第122話 私たちの成長はステータスでは見えない
さて、ダンジョンのモンスターや罠は、アナンタ監修によって調整できただろう。
一仕事終えて、俺たちはとある場所を目指して歩いていた。
アナンタは、なんかやけに疲れ切った様子で俺たちを見送っていたので、今ごろ休憩中だろうな。
「おや、レイ様。それにディキティスも」
訪れた部屋の主、エピクレシは不在ではなかったらしく、俺たちを出迎えてくれる。
というか、彼女は基本的にずっと部屋にこもっているから、いるだろうとは思っていた。
……また、研究とやらに没頭していたんだろうな。
せっかくの綺麗な髪はぼさぼさになっているし、目には大きなくまができているぞ。
「僕もいるよ~」
「ええ、イピレティスはレイ様と共に行動しているので、省きました。しかし、ディキティス」
「なんだ?」
「どうやら、レイ様とうまくやっているみたいですね」
「仕事だからな」
一緒にダンジョンについて考えていてわかったが、ディキティスは良くも悪くも仕事と感情をわけるみたいだからな。
俺への感情がどうかはさておき、こうして仕事をする分にはなにも問題はない。
「またまた~。レイ様のこと認めてるくせに~」
「ダンジョンの運営する力はまぎれもなく本物だ」
「じゃあ、側近として認めないような発言も撤回ですかね?」
「それとこれとは話が別だ。レイ様は……魔王様の側近などすべきではない」
「だめか~」
イピレティスのからかうような発言も、エピクレシの問いかけにも、ディキティスは冷静に受け答えするだけだった。
やはり、フィオナ様の側近というのは、ずいぶんと名誉ある称号なのだろう。
こうして俺の働きは認めてくれているディキティスだが、まだまだ側近として認めてもらうのは先になりそう……いや、俺側近じゃない……。
そういえば、本当はイピレティスが側近だったよな。
「?」
目線を向けるとイピレティスは、きょとんと首をかしげる。
このかわいいくせに物騒なウサギが、それだけ有能だということか。
そんなかつての側近がサポートしてくれていることだし、俺もせいぜいがんばらないとな。
「あ、僕がかわいくて眺めていたくなりました?」
「変なこと言ってると、フィオナ様がもっと変なこと言うからやめて」
「僕としては、あの魔王様にそんなこと言える方がすごいですけどね~……」
だって、最近では魔王らしいところ見てないからな……。
最後に見たのは……あれ、だめだ。過去に裏切られたと言ったときは、ちょっと怖かったけど別だ。
転生者たちの前で魔王らしくふるまってるのはボロが出てないだけだ。
……もしかして、魔王らしいフィオナ様って、初めて会ったときにイドたちを瞬殺したときくらい?
全然人類に危害を加えないし、フィオナ様ってつくづく魔王に向いてないなあ……。
「ところで、なにかご用だったのではないですか?」
「あ、ごめ~ん。脱線しちゃった。僕がかわいすぎるせいで」
「それはもういいですってば」
せっかくエピクレシが話を戻してくれたことだし、再びイピレティスとフィオナ様がかわいいという話になる前に、本題に入るとしよう。
「エピクレシの研究について興味があって」
「……ほほう。話が長くなりますがよろしいですか? この後数時間の暇はあるということですね? アンデッドのことですか? それとも、アイテムについて?」
食いつきがやばかった。
ちょっと待て、聞いてないぞ。ディキティスが提案し、イピレティスが賛同したことだろ。なんで、二人とも俺から少し離れているんだ。
「ええと……まあ、一旦落ち着いてくれ」
「おっと、失礼しました。ついつい熱が入ってしまいまして」
言葉は通じるタイプでよかった……。
これで、こちらの制止も聞かずに暴走して話し続けるようなら、俺はこの場から立ち去るところだったぞ。
「エピクレシのアンデッドたちって、強化するために実験しているんだよな?」
「ええ、実験内容と結果を聞きたいということですか? どれから話しましょうか? 触媒の選定もありますが、最近ではやはりアンデッド種によく合ったアイテムによる強化が主流ですかね? ほら、レイ様が作成された涙晶の霊骨。あれ本当にすごいアイテムなんですよ。私もあれほどではありませんが、そこそこのアイテムはもっておりまして……新たなアンデッドの触媒に使うべきか、今いる子たちの強化に使うべきか、悩んでしまうんですよね。いっそのこと、魔王様やレイ様に決めていただいたほうがいいかもしれないと思い始めてきたころなんですよ」
「ちょっと落ち着こう」
「失礼しました」
すっごい喋る。
ええと、今の言葉はアンデッド特有の強化方法についてだから、聞きたい内容ではないな。
「アイテムの使用以外に、魔力を注いだ実験とかはしてないの?」
「ああ、そちらですか。たしかに一定の成果はありますね。ですが、やはりアンデッドと相性のいいアイテムを使用するのとでは、効率が違いました」
「アイテムを使うのが一番ってことか。たしかに、ピルカヤもリピアネムもアイテムで強化されてるし、それが一般的なのかもしれないな」
まあ、リピアネムの場合は厳密には弱体化だが、力の制御ができるようになったのはまぎれもなく成長だからな。
四天王の二人が、フィオナ様から授かったアイテムで強化されたのは間違いあるまい。
「でも、魔力による強化も無駄ってわけではないんだよな?」
「はい。私は別の研究に魔力を使いたいので、早々に諦めましたが、なんのアイテムもなく強化できるという点は便利ですね」
それなんだよな。
これまでは、余った魔力がもったいないからダンジョンに適当な施設を作っていた。
しかし、モンスターたちを強化できるというのなら、そちらに回してもいいのかもしれない。
「その魔力による強化方法を教えてほしいんだ」
「ええ、かまいませんよ。アイテムによる強化方法もお教えします。ああ、せっかくなので触媒の選定方法や、環境によるアンデッドの特性の変異方法や進化についても」
「そっちは、そのうち必要になってからでいいかな」
「そうですか……」
無理強いしないのはいいところだな。
エピクレシは、ちゃんと魔力による強化方法だけを教えてくれた。
◇
「というわけで、さっそく実践してみよう」
「どのモンスターから強化するんですか~?」
「ソウルイーター」
「ぶっつけ本番がすごい」
あのイピレティスが、真顔になるほどの提案をしてしまった。
いや、ちゃんと考えあってのことなんだ。
「下手にゴブリンやミストウルフみたいに、群れで行動しているモンスターを一人だけ強化したらかわいそうじゃないか」
「かわいそうの定義がわからなくなってしまいますね~……」
「だって、仲間と違うことになるんだぞ。それが原因で仲間外れにでもされたらかわいそうだ」
「それで、一体だけで行動しているソウルイーターを?」
「あとは、あの子なら強いから、万が一俺がミスしても耐えてくれそう」
「なるほど~……いいですね。やりましょう!」
俺の説明に納得してくれたのか、イピレティスからの賛同を得る。
ディキティスも言葉少なめに肯定してくれたので、ソウルイーターに向かって魔力を注いだ。
やり方は、宝箱への魔力の注入と似たようなものだ。
ソウルイーターは、大人しく俺の魔力を受け入れて、というかなんか気持ちよさそうにしている気がする。
「あ、やば……」
「どうしました? 今のところ失敗はしていませんが」
エピクレシがしっかりと見てくれているので、そちらは問題ない。
問題は俺の魔力を注ぎすぎてしまったことだ。
もう少し気づくのが遅れたら、魔力が0になって強制睡眠に陥るところだった。
「魔力がもうなくなった。今日はこれで終わりかな」
ということで、ステータスを確認してみる。
ソウルイーター 魔力:68 筋力:53 技術:39 頑強:58 敏捷:50
ほんのわずかに変わったな。
全体的に1か2程度の上昇を大きいと見るか小さいと見るか。
「一応、ステータスの値は上がっているみたいだ」
「ええ、しっかりと魔力で強化されていることは観測できました」
「だけど、そこまで高い上昇値じゃないみたいだし、複数のモンスターよりは一体を集中して強化すべきかな」
「いえ、魔力による強化は、残念ながら回数を重ねるごとに効果は下がります……」
「え……それじゃあ、いずれは上昇値が0になるってことか?」
「そうですね……。いえ、何度も何度も注げばわずかに強化されるでしょうが、やはり効率が……」
ああ、そういうことか。
どおりでエピクレシが効率のために別の道を選ぶわけだ。
さすがに魔力だけで爆発的な強化というのは難しいようだ。
「そうそううまい話はないってことだな」
まあ、それでも少しは強化できたことだし、余った魔力はモンスターに注ぐという選択肢があることは覚えておこう。
それにしても、なんだかやけになついてくるようになったな。
もしかして、魔力を注がれるという行為は、モンスターたちにとっては嬉しいことなのかもしれない。
「ああ、そうだ。手伝ってもらったお礼にこれ」
そう言って、以前俺がガシャから引いた骨を渡す。
フィオナ様は、俺にくれると言ったのだが、見るからにアンデッド関連のアイテムだし、それこそアンデッドの強化素材にでもなるだろう。
「よ、よろしいのですか!?」
「え、うん。俺もフィオナ様も使い道ないし」
「ありがとうございます! 今後も誠心誠意お仕えいたしますので!」
フィオナ様はともかく、俺に仕えてどうするんだ……。
まあ、これだけ喜んでいることだし、アイテムもそのほうが本望だろう。
◆
オナカガスイタ
オナカガスイタ
ゴシュジンサマガヨンデイル
カラダガアツイ
体ガ温カイ
空腹ガ満タサレテイク
私が強くなっていく
空腹は消えていた
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