第118話 恥知らずの値打ち
「よくやった」
ディキティスの指示により、モンスターたちの動きが格段に良くなっている。
かつては魔族を率いていたようだが、モンスターたちでも問題ないようだな。
狼と蛇たちをうまく組み合わせて、あっさりと侵入者を退却させてしまった。
「すごいな。あんなに簡単に」
入口で追い払ったのは、さすがに最速記録じゃないだろうか?
なんなら、ダンジョンを作り込まずともよかったくらいには、序盤も序盤で引き返してしまった。
「エルフたちは慎重……だからな」
「ダークエルフといっても、そのあたりは変わらないか」
だとしたら、やっぱりエルフの転生者であるジノも、確実に逃さずに仕留めないといけないな。
もしも失敗したらすぐに逃げられるだろうし、せっかく隠せている魔王軍の復興がバレてしまう。
そうなったら、世界中がもっと本腰を入れて、俺たちを根絶やしにするために動きそうだ。
…………イドのやつ大丈夫かな。
あいつも、四天王や俺と遭遇している。
いまだ騒ぎになっていないということは、あいつがそのことを言いふらしていないのだろうけど、ちょっとした拍子で気が変わってしまったら……。
探して倒すか? いや、あのときは四天王たちとさえ渡り合っていた。
転生者もだが、勇者も下手に手を出すべき相手ではない。
俺にできることは、あいつらがこちらを本格的に攻めてくる前に、魔王軍とダンジョンを復興させることだけだろうな。
「……調子が悪いのなら休むべきだろう」
「あ、いや、悪い。ちょっと考え事をしていた」
急に黙って深刻な顔をしていたためか、ディキティスがそう提案する。
本心からか、皮肉かはまだわからないが、こちらは本当に調子はいいので、休んでいるのはもったいない。
「……このモンスターたち。本当にこちらの指示をよく聞くようだ」
そんな俺に気を遣ってくれたのか、ディキティスは珍しく自分からこちらに別の話題をふってきた。
たしかに、今回はディキティスの指示もあったが、がんばってくれたのはこいつらだな。
「やられてしまったやつらは、もう一度作成するよ」
「ああ……あの者たちの意志は、次の者たちが継いでくれるだろう」
「いや。なんか、うちのモンスターたちは、死んだ後に作成したら同じ個体が出てくるっぽい」
「そのようなことが……いや、そもそもここまで魔族に近いモンスター自体が異常だ。ならば、今さらのことか……」
やはり、ディキティスの目から見ても、うちのモンスターたちは普通ではないらしい。
まあそうだよな。あいつら絶対こっちの言葉理解しているし、なんなら個体ごとに性格違うし。
ゴブリンやコボルトのような亜人みたいなモンスターは、もはやうちの従業員に見えてきた。
「よし……これでやられたモンスターたちは補充できたな」
「……本当に、同じ個体のようだ。ああ、お前たちもよくやってくれた」
「俺の適当な指示と違って、ディキティスならモンスターたちの能力を十全に引き出せるみたいだし、これからは各ダンジョンのモンスターのまとめ役になってもらうのがよさそうだな」
「いいだろう。どの道率いる軍もなければ、攻め入る場所もないので暇を持て余すだろうからな」
軍団の司令ってことだったし、きっとかつての魔王軍では各国相手に戦い続けたんだろうな。
今のこそこそ引きこもり生活では、ディキティスの能力を無駄にすることになりそうだし、別の適性がある仕事をしてもらうのはいいことだ。
長らく似たような立場であったが、あのリピアネムでさえ、最近ではマギレマさんの手伝いや、荷物運びの力仕事を楽しんでいるしな。
「それでそれで~? どうだった?」
「どう……とは」
イピレティスの問いかけに、ディキティスは思い当たるふしがなさそうに聞き返す。
俺も、彼女が何を尋ねているのかはわかっていない。
「レイ様のこと、いい加減認める気になったんじゃないの~?」
……そういうの、本人がいないところでやってくれないかな。
「側近殿と呼んではいるが、この方は側近をすべきではない。その意見は変わらない」
だよなあ……。
フィオナ様に言われて、とりあえずダンジョン作成を一緒にやったけど、俺の戦う姿を見せたわけじゃない。
ならば、戦闘が本職のディキティスは、俺を認めることになどならないだろう。
「強情だね~。おもしろモンスターたちと、殺す気しかないダンジョン。なにが不満なのさ~」
「後者はお前の趣味だろう。モンスターたちが特殊であり、通常よりも有能で強いことは認める。その力がかけがえのないものであることも認める。だが、それとこれとは話が別だ」
意外なことに、ディキティスは俺のモンスターや力のことを認めてくれているようだった。
となると、やはり戦うための能力の不足が問題か……。
上に立つ以上は、俺自身も戦えないといけないということだろう。
そこをクリアしないと、ディキティスはいつまでも俺を認めてくれないか。
「よし、リピアネムに鍛えてもらうか」
「ま、まったまった~。え、正気ですか? 自殺志願? 殺意は自分にも向くタイプなんですか?」
「い、いや」
「……やめておいたほうがいい。向き不向きというものがある」
二人の魔族に即刻止められてしまった。
自殺扱いって俺とリピアネムを何だと思っているんだ。
それと、向き不向きって、俺の戦う力のことと、リピアネムの指導力どっちのことだろう。
「リピアネムも、最近では力を抑えられるようになったから、危険生物ではなくなっているぞ?」
自力ではなく、装備品で力を封印されているだけではあるが、結果としては同じことだろう。
「だとしても、魔王軍最強なうえ、頼られると喜んで受け入れるタイプですからね~……レイ様が僕たちくらいの強さになるまで、延々と鍛え続けそうですよ」
「リピアネム様のことだから、妥協しないだろうな」
「……人選を誤ったか」
であれば、別の戦闘職……。
うん。目の前にいるんだよなあ。
俺の視線に気づいたのか、ディキティスはゆっくりと目を横に逸らした。
しかし、遅れて気づいたイピレティスが、名案だというように声を上げる。
「そうですよ! ディキティスに鍛えてもらえばいいじゃないですか~! 得意だもんね? そういうのも」
「……悪いが断らせてもらう」
「やっぱりだめかあ……」
彼のお眼鏡にはかなわなかったようだ。
やはり、俺が戦う手段を得るというのは難しいんだろうな。
けっこうレベルが上がったというのに、ステータスもこんなんだしな。
どうだ
それ以外は相変わらず、低位のモンスターと争うレベルだけどな。
「側近殿は、なるべく表に出るべきではない。戦う手段を身につけるよりは、危険なことから離れるべきだ」
「うん? ほほう。レイ様が心配だと?」
「次のダンジョンに向かおう。他にも私の指示が必要なモンスターがいるのだろう?」
「あ、お~い! 無視は良くないと思うよ~! ディキティス~!?」
……もしかして、完全に嫌われているというのとは、また別なのか?
まあ、うまくやっていけるのなら、そのほうがいいな。
◆
「馬鹿な……私だけが生き残ったというのか」
目が覚めたら死に損なっていたことを理解した。
「魔王様。魔王様は……」
配下は全滅したのか、生き残りは逃げたのか、生きているのは自分だけ。
状況を把握するために、無礼ながら玉座へと向かう。
託された。だというのに、守れなかった。最後の一つだけでもせめて……。
「ようトカゲ野郎」
「……勇者!」
「戦士だ。最強のな」
うすら笑いを浮かべる虎の男。
満身創痍の身体では、その男の攻撃を防ぐことはできず。
私の意識は今度こそ闇に飲まれた。
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