできるんだね……」
姉も弟も、どちらもあまりにもうかつに情報を提示するので、心配だったんだよ。
だけど、最低限の線引きはしていたみたいだ。
「なによ。その馬鹿にしたみたいな言い方……」
「いや、むしろ無防備すぎると心配で……」
「ふ~ん、まあいいけど。とにかく、私も
そこまで話してくれるということは、もしかして信用してもらえたのだろうか?
「国松は、最後まで私たちを助けようとしてたしね。本当に協力者として信用できると思うから話すわ」
「ありがとう……」
「私の能力は再生。心臓が無事なら、こうやって再生できるわ。まあ、十秒くらいかかるし、制限回数を超えたら、次の日まで再生しないけど」
再生……。
どおりで、岩に潰されてぐちゃぐちゃになっても、こうしてふつうに行動しているわけだ。
「ぼくの能力は分裂です。分裂している間は、全員で別々のことができますし、死んだときに他の分裂に均等に経験が分けられます」
なるほど……。それで、やけにステータスとレベルが高かったのか。
分裂して、それぞれで経験値を稼ぎ、死ぬかもしかしたら解除するかで、フィードバックするのか。
それなら、効率は段違いだし、さっきみたいに分身が死んでも本体にはなんの影響もない。
どちらも、非常に強力な戦うための能力で、はっきり言ってうらやましい。
「そっか……よかったよ。二人が無事で……」
「私たちは、しぶとさだけはすごいからね。再生するし、全員死なないかぎり生き残るし」
……全員死なない限りってことは、もしかして広貴くんの分裂って、全員本体のタイプ?
やはり、どちらも強力だな……。
「僕は分裂が全員死んだら死んじゃうから、広範囲の攻撃に弱いですし、お姉ちゃんも心臓ごとやられたら死んじゃうから、油断はできませんけどね」
「広貴くんの分裂を、一人だけ安全な場所に隠しておくっていうのは?」
「あ、できますよ。さすが国松さん。聞いたばかりの能力なのに、もう有効的な使い方まで思いついたんですね」
まあ、わりと誰もが思いつく気がするけど……。
ああ、そうだ。僕も明かしておかないと、ここで隠していたらまた印象が悪くなる。
「僕の能力は鑑定……。残念ながら、二人みたいに強い能力じゃない。それに、悪いけど二人のことも鑑定してしまったんだ。ごめん」
「あら、黙っておけばいいのに。正直なのね」
「鑑定……もしかして、それでこのダンジョンが危険だってわかっていたんですか?」
「う、うん。ごめんね。もっと強く止めておくべきだった」
二人の能力が違うものだったら、そのまま死んでいた可能性だってある。
つまり、僕が見殺しにしたも同然ってわけだ……。
今更ながら、罪悪感にさいなまれてしまう。
「私が無理やり連れて行ったんだから、いちいち気にする必要ないわよ」
「そうそう、お姉ちゃんいつも強引なんだから」
「……」
「なんでつねるの!?」
「ははっ……」
思わず二人のやり取りに笑ってしまう。
なんてことのない、ふつうの仲のいい姉弟だ。
そんな二人でも、こうして打倒魔王のためにあがいているんだ。
僕やジノと変わらない。
「ほら、笑われてるじゃない」
「ぼくのせいじゃないと思う……」
「まあいいわ。あんた信用できる転生者ね。国松」
「君たちもね」
女神の力をもらったから、ゲームの世界だから、少なくともそんな理由で好き勝手する転生者ではない。
戦うことなんてできないと、魔王を倒すことを諦めている転生者でもない。
ジノ以来だ。ここまで、頼もしい仲間になりそうな転生者なんて。
「僕は、魔王を倒したい。そうしないと、この世界がいずれ滅んでしまうから」
「ええ、私たちだって魔王は倒したいわ。だって、ここでいつまでも暮らす気はないもの」
「怖い世界だからね。ぼくたちは元の世界に帰りたいんです」
「そっか。じゃあ、改めて僕たちで協力できないかな?」
心からそう思う。
そうか、こういう真剣さが足りてなかったのかもしれない。
思えば、
アルマセグシアで出会った、あの獣人の転生者たちも、そうしたら仲間になってくれたのかもしれない……。
「死ななきゃいけないようなことなら、私たちに任せなさい」
「特にぼくは、気軽に使ってくださいね」
過ぎたことを悔やんでも仕方がない。
今は、この頼もしい仲間ができたことを素直に喜ぼう。
「なるべくなら、痛い思いとかさせたくないけど、そういう判断が必要なときもくると思う」
「ええ、任せるわ。鑑定が使えるし、きちんと考えて行動ができる人みたいだし、あんたに任せたほうがなんかうまくいきそう」
「お姉ちゃん考えるの得意じゃないからね……」
この二人が、ジノの能力で強化されたら、さらに頼もしくなる。
なんだか、久しぶりに前に進めた気がするなあ……。
◇
「だってさ」
「なるほど……それで潰れたのに生き返れたのか」
国松たちの会話を聞いていたピルカヤが、
再生に分裂。なんとも単純ながら強力な力みたいだな。
「倒せなかったのは痛いけど、能力を知れただけでもよかったとするか」
「ボクのおかげでね」
「ああ、ありがとうピルカヤ」
「ふふん」
それにしても、国松は相変わらず厄介だな。
モンスターや罠を仕掛けて待つ以上、こちらとしては敵が侵入してもらわないといけない。
しかし、警戒心が強く、鑑定でこちらの仕掛けを看破するため、致命傷を与えることが非常に難しい。
鳳姉弟とともに侵入したきたときも、完全に対処されてしまったからな。
「心臓か……えぐり出せばいいのか?」
「いや、そんな恐ろしい絵面じゃなくても、斬ればいいだけだと思うぞ」
なんかリピアネムが怖いこと言ってる。
「なんだ。簡単じゃないか」
「むしろ、お前さんが苦戦する相手なんているのかねえ?」
たしかに、リグマの言うとおりリピアネムなら、一瞬で片が付きそうだな。
つくづく惜しいというか、間が悪いというか……。
まだ浅瀬にいたせいで、周囲には探索者たちがいた。
リピアネムを出動させて、国松と鳳姉弟を対処したとしても、他の探索者を取り逃がす可能性もあった。
というか、鳳弟のほうが、保険をかけているとしたら、うかつな行動はできないな。
やはり、四天王に対処させるのは、危険だと思う。
「分裂か……案外厄介だな」
「ボクのが、すごいけどね!」
「ああ、さすがにピルカヤやリグマの分身のほうが上だろうけど、それでも厄介なことには違いない」
なんせ、情報を持ち帰られるという、俺が一番避けていることをされかねないのだから。
「おや、おじさんまで褒めてくれんの? おじさんも、まだまだ捨てたもんじゃないな~」
「そりゃあそうだろ。カーマルにアナンタにウルラガ。あんなに優秀な分身が作れるなら、ピルカヤとはまた別のすごい分身だよ」
「……なに? リグマ、ボクと分身勝負する? ボクのがすごいと思うよ?」
「いや、おじさんそういうのいいから……」
分身という点においては、自身が最も優れているという自負があるのか。
ピルカヤが、やけにむきになってリグマに挑んでいたが、リグマのほうは困り果てているようだった。
さて、鳳愛美に鳳広貴か。
鳳愛美 魔力:33 筋力:32 技術:19 頑強:25 敏捷:28
鳳広貴 魔力:55 筋力:56 技術:52 頑強:38 敏捷:53
ステータスこそ、まだまだ脅威とは言えないが、能力も加味すると油断しちゃいけないな。
二人の能力の特徴と弱点は、忘れないようにしておかないと……。
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