第167話 テストプレイ実施済みです

「だからさあ……な、わかるだろ?」


「だめか」


「だめだなぁ……」


 プリミラが畑の世話をしているので、アナンタにダンジョンのバランス調整を見てもらっている。

 しかし、こいつのハードルはやけに高い。

 いったい何度没をくらったことか……。

 せっかく強く育ってきたんだから、ソウルイーターを活躍させてあげないとかわいそうだろうが。


「弱点の克服はできていないからな。ソウルイーターに実戦経験を積ませること自体は悪くないと思うのだが」


「やめろよ、ディキティス。お前まで口出ししたら、俺はそろそろ匙を投げるからなぁ……」


 そう言いながら、アナンタはうんざりした様子でマップに向き合っていた。

 ぶつぶつと大量のバツマークを追加しているが、なんか俺が赤点取っているみたいだなあ。


「そうだ。そうだよ。ならよぉ……ディキティス。お前がこのダンジョン試してみたらいいじゃねえか」


「ふむ……たしかに、実際に体験してみるのとは違うか……」


「えぇ……乗り気かよ……」


 だが、ディキティスの気持ちもわかる。

 これだけ準備していても、想定どおりにならない場合のほうが多いからな。

 自分の目で確かめるか……。


「じゃあ、俺も」


「側近殿はだめだ」


「だめに決まってんだろぉ……」


 なんでだよ。

 俺、不死鳥の羽いっぱいあるぞ。

 一度死んで終わりというルールにしておけば、羽が足りなくて本当に死んだりしないぞ。


「羽を見せんな……だめなもんはだめなんだよ」


 だめか……。

 仕方ない。それなら、せめてディキティスだけでも、現場を見てきてもらおう。


「側近殿」


「どうした?」


「モンスターも罠も、再作成が必要になるだろうから、魔力を回復する準備をしておいてくれ」


 ……俺のダンジョン。

 ディキティスに破壊し尽くされる気がしてきた。


    ◇


 とはいっても、私も側近殿とともにダンジョンの作成に関与していたこともある。

 最近では、なぜかプリミラ様やアナンタ殿に、私たち三人でダンジョンを作るなと言われているがな……。


 あんな理由から、このダンジョン自体は私は関与していない。

 しかし、側近殿の考えはある程度理解できていると自負している。


「そもそもだ」


 気配を限りなく隠して、シャドウスネークの群れが襲ってくる。

 教えた通りに、接敵する瞬間までは、存在を悟られないことを徹底しているようだな。


「すまないが、あとで蘇るといい」


 なので、矛を振るって一撃で葬ることにした。

 半端に痛めつけるのは、彼らにも苦しみを与えるだけだろう。


「む、なるほど。岩の罠との連携か」


 シャドウスネークと分断するような大岩が降ってくる。

 だが、リピアネム様ほどではなくとも、このくらいなら問題ない。

 岩を殴りつけて、シャドウスネークたちを押し潰すことにした。


「これで、ここは全滅だな」


 いや、かろうじて攻撃を逃れた者が、背後から毒の霧を発生させようとしているか。


「教えを守りよくやっている」


 実に優秀なモンスターたちだ。

 こちらも、真剣に向き合わねば、彼らのためにならないだろう。

 両断されたシャドウスネークも、きっとなにかを得てくれたはずだ。


    ◇


「なるほど、凍結の罠のことは知らなかった」


 だが、私は寒さや暑さには強い。

 体表がいくらか凍ってしまったが、脱皮すれば問題ないのでな。


「ラッシュガーディアンか。ならば、力比べといこう」


 敵はこちらを害することなく、ただひたすらに押してくることに特化している。

 ならば、こちらもその力に抗うように、正面からぶつかるだけだ。

 プリミラ様や、リピアネム様であれば、逆にラッシュガーディアンがなすすべなく、押されてしまっただろうな。


「この先は……なんだ。行き止まりだったか」


 宝箱があったが、私では開けられない。

 ラッシュガーディアンを越えた者への褒美……いや、側近殿のことだ。これも罠かもしれんな。


「仕方ない。戻るとしよう」


 帰還途中で狼の群れに襲われる。

 ほう、悪くない。

 行きに現れなかったのであれば、帰りに現れないだろうという油断を誘うか。

 それに、シャドウスネークと同じように、このモンスターたちも己の特性をよく活かしている。

 集団で霧を発生させ、音もなく襲いかかるのはなかなかだ。


「あとは、気配の問題だな。そのあたりは、シャドウスネークに習うのもいいかもしれんぞ」


 消滅するミストウルフにそう伝える。

 賢い者たちだ。きっと、次に活かしてくれることだろう。


「そうか、お前もここにいたか」


 ミストウルフたちを全滅させ、一息ついていた瞬間を狙い、霧の中から巨大な口が現れる。

 存外うまくやっているじゃないか。

 違う種族のモンスター同士で、連携をとることができている。


「だが、課題はまだまだ克服できていないようだな」


 霧に隠れていたとはいえ、左右に回避してしまえば問題ない。

 そして、すれ違いざまに攻撃してしまえば、余裕をもって撃破可能だ。

 例のエルフ相手に学べなかったのは、まだまだ幼いためか……。


「む……」


 回避行動に移ろうとした瞬間に、大岩が降って道を塞ぐ。

 なるほど……これで、通路のように回避する空間がなくなったわけか。

 側近殿の罠は、やはり自然に溶け込みすぎていて、感知するのが難しいな……。

 ハーフリングのような、専門職でもなければ、戦闘中に気づくのは困難と言えよう。


「すまんな。いや、そういえば、まだお前は死んだことがなかったか。ちょうどいい機会だ」


 避けれないのであれば、倒すだけだ。

 矛を構え、その大口に突き立て……なるほど、口の中にいるのは、シャドウスネークか。

 体が痺れる。麻痺毒を食らってしまったようだな。

 ならば、完全に動けなくなる前に……矛を全力で投擲する!


 魔力も込めた全力の投擲だ。

 悪いが、今の実力差ならば、ソウルイーターには、どうすることもできまい。

 口内にいたシャドウスネークたちも果敢に挑んできたが、あの数であれば体が動かずとも魔力の放出でどうにかなる。


「………………ふう……麻痺はとれたか」


 悪くなかった。いや、想像以上に良かった。

 教えたことは忘れず糧にしているようで、実に教えがいがあるモンスターたちだ。

 ダスカロスのやつがいたら、ずいぶんと気に入りそうだな。


    ◇


「悪くないダンジョンではないか」


「わりと簡単に突破されちゃったなあ……。やっぱり、もう少し工夫がいるか」


「いや、勇者以外であれば、早々突破はできない仕上がりだと思う」


「でも、ディキティスは、無傷で突破したし……」


「脱皮はした。それに毒も喰らった」


 いくつかは有効だったから、そこで畳みかけられなかったのが問題かな?

 まさか、ソウルイーターが一撃で串刺しにされるとは思わなかったが、ディキティスだもんな。

 イピレティスや、マギレマさんも、同じようなことができるんだろうか……。


「ほれ見ろ。ディキティス相手に、あそこまでできるんだぞ。難易度下げろってぇ……」


「ディキティスを倒せてからにしてみない?」


「私はかまわんが、二度目はもっとうまくやるぞ?」


「目的変わってんじゃねえよぉ! やっぱ、ディキティスは、モンスターたちの育成してろってぇ」


 まあ、たしかにな。

 ディキティスのおかげで、みんな強くたくましくなっている。

 であれば、他のことよりも、こちらを任せたほうがいいだろう。


「よし、これで終わりだな」


 会話しつつ、壊れた罠やモンスターの再作成を進めていたが、次に再作成するソウルイーターで終わりだ。


「戻ってこ~い」


 魔力を消費して、ソウルイーターをその場に作り出す。

 目もないのに俺のことを感知しているらしく、すぐにいつものように巻き付いてきた。

 いや、なんだかいつもより甘えてきている気がするな。


「どうした?」


「初めての死からの蘇生だ。好きにさせてやるといい」


「そういうことか。よしよし、怖くないぞ~」


 俺に巻き付いて……あれ、ディキティスのこと威嚇してない?


「ふっ……それだけの気概があれば、問題ないようだな」


「わかるの?」


「敵意を向けられているからな」


「だめじゃないか。ディキティスは味方だぞ~。落ち着け~」


 しばらくなでてやると、ようやく大人しくなってくれた。

 この子、けっこう負けん気が強いのかもしれないな。

 案外、何度かやればディキティスを苦戦させるほどに成長するかもしれない。


“先生、本気出すからきら~い!”


「よしよし、やる気は十分みたいだな」

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