第146話 永遠の19

「例の聖属性集団って、エルフの中でも強いやつらってことでいいのか?」


「はい。やつらは聖光の刃といいまして、エルフたちのエリート部隊といいますか、最高評議会も認める戦力です」


「ちなみに、その最高評議会っていうのは?」


「すべてのエルフたちの統率者の三人ですね。最高評議会がエルフたちの女王のようなものです」


 つまり、国が認める戦力が駆り出されているというわけだ。

 どうにも、エルフたちは思った以上に本格的に、こちらのダンジョンを攻略しにきているらしい。


「そこまでの連中がきているのなら、エルフたちがここを本気で攻略してくれているってことだけど、国そのものと事を構えるってことにもなりそうだな」


 いつもならば、うまいことあしらって、なおかつ彼らが望むものを適当に用意してやって、そうしてダンジョンに通わせるようにする。

 だが、今回は少しばかり今までとは違う。


 これが、人間や獣人やドワーフならばよかった。

 彼らが望むものはこちらが差し出しても痛くないものだったからな。

 しかし、エルフが望むものはこちらのダンジョン魔力だ。

 さすがにそれらを渡してやるつもりはないし、いいように奪われるなどもってのほかだ。


「う~ん……当初の予定なら、それは歓迎すべきところだったんだけど。連中の目的がわかった今となっては、ちょっと面倒なことになってきているな」


 慎重なエルフを国ごと動かせたのなら、太客になってくれると思ったのに。魔力狙いなんてなあ……。

 すべて撃退すると目立つから、他のダンジョンみたいにたまには宝やボス討伐をさせようなんて考えもあったが、今はそれも消え失せている。

 だけど国が動いている以上、やりすぎるとどんどんこのダンジョンが脅威として認定される。


「最悪の場合崩すか?」


「まあまあ、せっかくレイが作ったのですから、あんな連中のために手放すことありません」


「フィオナ様……」


 前々から思っていたのだが、フィオナ様ってエルフが嫌いなんだろうか。

 言葉尻から、若干の棘を感じる。


「いっそのことこう考えてしまうのです。エルフたちの戦力を削ってしまおうと」


「戦力をですか……」


「そうです。エルフだってバカではありません。被害に目をつむることができなくなったら、さすがにダンジョンのことを諦めるでしょう」


「そう、うまくいきますかね。なんか最後の一人までも投入されそうな」


「それならそれで、エルフたちを排除できると考えればいいのです」


 なるほど……。

 その場合、あの厄介な転生者であるジノも、まとめてということになるか。

 それができるのなら一番だけど、エルフなうえに転生者となると、より一層警戒心が強そうなんだよなあ。


「ジノが他の国に救援を依頼するかもしれませんよ?」


「あまり大事になるようでしたら、崩してしまいましょう」


「あ、やっぱり放棄するんですね」


「ただし、入り口付近だけですが」


「あ~……そうすれば、エルフたちは激しい戦闘で崩落したと勘違いするとかですかね?」


 うまくいくのかな?

 エルフたちもバカではないと言ったばかりだが、そんな簡単に騙されるような相手か?


「エルフたちは、といいますか、最高評議会はとっくに気づいていますよ。レイのダンジョンが危険だということにね」


「そうなんですか? でも、それなら撤退しそうなものですが、なんで聖光の刃なんて投入してるんですか?」


「あの種族は見栄っ張りなんです。そして、他種族との力関係を重視している」


 なんとなく、そのあたりはクララから聞いたエルフ像にあてはまる。

 要するに、自分たちの力を自慢しつつ、他種族をけん制しているといった感じだ。


「なら、なおさら戦力を失うわけにはいかないんじゃないですか?」


 魔王軍だけでなく、他種族との争いまで視野に入れているのなら、余計に今の無茶なダンジョンへの進行はおかしい。


「見栄っ張りなんですよ」


「まさか……自分たちの推測が外れたことを認めるわけにはいかないとか?」


 だとしたら、その犠牲になる部下があまりにもあわれだ。

 うちのフィオナ様を見習え。プリミラに怒られるたびに謝っているぞ。


「それも少しはありますが、問題はこのダンジョンはこれまではダークエルフたちが探索し、無事に帰還していたということです」


「あ……たしかに」


 エルフやダークエルフの生態というか狙いがわからなかったので、クララたちが侵入したときは、極力被害を出さないようにしていた。

 その結果嫌がらせ特化ダンジョンになったわけで、後にクララたちに恐れられもしたのだが、まさかあのときのことが意味を成している……?


「自分たちの推測は外れ、調査対象は危険な場所でした。しかし、自分たちより弱いダークエルフたちは平然とダンジョンを探索していた。最高評議会だけでなく、エルフたち皆がそのことを許せないし、認めないでしょうね」


 プライドが高い種族って大変だな。

 素直に過ちを認めて、次に生かすのも一苦労というわけだ。


「そんなエルフたちに、ダンジョンが崩落したという言い訳を用意してあげたら、どうなると思いますか?」


「……なるほど。探索を諦めるには十分な理由ですし、それに便乗してきそうですね」


 ちょうどいい落としどころを用意して、誘導してやれるってことか。


「なので、レイは安心してエルフたちの戦力をごっそり削っちゃってください」


「怖いのはジノが、国松くにまつに事の顛末を話し、そこから人間の国と勇者が警戒することくらいですか」


 やっぱり、ジノが厄介だな……。


「それも恐らくは平気ですけどね」


「どうしてですか?」


「最高評議会は、恐らくジノという転生者をペットのように扱っています」


 俺と一緒だな。


「そんなペットに自分の恥をさらすような真似は、やつらはしません」


 そこはフィオナ様とは違うな。

 この魔族は恥を包み隠さず俺にさらすし。


「……なんか。変なこと考えてませんか?」


「いえ、まったく」


「むう……嘘は言っていなさそうですね。ならいいでしょう」


「ジノには、詳しい情報は入ってこないんですね」


「それどころか、自分たちの恥を隠そうと、できるだけ情報を探れないようにもするでしょうね」


 う~ん……なんというか、エルフたちの性格が見事にこちらに味方しているな。

 思えば、イドもその性格から、こちらの情報がばれずにすんでいるし。

 ……この世界、残念な性格の強者や権力者が多いんじゃないか?

 それに比べると、うちのフィオナ様は残念ではあるが、かわいい残念な方でよかった。


「……やっぱり、変なことを考えているような」


「フィオナ様の部下でよかったと考えているだけなんですけど……」


「そ、そうですか? レイは私の味方ですからね。魔王軍の一員として、これからも私のそばにいるのですよ?」


「はい。ダンジョン作りと宝箱作りをがんばります」


 ほんと、この力があってよかった。

 なんだか、他の種族に拾われていたら、ろくな目に合わなかった気がする。


「それにしても、フィオナ様ってエルフに詳しいですね」


 長命種同士、古くから敵対しているから詳しくなったとかだろうか。


「今、エルフたちを率いてる最高評議会とは、直接対峙したことがありますからね」


「ああ、前に倒したことがあるんですか」


「ひどいやつなんですよ。あいつらは」


 それで、なにやら嫌な思いをしたと。

 過去の因縁で、フィオナ様はエルフたちを嫌っているってわけだ。


「そうですよね? クララ。あいつら嫌なやつですよね?」


「ええ! 私たちダークエルフも、あいつらに何度煮え湯を飲まされたことか……」


 長命種同士の過去の愚痴が始まってしまった。

 この二人も、その最高評議会とやらも、いったい何歳なんだろう……。


 あれ、そういえば、ロペスってエルフのボスのことをババアって言ってたっけ。

 つまり、それと同じ年代であろうフィオナ様とクララってもしかして……。


    ◇


「うおっ!?」


「ど、どうしたロペス! そんなに悪い手札だったのか!?」


「ふっふっふ……だめだよ。ロペスくん。散々負け続けた復讐の時なんだから、ここで逃がすわけにはいかないからね!」


「だ、大丈夫だ……タケミ。トキトウ」


「本当に大丈夫なの? 体調が悪いのなら、テラペイアさんに診てもらったら?」


「ああ、悪いなオクイ。だが本当に大丈夫だ。なんか……とんでもない寒気がしたが、一歩間違えたら死ぬほど恐ろしいことになるって、直感が……」


「それ、本当に大丈夫なのかい!? まさか、ダンジョンにとんでもない侵入者が!」


「大丈夫だろ。だって、ここにはボスたちがいるんだぜ?」


「それもそうか……じゃあ、案外そのボスたちが、ロペスにお説教しようとしているとか……」


「やめてくれ……そんなことになったら、寿命が縮む」

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