第157話 死後に安らぎはないが休暇はある
「いい加減出てきたらどうだ?」
雑兵どもを一体ずつ処理していく。
数はだいぶ減ったが、このままでは部下との合流にまだまだ時間もかかる。
そしてなによりも、前回見たあいつがまだ出てきていない。
このアンデッドたちが、前回の者たちと同じであるかはわからない。
聖属性耐性を得ているのが、前回の戦闘の経験からなのか、はたまた別個体なのか。
後者であればあいつを気にする必要はあるが、前者であれば間違いなくあいつは強敵になる。
「……やはり、貴様もいたのか」
そして残念なことに、地面から現れた巨体を見て確信した。
このアンデッドたちは以前倒した者であり、あのときに存在したドラゴンゾンビもしっかりと復活している。
おそらく、聖属性への耐性を備えたうえでだ。
不気味な見た目はソウルイーターにも匹敵するが、このダンジョンがそういう方針なのかもしれないな。
まったくもって、魔王も悪趣味なダンジョンを作成するものだ。
こちらを狙った叩きつけを後方へと避け、薙ぎ払うように振るわれる尻尾は跳躍で避ける。
空中で回避行動を取りづらくなったところを、私程度なら簡単に食いちぎれそうな大きな口が狙う。
こちらもそれに合わせるように手のひらを突き出し、口の中を貫くように自身の腕よりもはるかに太い魔法攻撃を撃ち込む。
「だが、前回から変わったのが聖属性への耐性だけだというのなら、私のほうが強い」
巨体による攻撃も耐久力もたしかに厄介だ。
しかし、私の動きをとらえられないというのであれば、時間と魔力を消費すればどうとでもなる。
先行させた部下たちが心配だが、ここで考えなしに魔力を消費するのもまずい。
可能な限り消耗せず、それでいて急いで倒す必要があるのが面倒というくらいか。
もはや、目の前の相手は敵ではないとわかった。
油断さえしなければ、どうとでもなる。
そう思いながら、しっかりと攻撃を避けて反撃を繰り返す。
すると、ふいに大きな魔力の反応を感じた。
「下がってください」
その反応は、こちらに向けて静かに言葉をかける。
ローブに身を包んだ者が、薄暗い場所に立っているがここからではわからない。
誰だ……?
一瞬の疑問を感じている間に、ドラゴンゾンビが動く。
だが、こちらも不意打ちされるほど意識は逸らしてはいない。
反撃をと思うも、ドラゴンゾンビは私から距離を取るように下がっていった。
……私ではなく。ドラゴンゾンビへの言葉?
その疑念を晴らすかのように、先ほど言葉を放った者がこちらにゆっくりと近づいてくる。
ローブに隠されていた体が時折わずかに見える。
骨……それに、霊体のようなもの。そして、こいつ自身の禍々しい魔力。
周囲がアンデッドだらけなため気づくのが遅れたが、こいつもアンデッドか!?
言葉を話せるほどの知能を持つアンデッド。
そんなものまで存在しているダンジョンだったのか。
この無数のアンデッドたちは、おそらくこいつの配下ということだろう。
「何者だ」
「ノーライフキング。一応は、彼らを統率する者となります」
ノーライフキング……不死の王……。
やはり、こいつがこのダンジョンを統べる者か。
こういう者は、もっとダンジョンの奥にかまえているものかと思ったが……。
このダンジョン、案外奥のほうは使い物にならなくなっているのかもしれないな。
「それでは、失礼します」
言葉も動作も、これから戦うと思えないほどに軽いものだった。
だというのに、不死の王の手のひらに燃え盛る業火が発生する。
やはり、私よりも強い……。
急ぎ魔法を構築するが、もはや消耗がなどという考えはみじんもない。
全力で目の前の相手と戦わなければ、生き延びることさえ困難な状況といえる。
そして、こいつさえ倒せばアンデッドたちは消滅するだろう。
最悪、相討ちだったとしても、私の部下たちはそれで生き残る。
あるいは、ダンテのやつがこの間にダンジョンを封鎖してくれれば……。
「いずれにせよ、簡単にやられるわけにはいかないな!」
迫る炎に向けて魔法を放つ。
威力はこちらのほうが劣るので、押し返すことはできない。
だが、勢いを緩めたのであれば十分。
こちらに到達する前に、身をかわすことだけを考える。
「思っていたよりも、器用な方ですね」
そう言った相手の両手には、雷と氷の魔法がそれぞれ構築されていた。
どの口で器用などど……!
魔法を構築する技術力ではかなわない。
ならば、せめて刺し違えてくれよう。
構築速度と威力だけを優先する。不格好にもほどがある魔法を練り上げる。
魔力の燃費は最悪で、力づくで撃つそれは一発で私の魔力の大半をもっていくだろう。
だが、どのみち先のことなど考える必要はない。
この一撃で倒せるのであれば、他のアンデッドたちの対処は不要となる。
この一撃で敗北するのであれば、魔力を残す意味もない。
「私とともに消滅してもらうぞ。不死王!」
放った魔力は制御が効かず、自らの右手を燃やしながら敵へと向かう。
無茶苦茶なことをしたものだ。だが、そのおかげでこちらのほうが速い。
敵の魔法は中断され、氷魔法をそのまま障壁代わりとしたようだ。
「未熟……というわけではありませんね。最善を選択し、自らの命を賭したわけですか……」
アンデッドなのでわかりにくいが、敵も必死にこちらの魔法を防いでいるように見える。
それとも、これは私の願望にすぎないのだろうか?
関係ない。どのみちここで全力を出す以外の選択肢など、もう存在しないのだから。
「貫けっ……!」
時間がない。
右手が徐々に崩壊していく。
その前になんとしても、ノーライフキングを倒すんだ。
その祈りが通じたのか、氷の壁に大きなひびが入った。
そして、次々と氷の中を走り、次の瞬間には砕け散った氷の破片が光を反射していた。
なんとも死に際にはもったいない光景だ。
——なに一つ目的も果たせなかった自分にはもったいない。
そう思いながら私が最期に見たのは、腹部をえぐり取られながらもいまだ健在の不死の王の姿だった。
◇
「お疲れ様です。油断しましたか?」
「いえ、創造主よ。彼女の魔法、つたないものではなく、実に見事なものでした」
「そうですね。命がけの攻撃。それには覚えがありますが、彼女はその中でも特に優秀だったと思います」
やぶれかぶれな行動ではなく、自身に酔ったわけでもない。
格上のノーライフキングとの戦闘において、彼女は最期まで最善を選んで行動し続けた。
……いいですね。これは、実にいい掘り出し物だったのではないでしょうか?
リピアネム様に切断されたエルフの男で我慢しようと思っていましたが、あれを適当にアンデッド化するよりもずっといい。
予定変更です。この子は私が、ノーライフキングを超える最高傑作にしてあげましょう。
「お手柄でしたよ。ノーライフキング」
「ありがとうございます……しかし、せっかく創造主からいただいた霊体を失うこととなり、申し訳ありません」
「いえいえ、まずはあなたの修復からですね。さあ、忙しくなってきました!」
これはまた、テラペイアに怒られてしまいそうですね。
聖光の刃のロマーナ。すばらしい検体になりそうです。
この子の部隊丸ごとをアンデッド化できたら面白かったですが、あちらはソウルイーターに呑みこまれている頃でしょうね。
死体が回収できないのであれば、さすがにアンデッド化はできないでしょうし、今回はこの子が手に入っただけでよしとしましょう。
「右手がちょうどありませんし、マギレマみたいに犬とつなげるのはどうでしょうね」
「……普通に蘇生させてあげませんか?」
ドラゴンゾンビに反対されてしまいました。
ノーライフキングは……同じく反対っぽいですね。
おのれノーライフキング。創造主よりも先輩に加担するとは。
上下関係がしっかりしていてなによりですね。
「まあ、そこはいずれ考えていきましょう。案外レイ様がとんでもない触媒をくれるかもしれませんし」
「それはさすがに……いえ……あれ? すごくありえそうですね」
「でしょう? まあ、まずはノーライフキングの修復からです」
結果は上々。おおむね予想通りであり、聖属性耐性もしっかりと確認済み。
最後の捨て身の攻撃もしっかりと聖属性だったため、耐性がなければ消し炭だったでしょう。
これで、私のアンデッドたちの弱点はなくなりました。
セラやエルフたちに、感謝しないといけませんね。
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