第131話 献上品の贈り先に迷うServiam

「植物については、一家言あるかと思っていたのですが……日の当たらない場所でここまでの作物を……」


「レイ様特製の畑ですからね。この子たちもとても役立ってくれています」


「土と魔力がそもそも私たちの知るものとは別物のようです。そこにプリミラ様の水が加われば、これほどまでの成果となるのも頷けます」


「では、今のままが最適ということでしょうか」


「あとは……魔力でしょうか? もともと土には十分すぎる魔力が含まれていますので、干渉しない程度に成長を促進するように……」


 もともとそうするつもりだっただけあって、ダークエルフたちはプリミラの畑で、さっそくその知識を役立ててくれている。

 今でさえ、プリミラは薬草やら農作物を短期間で大量に作ってくれているが、今後はさらに良い成果を見込めそうだな。

 ……あのでかい果物とか、さらに大きくなってしまうんだろうか?


    ◇


「よ~し、自分たちの寝床なんだから、きれいに使うんだぞ~」


「はい! ……しかし、リグマ様。我々は村がありますので、こちらのダンジョンに住まうことはないのでは?」


「なにかあったときは、こっちに隠れ住む場合もあるだろ。まあ、やっておいて損はないな」


「魔王様の領土に住まわせてもらえるのですか……期待に応えられるようがんばります!」


「そうそう、真面目に働くんだぞ~」


 ダークエルフたちが調査していたダンジョンにも、宿屋を作成した。

 リグマやかつてカーマルが管理していた大きな宿ではなく、最小限の魔力で作った宿だ。

 なんでも、いずれはこちらに住む可能性もあるので、寝床は作っておくべきだということらしい。


 現在は、村からこちらに通っているので不要だが、もしもダークエルフ全員が移住なんてことになるとしたら、宿も大量に必要になるかもしれないな。


「……これでダークエルフたちに仕事を覚えさせたら、自分の代わりに働かせようとしてない?」


「げっ、カーマル。なんでいるんだよ」


「休憩中。どうせリグマに休みはないんだから、その教育は余計な仕事を増やしてるだけだと思うよ」


「不吉なこと言うな。俺はそろそろ隠居するぞ。ゆくゆくはお前らが宿の管理者になるんだ」


「たぶん、そうなったとしても別の仕事を率先してこなすんだろうなあ……」


「ほら、レイもそう言ってる」


「やめろよ。レイが言うと本当のことになりそうだろ」


 それを本当のことにするのは、隠された過労枠のリグマが原因だと思う。

 それにしても、宿の従業員としても育てているのか。

 これなら、もう少し大きな宿を……いや、そのためには客がいるな。

 ……マギレマさんのレストランに、宿泊施設を融合するか?


「おい、なんか変なこと考えているだろ! おじさん、これ以上の仕事はしないからな! アナンタ、止めろ! レイくんの暴走を止めるのは、お前の役割だろ!」


 暴走とは失敬な。

 宿の延長なんだし、ちゃんとリグマの管轄だぞ。

 まあ、それももう少し従業員の教育が進んでからか。


「リグマが苦労するだけだから、俺は別に怖くないからなぁ……」


「くそっ! いっそのこと、アナンタも巻き込んだ愉快な恐怖の施設でも考えてもらうしかねえか」


「巻き込むんじゃねえよお……!」


 管理者が2人か……。

 なら、しっかりと大きな宿泊施設にするのがいいだろう。

 泊まる場所と食事する場所だけでなく、娯楽室でもつけるか? なんか温泉宿を思い出した。

 ……温泉。できないかなあ。


「あの……もしかして、この宿はレイ様の建築魔法で作成を?」


「え、ああ。まあ、そんなところ」


 俺のスキルって建築魔法ってやつなんだろうか?

 聞いた話だと、魔法で建物を作るってことらしいから、きっと分類としては同じなんだろうな。


    ◇


「ほう、野菜や果物だけを食べて生きているわけではないのか」


「はい。私たちはわりと雑食ですので」


「本場のダークエルフの料理を食べられたのは、ありがたい体験だね~。そっか~、魔力が増強できるんだ~」


 さすが魔力に精通していると豪語するだけあり、食べ物まで魔力強化につながるようだ。

 フィオナ様が、私の1はここに落ちていたんですね、と喜んで食べたところ、なにも起こらなかったのは記憶に新しい。

 フィオナ様以外は、一時的に魔力が増えるが、時間が経つと元のステータスに戻るので、ゲーム中に一定時間のバフアイテムとして登場したのかもしれない。

 フィオナ様は、たぶんカンストしているんだろうなあ……。


 落ち込むフィオナ様だったが、マギレマさんは料理上手の種族ということで興味を持ち、こうしてダークエルフたちの食事を楽しんでいる。


「うん。やっぱり何人かうちで働いてみない?」


「お役に立てるようでしたら、ぜひとも」


「ネムちゃんも、そろそろ火の扱いとか練習させないとだし、人手が増えるのはいいことだね」


「任せておけ。竜である私ならば、火の扱いなど容易いものだ」


「ネムちゃん風属性だからどうだろうね~?」


 むしろ、調理中に空気をふんだんに送り込み、想定外の火力を出しそう。

 まあ、それもマギレマさんが見ていたら大丈夫だろう。


「それにしても、これだけの大きな食堂を回せるとは、マギレマ様とリピアネム様はすごい方なのですね」


「お姉さん、料理が好きだから」


「私は体力なら自信があるぞ」


 あれだけの客をさばけるんだから、二人ともタフだよなあ……。


「それにしても、食材の調達だけでも大変そうですね」


「そのへんは、レイくんが用意してくれるし」


 俺とフィオナ様のガシャの産物だな。

 この前、魔力を10000消費したが、蘇生薬は出ずに大量の食材が出てきた。

 今や食材はいくらあってもいいのだけど、やっぱり一番欲しいものでないと、ちょっとがっかりする。

 なんだかフィオナ様と慰め合うというか、傷を舐め合うような、だめなお決まりができつつある。

 まあ、フィオナ様がそれで喜んでくれるなら、それもいいのだろう。


    ◇


「いらないんだけどな~」


「ピルカヤ様のお仕事を奪うつもりはありません。しかし、私たちも自分の村の監視くらいは自分たちですべきかと……」


「まあ、それに関してはボクが君たちの仕事を奪うことになるわけだしね……わかったよ。見張りはするけど、村への危機は自分たちで察知してね」


「はい、おまかせください!」


 ピルカヤと監視体制について話しているようだ。

 たしかに、ピルカヤは広範囲を見通すことができる。

 フィオナ様が強化アイテムを渡してからは、より一層その力も強力なものとなった。


 しかし、ピルカヤ自身は分身できるとしても1人。

 さすがに情報量が多すぎると、処理しきれなくなるんだろう。

 だから、ダークエルフたちは、新たな監視対象である自分たちの村は、監視はともかく外敵の接近等まで見張る必要はないと意見していた。


「まあ、せいぜい油断して滅ぼされないようにね。捕まってボクたちのことを話しそうになったら、その前に燃やすから」


「すみません。そのときはお手を煩わせることになります……」


 彼らを信頼することになったあかつきには、ピルカヤと視界を共有してもらい、各地の監視も分担することになるんだろうか。

 いや、あいつのことだから1人でできると言いそうだな。


「……なに? なんか知らない連中に魔力を観察されるのって、気分よくないんだけど」


「し、失礼いたしました! 女王様が発見した痕跡から、非常に高い魔力をほこる方とは知っていたつもりでしたが、想像していたよりもはるかに高かったため、つい……」


「気をつけなよ。ボク、観察とか鑑定嫌いなんだ」


 ……知らなかった。

 でもたしかに、国松くにまつの件があったし、ピルカヤがそういうのを苦手とするのもわかる気がする。

 ……あ、俺もその後ステータス覗き見しちゃったよな。

 極光の炎で強化された結果を見るために……。


「え~と、あのときはごめんなピルカヤ」


「なに? なんのこと?」


「ほら、ピルカヤが強くなったときに、勝手に魔力とかを見ちゃったから」


「いいんだよ。レイは別だから」


 なるほど……たしかに、ダークエルフたちとはまだ初対面だもんな。

 国松はそもそも敵だし、味方からの干渉は気にしないってことか。


「強くなってたでしょ? ボク」


「ああ、そろそろ勇者とか倒せそうだ」


「まあね~。レイがそこまで言うのなら、勇者の1人や2人倒しちゃおうかな~」


「安全第一だけどな」


 まあ、それは今さら言うまでもないか。

 なんだかんだでこのピルカヤという少年は、その手の引き際というものを心得ているのだ。


    ◇


「ダークエルフたちは、よく働いてくれているようですね」


「はい。けっこう色んなことができるみたいなので、それぞれの適性にあった仕事を手伝ってもらうことになりそうです」


「ふむ……あまり重要すぎない仕事から任せたほうがいいでしょうね」


「いついなくなるかわかりませんからね……」


 まだ、完全に信用してはいけない段階だ。

 だけど、今日見たのが彼ら彼女らの本音であれば、今後は徐々に魔王軍として働いてもらえるだろう。


    ◇


「案外普通の仕事で良かったですね。女王様」


「ああ、もっときつくて辛い仕事でも、仕方ないと思っていたが」


「……やっぱり、女神が言うような恐ろしい種族ではないようですね」


「我々と同じなんだろうね……他種族のあらゆる負の感情のはけ口として用意されただけ。それが魔族なんだろうさ」


「なんとか魔王軍の一員となって、魔王様に認めてもらいましょう」


「……それはどうだろうね?」


「女王様? なにかお考えが?」


「四天王様方に信頼されていて、あのダンジョンの心臓となっているのは、魔王様ではないと思うんだ」


「……たしかに、あれらの管理者は別の方のようでした」


「レイ様。きっとあの方こそが、真に魔王軍を統べているお方なのではないかな? だとしたら、我々が頭を垂れるべきは、あの方なのかもしれないねえ」

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