第169話 格付けのカルーセル
「そんなわけで、面倒な連中に絡まれちまった。悪いなボス。ちょっと考えが甘かった」
「いや、それはこっちも予想外だったな」
ロペスから、初日の報告を聞いたが、どうにも面倒ごとが発生したようだ。
ダークエルフたちを、ロペスの労働力と見せかけても、結局は難癖をつけられるとは。
ダークエルフたち……どれだけ、不遇な扱いを受けてきていたんだよ。
「その顔見知りのハーフリングが、新しい宿と店を作るってことで、一旦探索もなくお開きになったと」
「それどころか、宿も商店も、ろくに中身を見てもらえていないな。あいつら、うちが温泉宿ってことも気づいてないぜ」
無料で宿を使わせろという獣人たちと、それに応えたハーフリングか。
ロペスが言うには、そいつは宿を餌に、自分の商店で買い物をさせて儲けようとしているらしいが、うちとしてはダンジョンの繁盛が第一だからな。
「……最悪の場合、宿と商店を放棄してもいいかもな」
「そりゃあ、もったいないぜ。ボス。どうせ、連中は自滅するし、そっちは問題ないさ」
「そうなのか?」
どうやら、すでにロペスには事の顛末が見えているようだ。
そのあたりは、こっちの世界にいち早く適応したロペスだからこそ、なにかに気づいているのかもしれないな。
「それで、問題はその後だ。馬鹿な獣人どもが実力行使に出てくると困る」
「なるほど……競合がいるせいで、唯一の宿でも商店でもないからな。獣人たちのダンジョンみたいに、店を潰すことで、自分たちの首を絞めることにはならないか」
だからといって、そんな力づくでこられても困るんだけどな。
ソウルイーターを入り口に戻すか?
「たぶん、ボスが獣人を皆殺しにしようとしていることはわかるんだが……まあ、ちょっと待ってくれ」
「いや、ソウルイーターに何人か食べさせようとしただけで、皆殺しってわけでは」
「……オーケー。ボスの怒りを買うほどのことじゃないさ。それよりは、誰か腕っぷしの強いやつを護衛にくれたほうが助かる」
なんで、そんな恐る恐る聞いてくるんだよ。
必要な人材を求められて怒ることはないぞ。俺は、そんな無茶な要望だけ丸投げする魔族ではない。
「護衛……ディキティスやエピクレシ?」
比較的手が空いている強者ならば、あの二人が思い浮かぶ。
「だめだと思いますよ~」
「イピレティス。なんでだ? あの二人、もしかしてわりと忙しい?」
「いえいえ。レイ様の頼みとあれば、いつでも協力するでしょうけど。あの二人って、リザードマンと吸血鬼じゃないですか~。魔族ってばればれですよ」
「あ~……」
そうだった。そもそも、
いっそ、ロペスが、あの二人を力づくで従えさせているという設定は……。
「だめだろうなあ。ロペスにあの二人が下ったなんてしたら、ロペスが魔族として討伐対象になるだろうし」
「……それは勘弁してもらいてえな。第一、あの二人を演技といえ従えるのは無理だぜ」
案外話がわかる魔族だよ。二人とも。
まあ、それはそれとして、ロペスという貴重な人材が、魔族とつながっているとばれるのはだめだ。
「リピアネム……」
「呼んだか!?」
「うわっ! ど、どこから来たんだよ……」
「厨房から走ってきた! レイ殿が、私を必要としているとみたのでな!」
犬か。マギレマさんといい、あの厨房は犬属性じゃないと入れないとでもいうのか。
急にリピアネムが走り去ったせいで、マギレマさん今ごろ呆然としているんだろうなあ……。
後で謝っておこう。
「まあいいや。リピアネムって、ドラゴンだよな? 魔族扱いになるの?」
「いや、私はピルカヤと同じようなもので、種族そのものは魔族ではない。魔王軍に所属して、魔王様に従っているだけだ」
「リピアネム様の場合、種族はいいんですけど、有名すぎて護衛には向いてませんね~。ロペスくん、四天王を従えるやばいやつ扱いされますよ?」
これもだめと。
となると、あとは誰が適任か……。
ん? なんか、酒瓶をもって機嫌よく温泉に向かうリグマが……。
「リピアネム」
「なんだ?」
「リグマを捕まえてきてくれ」
「承知した!」
便利だなあ。
だけど、勢いがすごくて怖いから、リグマ以外にはけしかけないでおこう。
「……おじさん、お風呂なんだけど」
「うん。そこは素直にすまないと思っている」
「呼べば行くから、これをけしかけるのだけはやめような」
「……」
「え……次もやる気なのか?」
時と場合によるので、そこはちょっとうやむやにしておこう。
「まあ、いいか……それで、なんかあったのか?」
この切り替えの早さがありがたい。
隠れ仕事人間。いや、仕事魔族なので、すぐに真面目に相談に乗ってくれる。
ただ、あまり頼りすぎると、テラペイアに怒られそうだ。さっさと解放して休んでもらうとしよう。
「前に言ってたリグマの分体って、まだ作れるか?」
「あ~……いや、どっちも使いどころ微妙だぞ? 俺が言うのもなんだが」
たしか、残りはチンピラと無気力だったはずだ。
なら、今回は意外と適性があると思っている。
「ロペスの店の護衛が欲しいから、チンピラのほうなら適任かと思うんだ」
「……なるほどなあ。ってことは、どうせ馬鹿な獣人あたりが絡んでるんだろ?」
「ああ、さすがにそこまで短絡的なのは、獣人どもぐらいだぜ」
「なら、たしかにウルラガが、ぶちのめせばいいか……」
チンピラにはチンピラをってことになりそうだな。
そういえば、カーマルはハーフリングっぽかったし、ウルラガはもしかして獣人なんだろうか。
「そんじゃあ、こいつにもたまには働いてもらうとするか」
そう言って、リグマの体がスライム状に変化して分裂した。
二つに分かれた体は、再び人の形へと戻っていき、片方はリグマへ、もう片方は知らない男に変わる。
そうか。こいつがウルラガか……。
なんか、尻尾とか生えてるけど、獣人ではないな。どちらかといえば、リピアネムと同じ種族……?
「ウルラガって、ドラゴンなのか?」
「開口一番目がそれかよ。案の定マイペースな野郎だな」
おっと、あいさつしないとな。
なんだ。チンピラとか言われつつも、案外常識があるじゃないか。
「魔族のレイだ。よろしく」
「おう。ウルラガだ。レイの言うとおりスライムだが、ドラゴンでもある」
「ってことは、リピアネムと一緒ってことだ」
というか、スライムなのにドラゴンって、リグマすごくない?
いろんな姿になれるとは思っていたが、能力や種族もある程度模倣できるということか。
「おじさん、変幻自在なことだけが取り柄だからなあ。ウルラガは、リピアネムの強さ参考にできねえかとパクった」
「もしかして、相当強い?」
「おう、俺はめちゃくちゃ強えからな。そこらの雑魚と一緒にするんじゃねえぞ」
本人も自信たっぷりなようだし、リピアネムのように、ドラゴンというのはそれだけで強いんだろうな。
そして、そんなウルラガの背後にいるやつが、その発言を聞き逃すはずがなかった。
「ほう。いつのまにか、それほどに強くなっていたのかウルラガ」
「げっ……いたのか。てめえ」
「じつは、私も以前より力の制御が上手くなっていてな。そこまで言うのなら、一度戦ってみようじゃないか」
「言ってねえ! お前と戦うなんて言ってねえからな!」
ウルラガは、リピアネムに引きずられていった。
戦うまでもなく、力関係を見せつけられたような気がするが、リピアネムはそれじゃあ満足しないんだろうなあ……。
「じゃあ、おじさん温泉に行くから」
「ほうっておいていいのか? あれ」
「まあ、ウルラガがそれなりに強いのは事実だからな。死にはしないだろう。たぶん」
本体がそう言うのなら、それでいいけど。
ロペスの護衛を務められる程度には、加減してくれるといいなあ……。
「それじゃあ、ウルラガはロペスが金で雇った護衛にでもしておくか」
「あ、ああ……それじゃあ、ウルラガの旦那を頼らせてもらうぜ。リピアネムの姐御……ちゃんと、加減してくれるよな?」
「ロペスもそう思うか……。していなかったら、回復薬使うかあ」
結論としては、回復薬を使うことにはならなかった。
厨房を抜け出して、ウルラガ相手に暴れまわっているリピアネムを発見したことにより、マギレマさんのお説教が始まったからだ。
なんだか、強者が次から次へと現れ、力関係が目まぐるしく変動する現場を見た気がする……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます