第158話 遅すぎたが手遅れではない損切り

 ピルカヤの力でダンジョンの様子を観察していたが、侵入者は全滅した。

 なんか強そうだった男はリピアネムが、強かった女はノーライフキング率いるアンデッドが、強かった集団はソウルイーターとシャドウスネークが倒してくれた。

 ラッシュガーディアンがかわいそうなことになったので、あとで再作成しておかないとな。


「これで一通り終わりですね」


「ええ、みんな優秀でなによりです」


 一区切りついた。今回の侵入と撃退は終わりだ。

 今のところ他の侵入者の気配はないので、モンスターたちを褒めておくとソウルイーターが絡みついてきた。

 いつものことなのでもう慣れたが、その気になれば俺を一撃で倒せるのだから心強いな。


「胴は伸ばせませんね……」


「絡みつこうとしないでください」


 フィオナ様がラミア系の魔族になろうとしているので、一応止めておく。

 そんな馬鹿なやり取りをしていると、エピクレシたちが報告のために戻ってきた。


「お疲れ様です、エピクレシ。ノーライフキングにドラゴンゾンビたちも」


「ありがたいお言葉です。母よ」


 フィオナ様がいつのまにか母と呼ばれるようになったのは、魔族の王だからなのか?

 すべての魔族のルーツは、実はフィオナ様だという設定でもあるんだろうか。


「それにしても、体がだいぶ削られたみたいだけど、それ平気なの?」


「戦闘には支障はきたしますが、父に心配いただいているような活動そのものには問題はありません」


「そっか。まあ、無理せずにすぐに治療してくれ」


 そのへんはアンデッドだし、見た目ほどのダメージではないんだろうな。

 相変わらず俺を父と呼ぶノーライフキングは、頭を下げて後方へ移動した。


風間かざまたちのおかげで、聖属性の耐性は完璧みたいだな」


「い、いえ……俺たちはただ温泉に入っていただけなので」


 三人一緒にな。

 よく考えたら、すごいことしてるなこいつら。

 まあ、そのおかげで聖属性の力が溜まりやすかったのかもしれないが。


「たしかに、カザマたちの力は大したものですが、私たちを殺した勇者や聖女の聖属性までは、さすがに無効化も軽減も難しそうですね」


「あのエルフたちもけっこう強そうだったけど、それ以上の出力ってことか」


「ええ、今後もそのへんは課題ですかね」


 なるほど、さすがは勇者としてフィオナ様と戦っていただけのことはある。

 それでだ……。

 問題はこいつだ。そろそろ見ないふりもできない。


「なんで、死体なんて抱えてるんだ。エピクレシ」


 案外力があるらしく、エルフの女性の死体を抱えたエピクレシに尋ねる。


「いい素材見つけました!」


「あ~……しょうがないのかな?」


 アンデッド使いだもんなあ……。

 たしかに、ノーライフキングにやられてしまったが、このエルフけっこう強そうだったからな。

 エピクレシが気に入って持ち帰るのも無理はないか。


「アンデッドたちの復活。ノーライフキングの修復。そして、新たな仲間のお出迎え。やることが盛りだくさんです!」


「そっか、まあ無理はしないように」


「…………」


 なんでそこで黙るんだよ。

 もう一度念を押そうとしたら、テラペイアが先に口出しした。


「おい、返事はどうした」


「……はぁい」


 さすがにテラペイアには勝てないのか、とてもしぶしぶと返事をする。

 うちの仲間こんなのが多いな。


    ◇


「首輪の反応が消えている……」


「死んだというの? 全員」


「聖光も翠光もあの低能も……たかだか入り口を崩壊させることさえできないということね……」


 使える手駒が次々と消えていった。

 翠光を失った時点で、これ以上の被害を防ぐために指示を出したというのに……。

 ダンジョンに入るような指示ならわかるわ。

 だけど、入り口で魔法を使うだけの指示で……全滅?


「本当に……使えない子たちね」


 なら、もういいわ。

 どうせ指示を守らずにダンジョンにでも入ったんでしょう。

 そんな簡単な命令も守れないようならもういらない。

 どうせ、生きていたとしても役には立たない。

 肝心なときに言うことを聞かない可能性がある以上は、優秀な駒にはならない。


「ジノには、ふせておかないとね」


「ええ。それとダークエルフたちにダンジョンを返してあげましょう」


「……信用できる人材も、今となっては疑わしくなっている。なら、私が直接出向くことにするわ」


 ロマーナでさえ命令を無視するのなら、もう信じられる子なんていない。

 面倒だけど、私たちエルフはダンジョンを放棄したと示さないといけない。


 このまま私たちがダンジョンに訪れなくなったら、エルフはダンジョンから逃げ出したなんて言いふらしかねない。

 悔しいことにそれは事実だけど、そんなことを吹聴されたら困るもの。

 せめて、ダークエルフに返してあげたと体面だけでも繕わないといけない。


「それじゃあ、久しぶりにクララの顔でも見てくることにするわ」


    ◇


「久しぶりだねえ。フアナ」


「……ずいぶんと、気安い言葉じゃない。クララ」


 当然ながら、女王であるクララが私を出迎える。

 迫害されていようが、種族の代表であることに変わりはない。

 だから、私もその態度や口調を咎めたりはしない。


「単刀直入に言うわ。例のダンジョン、返すわ。もういらないから」


「そうかい」


 こちらの要件を知っていたかのような態度が気に障る。

 この様子だと、おそらくダークエルフたちには伝わっているのでしょうね。

 私たちエルフが散々ダンジョンの被害にあったと。


「念のため言っておくけれど、余計なことを言われたら、面倒だけどあなたたちと敵対することになりそうね」


「そうかい。それじゃあ、せいぜい静かにしておくとするよ。お互い大変だろう?」


「……なにがかしら」


「そりゃあもちろんダンジョンさ。なんせ、あのエルフ様たちの優秀な人材が次々と死んでしまう場所なんだ。そんな危険極まりないものが、今も口を開けているかと思うと、私たちも気が気でないよ」


「……」


「いやあ、危ないところだった。実は私たちも君たちが来る直前に、そろそろ奥まで調査しようなんて意見も出ていてね。君たちがこなかったら、私たちダークエルフが大きな被害を受けていただろうさ」


 こちらを心配するような、感謝するような、そんな態度が、実に白々しく腹立たしい。

 タイミングが……最悪だったわけね。

 いい気になってぺらぺらと話しているけれど、おかげで一つだけ疑問は解消したわ。


 やっぱり、ダークエルフたちが優れていて、私たちが劣っていたなんてありえない。

 単に、こいつらは調査をろくに進めていなかったから被害が出ていなかっただけ。

 そして、私たちはまんまと、そんな危険かどうかもわからない未知数のダンジョンに入ってしまった。

 すべては、めぐりあわせが悪すぎたことであり、クララの言う通りもう少し遅ければ被害はダークエルフだった。


「それにしても困った。エルフでそうなのだから、私たちダークエルフではあのダンジョンをどうにもできないよ」


「でしょうね。あの場所は想像以上に危険みたいだから」


「協力してくれないかな? あの場所のどこが安全で、どこが危険か、慎重に調査したほうがいいだろう?」


 ……言っていることはわかる。

 だけど、さすがにこちらも被害が大きすぎた。

 はっきり言って、そんな提案に魅力は一つもないの。

 もう、私たちはあそこに関与する気がないわ。


「やめておくわ。自分たちで無理ならエルフ以外を頼ったら?」


「しかしねえ。知っているだろう? 私たちの種族の扱いを」


 たしかに、ダークエルフからの嘆願なんて、どの種族も適当にあしらうだけね。

 ……だけど、この場所をダークエルフたちが放置していたら、それこそ魔王たちがここを拠点として力を取り戻すかもしれない。


「わかったわ。それじゃあ、他の種族にも口添えしておいてあげるわよ。せいぜいそいつらのご機嫌とりをして、村で不自由ない生活でも送れるようにすることね」


「それはありがたい。感謝するよ、フアナ……」


 まあ、私たちの種族でなければどうでもいいわ。

 好戦的な種族であれば、案外食いついてくるでしょうし、せいぜい好きにすればいい。

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