第160話 「これで天秤が釣り合いました」
「できれば、武器に埋め込みたいですね」
プリミラがそうつぶやく。
たしかに、それなりの大きさの宝玉だからな。
戦闘中に大きな槌を振り回すことを考えると、片手がふさがるのはよろしくないのだろう。
「となると、カールか」
武器の扱いなら、カールを筆頭にドワーフたちに頼むのがいいだろう。
しかし、名前を呼ばれて反応するカールは、難しそうな顔をしている。
もしかして、カールたちでも武器への加工は無理なのか?
「う~む……問題は、その宝玉の耐久力ですが、プリミラ様が振るう槌の衝撃に耐えられるものかどうか」
宝玉自体が脆いかもしれないのか。
なんか強力そうなアイテムだけど、もしかして消耗品の分類されるのか?
「見るからに、ぎりぎりのバランスで維持されているようなので、埋め込むこと自体は容易ですが、このままだと使い捨てになりそうです」
プリミラに手渡された宝玉を観察していたカールだったが、そのような結論に至った。
他のドワーフたちも何人かこの場にいるが、やはりカールと同じ意見のようだ。
「どちらかというと、これは鍛冶や石細工よりも、魔法工芸の分野です」
カールの口から聞きなれない言葉が出てくる。
「魔法工芸?」
「魔法工芸、魔法細工、まあ呼び方はいくつかありますが、魔力を込めた道具や宝石を加工する技術です。魔法の扱いに長けた者たちが、得意としています」
なるほど、分野が全然別だったか。
だが、それなら一つ心当たりがある。
「クララは……」
「す、すみません。たしかに、私たちダークエルフやエルフはその手の技術はありますが、さすがに潮流の宝玉ほどのものを扱う技術はありません……」
これ、やっぱりわりとすごいアイテムなんじゃないか?
フィオナ様って、たまに意図せぬところで大当たりを引くよな。
「そうなると、現状は使い捨てというか切り札みたいな感じか」
「残念ですが、そう割り切ったほうがよさそうですね」
プリミラも心なしか残念そうな顔を……いや、表情はやはり無だけど、雰囲気から伝わる。
「私に考えがあります」
そんな俺たちに向けて、フィオナ様が自身満々に発言する。
あ、これ絶対ろくなこと言わないやつだ。
「レイがこれから蘇生薬を引いて、魔法細工師を蘇生すれば解決です」
ほら見ろ。無茶ぶりする上司とか、いつから魔王軍はブラックになってしまったんだ。
……プリミラに、そんな期待した目で見られたら断れない。
「俺だって引ける確証なんてありませんからね。期待しすぎないでくださいよ」
「いや、レイ様なら魔王様よりも確率はだいぶ高いですよ。やはり、込める魔力量が一定を超えると、飛躍的に確率も跳ね上がるのでしょうね」
補足ありがとうなエピクレシ。
だが、そうやって俺への期待値をどんどん上げて逃げ場をなくすのはやめてくれ。
「それじゃあ、こっちも5回くらい」
「50回くらいやってみません?」
「無茶言わないでください」
そもそも50万もの魔力は溜まっていない。
溜まっていたとしても、さすがに一度それだけの消費はしなたくない。
だから、頬を膨らませても無駄だからな。
……なんか、ロペスやクララが冷や汗を流している?
そんなに真剣に俺のガシャ結果を見守らないでくれ。プレッシャーにしかならないぞ。
「あ、骨」
これは前にエピクレシにあげたものと同じだな。
以前はそれでノーライフキングを作ったわけだし、やはりエピクレシに渡すのが一番いいだろう。
「骨ですね。どうします? レイのものなので、どうするかは好きにしてください」
フィオナ様から許可ももらえたので、エピクレシに渡してしまおう。
ノーライフキングもエルフ相手にがんばったことだし、仲間ができるのはいいことだろう。
「それじゃあ、またエピクレシにあげるということで」
「あ、ありがとうございます! ほら見なさいドラゴンゾンビ。レイ様なら、簡単に最高級の触媒を用意できるのです」
なんかドラゴンゾンビに絡んでいるが、今回はたまたまだから多分ドラゴンゾンビのほうが正しい意見を言ったんだろうな。
エピクレシに逆らうことなく話を聞いてあげるあたり、彼はいかつい見た目とは反対に良い奴だ。
「次は……あたりました」
「さすがは私のレイです。褒めてあげます」
抱きつかれた。頭をなでられた。
さすがにもう慣れてきたけれど、こんな大勢の前ではやめてほしいかなあと思う。
嫌ではないんだけどな。こんな美人にそんなことされて嫌がる理由はない。
単に場所を選んでほしいというだけだ。
「次は……」
「ほら見なさい。私のレイはすごいんです」
なにやら、先ほどのエピクレシとドラゴンゾンビのやり取りのようなセリフだ。
俺を抱きしめる力が強くなるあたり、フィオナ様の機嫌は上昇しているらしい。
というか、俺に対して俺はすごいんだと自慢するのは、もはや意味が分からない。
連続して蘇生薬を引けたので、興奮しているんだろうか。
「次……なんか、運を消費していないか怖いんですけど」
3連続で蘇生薬を引いているのは、俺の今後の運を使い果たしているからだろうか。
それとも、エピクレシの考察どおりに、消費魔力1万の壁が大きいのだろうか。
後者であってもらいたいものだ。
「レイはふだんからがんばっていますから、きっと正当なご褒美です」
そう言いつつ、さらに抱きしめる力が強くなっていく。
抱き枕の状態ともはや変わらない。
そろそろ精神を統一させないと、煩悩に引きずられるままになるので意識を切り替えないと……。
「じゃあ、最後です」
このままだと、俺の精神によろしくないので、手早く最後の宝箱を開ける。
「なんか鎖が出ました」
「霊魂の鎖ですか。魔力で伸縮する拘束具ですね」
「魔力があれば、誰でも自由自在に動かせるんですか?」
「訓練は必要です。魔法を器用に扱えるような才覚も必要でしょうね」
なるほど、つまり魔力だけが育っている俺では使いこなせないわけか。
「どうしましょうか。これ」
「いまいち使い道がないですね……」
「霊魂っていうくらいだから、エピクレシがアンデッドの触媒にできませんかね?」
「なるほど……たしかに、エピクレシなら使い道を見出せるかもしれません。どうです? エピクレシ」
「は、はい! いただけるというのであれば、ちょっと試してみたいことが!」
よかった。なんとか無駄にならずにすんだみたいだ。
では、本人も望んでいることだし、さっきの骨といっしょにこの鎖も渡すことにしよう。
「じゃあ、これもエピクレシのものということで」
「必ず、役立たせてみせます!」
さて、俺の分のガシャ結果もこれで終わりだ。
大勢の者に見られながらとなると、わりと緊張してしまったな。
「まあ、6割あたりなら、良い結果だったんじゃないですか?」
「ええ、さすがは私のレイです。やはり、レイがいれば魔王軍は最強ですね」
それ、あなた一人で最強です。
なんならフィオナ様単騎で魔王軍を名乗っていても、それこそ女神と勇者たち以外には最強だろう。
「蘇生薬が3つ。どう使うかはフィオナ様に任せますね」
「いいんですか? レイがあてたのですから、たまにはレイのために使ったほうが……」
「俺は魔王軍の面々に詳しくないですからね。お任せします」
「では、どんな人材が欲しいとかの希望はないのですか?」
人材か……。
エルフたちの対処もひと段落したことだし、試してみようと思っていることならあるな。
「温泉の管理が得意な人材とか……?」
「なるほど……ルトラですかね?」
名前を言われてもわからないので、そのへんはフィオナ様にまかせよう。
俺がもしもゲームプレイヤーだったら、名前だけでピンと来ていたのかもしれないな。
◇
「霊魂の鎖……あんな気軽に手に入るものだったかねえ」
「それを言うのなら、蘇生薬なんて俺は実在することすら知らなかった……」
「潮流の宝玉を武器に埋め込むなど、失敗したときのことを考えると恐ろしすぎる……」
ダークエルフの女王。獣人の商人。ドワーフの鍛冶師。
それぞれが、此度のアイテム生成の儀を見届けて、口々に感想を言い合う。
伝承にあったアイテムや素材。
それらが、いともたやすく生み出される現場を目の当たりにして、改めて自身が仕える者たちの力を思い知った。
女神に逆らうこととなった自分たちではあるが、あの方たちもそれに匹敵する力はあるのではないか?
彼らのそんな考えは、希望も多分に含まれているのか、正当な評価なのか、神の力を知らない彼らには判断できなかった。
「行くわよ
「ま、待ってよ。
「
「まあ、女性陣はそのやり取りすら楽しんでるんじゃねえの? 手に入れるまでも娯楽なんだろうさ」
「なるほど……そのほうが喜びも大きそうだ」
「だから、せいぜい良いアクセサリーでも作ってやることだな兄弟」
「プレッシャーかけないでくれよ……」
そんな現地人たちとは別に、転生者は転生者でガシャ結果を享受していた。
実は蘇生薬ではなく、様々なアイテムが出してほしいと思っているのだが、そんな不敬な考えを魔王に知られてはいけないと、皆ひた隠しにしている。
案外、魔王のガシャ運は、集団の祈りに阻害されているのかもしれない……。
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