第166話 侵入者のための虐殺防止会議
「侵入者たちがきたって?」
「はい。私たちの村に、いくつかの種族が来訪するようになってきています」
ある日クララの報告を受け、ピルカヤの確認とともにそのことを知った。
エルフたちが完全に諦めたダンジョンだが、クララのおかげでまだまだ使い道があるようだ。
「ちなみに、魔力を奪おうとするような種族は?」
「いませんね。魔力に長けた者たちは、まだ見かけていないので」
そうか。それが一番重要だからな。
いや、一番は勇者や転生者が混ざっているかだった。
「村のほうは……え~と、人間。獣人。ハーフリングだね」
「見知った種族たちだな」
「まあ、そうなんだけど。人間は国が違うね。肌の色が褐色だし。獣人はわかんないけど、距離を考えると国に所属していないやつらかな? ハーフリングは、ドワーフのダンジョンが崩れたから、こっちにきたってところかな」
見ただけでそこまでわかるのなら、大したものだ。
そうか。別の国の人間か。
そういえば、その考えは思い浮かんでいなかったけど、人間が全員同じ国に住んでいるってこともないはずだからな。
「獣人たちも、別の国とかあるのかな」
「どうだろうな。人間の場合、上を自称するやつが多いから国は分かれているが、獣人の場合、一番強いやつが他のやつらを吸収して領土を拡げている。そこからはぐれたやつらが集落でも作ってるかもしれないが、基本は大国が一つって考えていいと思うぞ」
なるほど。王が複数いるか一人だけかも、種族の特色で変わってくるわけだ。
リグマの補足に思わず感心する。
「ハーフリングは、適度な繁栄で満足しているのか、複数の国を作るだけの数はいないみたいだったぜ。ボス」
「じゃあ、今のところは人間くらいか」
人間の場合、強さが特にまちまちみたいだから、その分数が多いのかもしれないな。
そして、増えた分だけ意見も衝突して、活動領域も分裂していくと。
「ただ、一番力があるのは、やっぱり勇者を保有している国だよな」
「ええ、頭一つ抜けているのは、クニマツやリックがいる国です」
プリミラも、リックたちにやられたわけだし、単純な力だけ見てもそこが一番か。
あそこ、うちのドワーフダンジョン壊したしな。
「じゃあ、今回の人間たちは、今までのダンジョンのことを、あまり知らないってことになるな」
「噂で聞いたことがあるくらいだろうね」
だとしたら、勇者や転生者を呼び寄せる危険性もないってことだ。
いや、転生者はもしかしたら、そっちの国にも流れている可能性があるから注意はいるが、勇者がいないというのが重要だ。
ジノや
「今度こそ、危険な転生者がいたら事前に対策しないと」
そう考えると、うちに転生者たちを何人も引き込めたのって運がよかったな。
最初に会った転生者が、よりにもよってあれだったし……。
あのときに転生者すべてが危険と判断して、軽率に全員倒さなくてよかった。
……あれ? でも、そうやって放置していた国松が、危険な存在になりつつあるんだよな。
やっぱり、発見次第に倒していくべきだったのか?
いや、今うちにいるのは味方だろ。……味方だよな?
◇
「なんなんだ最近!」
「ロ、ロペスくん……なんか、今回は私もぶるってきたよ! それと、選択肢がずっと、裏切ったら死ぬって言ってきてるんだけど!」
「……なに? 誰か裏切ろうとしてるの?」
「なんだか寒気が……」
「ど、どうしよう……なんかよくわからないけど、謝ったほうがいいかな?」
「落ち着きなさい……私たちは別に悪いことしてないじゃない」
◇
さて、侵入者が魔力狙いでないのなら、方針としては他のダンジョンと似た感じでいいな。
マギレマさんのレストランほどではないが、ダンジョンの入場料だってなかなかのものだし。
「まずは、難易度を大幅低下させて、適当な頻度で攻略できるようにするだろ」
「おお……ついにわかってくれたのか……長かった……」
「騙されるなよアナンタ。大幅に下げても岩は落とすぞ」
騙すって人聞きが悪いことを言うなよ。リグマ。
岩くらいはそりゃ落とすさ。そんな罠もなかったら、もはやダンジョンではないだろう。
「宿や道具屋も置いて、そこから収入を得るとして、従業員はクララの部下たちがいいか」
これは
一番近くに住んでいる種族が、ダンジョンの攻略を諦めて金儲けをしている。
そう勘違いしてくれるなら、他と同じように警戒されにくいだろう。
「がんばります!」
「……ちゃんと休息はすることだ。私もいちいちダークエルフ全員を捕獲したくはないからね」
「……がんばります」
クララの意気込みに、テラペイアが釘をさす。
最初の意気込みから、ずいぶんと覇気がなくなってしまったが、そのくらい肩の力を抜いたほうがいいのかもしれない。
「…………ダークエルフたちだけに、店番をさせないほうがいいだろうな」
「なんでだ? クララたち、わりとなんでもそつなくこなすぞ?」
どうやらディキティスは、クララたちに任せることは反対のようだ。
こちらに引き入れたばかりなら、その警戒もわからなくはない。
しかし、さすがにクララたちが裏切ることはほとんどないだろう。
「……迫害されているということならば、店の代金も踏み倒される可能性が高い」
「あ~……」
たしかに、言われてみればそうとしか思えないな。
となると、ダークエルフ以外の人材にするべきか……。
「ロペスのやつにでも任せりゃいいんじゃねえか?」
「ロペスか……たしかに、あいつも器用に色々こなせるし、クララともウマが合うみたいだからな」
「ハーフリングだしな。儲けの予感から、誰よりも早くダークエルフたちの村に行って、クララたちを従えて働かせてるとでもすればいい」
「そうすれば、クララたちはただロペスに利用されているだけだし、金を払う払わないはハーフリングとのいざこざになるってことか」
相変わらず、そういうカバーストーリーを考えるの得意だな。リグマって。
だけど、それなら問題も解決できそうだし、その案に乗らせてもらおう。
「でも、問題はまだありそうですよ? 今回のダンジョンってダークエルフの村の近くにあるんですよね~?」
「そうみたいだな」
「それじゃあ、宿屋なんて使わずに、ダークエルフたちの家を占領するんじゃないですか~?」
……イピレティスの言うとおりかもしれない。
俺にもわかってきたが、ダークエルフたちの待遇はとにかく悪い。
そんなダークエルフたちだから、家さえも簡単に奪われてしまいそうだ。
「僕が、夜中にこっそり何人か殺してきましょうか~?」
「なんでだよ」
「いや~、夜中に不審死する村とか噂が広まれば、そこで寝泊まりしないかな~なんて」
「ダークエルフたちに疑いがかかりそうだから却下」
そうでなくとも、八つ当たりでひどい目にあいそうだし。
そうなると、宿は諦めて道具屋だけにしておくか。
「いっそのこと、温泉宿にしちゃえば?」
カーマルの言葉に、諦めかけていた考えを一度捨てる。
温泉宿……? なるほど。こちらの世界の住人も、ある程度以上は温泉好きだからな。
宿に併設してしまえば、ダークエルフの家よりもそちらを利用するか?
「若干、客層とあわなくないか? ダンジョンにくるやつらって、もっとガツガツと宝を狙ったり、モンスターを倒しそうなイメージがある」
だから、湯治で休息なんてのが、どこまで彼らを惹きつけられるか。
獣人とか、数秒で温泉から出そうだしな。
「レイの温泉なら、魔力や傷の回復もできるし、付加価値はだいぶ高いと思うよ」
ダンジョンに挑む。
罠とモンスターで適度に生かさず殺さず、だけど逃げ帰れるようにする。
宿と温泉で休むことで、翌日には全快する。
……いい循環じゃないか。
「よし、がんばってバランス調整しよう!」
「おい、カーマル。カーマルよぉ……。お前、絶対焚きつけたぞ。せっかく、爪の先ほどは難易度下げそうだったのによお……」
「いや、さすがにここから難易度下げないってことはないでしょ。レイをなんだと思ってるのさ……」
そうだぞ。アナンタのやつに、もっと言ってやれカーマル。
「レイ様。私と一緒に調整しましょうか」
「え……」
「いかがですか?」
「じゃあ、はい……」
信用されていないのだろうか……。
最終的には、保護者同伴となり、ダンジョンのバランス調整に頭を悩ませることになってしまった……。
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