第101話 偶然にも最悪な邂逅
「なんで、僕まで……」
「しゃあないだろ。人手は一人でも多いほうがいいんだから」
「じゃあ、ウルラガやアナンタやガナにも協力させればいいじゃん……」
「ガナはともかく、他は余計面倒なことになるから嫌だ」
「……まあ、そうかもね」
ダートルさんとカーマルさんに引率されて、今日は転生者である私たちで買い出しに行くことになった。
……これは、ほぼ完全にレイさんの信用を勝ち取れたんじゃないかな!?
よかったあ……モリーちゃんみたいになりたくないからね。
それにしても、ダートルさんとカーマルさんの話を聞いていると、どうやら私たちが会ったことのないスタッフがまだまだいるみたい。
それもトラブルメーカーっぽい?
そのあたりもあって、私たちと会わせないようにしてくれていたのかなあ。
「はい、お子様たち。今日は買う物が多いから、テキパキ動くぞ」
「はい!」
お子様扱いはあれだけど、最近繁盛しているマギレマさんの食堂のためのお仕事だからね。
しっかりと食材を買い足さないと。
「あ、美味しそう……」
「チョコか……。そういえば、マギレマさんはデザート類も作れるんだろうか?」
私がちょっとお高い感じのチョコを見ていたら、
あれが正妻の貫禄……どっちが正妻かはわからないけど。
「お子様たち、さっそくよそ見してんじゃねえ! 迷子になられたら困るぞ! あと、マギレマさんはデザートも作れる!」
「すみませ~ん」
しまった。言われたそばからダートルさんに、置いていかれそうになってしまった。
いや、でもしょうがないんだよ。
この街とんでもなく栄えている。人も多ければお店も扱ってる商品もすごい数。
次の休みは、
『迷子になったら、ボクが案内するから平気だよ~』
「それでも時間のロスにはなるからね。できるだけ、はぐれないようにはしてよね?」
「はい」
カーマルさん、小さいのにしっかりしているなあ。
もしかして、ロペスさんと同じくハーフリングで、外見以上の年齢なのかもしれない。
はぐれないように、はぐれないように……。
ん……?
1.裏切る → 生き延びる。人間の国に所属する。
2.裏切らない → 生き延びる。魔王軍に所属する。
……なにこれ。
なんで急にこんな選択肢が。
たしかに、毎朝裏切ったら死ぬよと脅してきたけれど、こんなタイミングで脅されたことは初めて……。
あれ? 裏切っても死なない。それに、人間の国に所属?
どういうことだろう……。
「トキトウさん。またはぐれそうになってる」
「あ、すみません。カーマルさん」
……あれ?
目の前にはカーマルさんと江梨子ちゃん。
他の人たちは? ダートルさん、風間くん、新ちゃん、友香ちゃん、ロペスさんは?
「ダートルたちは、ちょっと事情があって別行動してもらうことになったから、僕たちは僕たちで買い物をするよ」
「あ、はい。わかりました」
しまった。選択肢に気を取られて話を聞いていなかったみたい。
しっかりしないとなあ……。
「すみません。ちょっといいですか?」
「え、はい? 私ですか?」
気を引き締めようとした瞬間、出鼻をくじかれるように男の人に声をかけられた。
え~と、人間だね。獣人じゃない。ということは、知り合いってわけじゃないや。
……誰?
「なにかな? 僕たち買い物があるから、あまり時間取られたくないんだけど」
どう対応すべきか困っていると、カーマルさんが私より先に答えてくれた。
……やっぱり、この人年上なのかも。なんか、ダートルさんくらい頼りになる。
「すみません。そちらの二人にちょっと尋ねたいことが」
「ナンパなら他を当たってくれない?」
「う……そういうわけじゃなくて」
江梨子ちゃんが冷たくあしらうと、男の人はたじろいだ。
ナンパ……。初めてされた!
でも、どういう人たちなんだろう。人間と……エルフだよね?
なんとなく、エルフって他の種族と仲良くしているイメージなかったんだけど。
「僕の名前は
へえ、クニマツさん。くにまつさん。国松さん?
……日本人だ! 私や江梨子ちゃん。新ちゃんと友香ちゃんと同じだ!
あれ? この人もしかして転生者?
「う~ん、僕はいないほうが話しやすいかな?」
「すみませんが、そうしてもらえるならとても助かります……」
え、カーマルさん!?
もしかして、私と江梨子ちゃんだけで対応しろってこと!?
あ~……行っちゃったあ……。
『適当に話を聞いてみてくれる? そいつ、ボクたちの敵だよ』
……危なかったあ。
急にピルカヤさんの声が聞こえて、声を上げそうになったけどなんとか我慢できた……。
ええと……え、敵? この二人敵なの? そんな状況に私と江梨子ちゃん二人が取り残されたってこと?
た、助けて選択肢!
1.裏切る → 生き延びる。人間の国に所属する。
2.裏切らない → 生き延びる。魔王軍に所属する。
あ……あ~、そういうこと。
つまり、ここで裏切って国松さんについたら、生き延びて人間の国に行くことになる。
裏切らなかったら、今までどおり魔王軍として働くことになる。
うん。無理無理無理。いくら生き延びるって言われたって、絶対魔王軍のほうがいいじゃん!
「あの……大丈夫ですか? なんか固まっちゃいましたけど」
「気にしないで、この子たまにこうなるのよ」
ああ……選択肢のせいで、私が変な子扱いに……。
よし、これから挽回しよう。ええと、話を聞く。話を聞く。話を……。
「転生者なんですか?」
「そうだね。君たちと同じく、僕は転生者で元々日本人だった」
「……どうして、私たちのことを転生者。それも日本人だと思ったのかしら?」
「……見破る方法があってね。悪いけど、教えることはできないんだ」
見破れるんだあ……。
私も江梨子ちゃんも獣人にしか見えないはずなんだけどなあ。
「転生者である私たちに声をかけた理由は?」
「僕と、こっちのジノも転生者なんだけどね。仲間が集まらなくて難儀しているんだ」
「仲間?」
友達になろうみたいな感じかな?
「魔王を倒して、世界の脅威を排除するための仲間だよ。女神から聞いたよね?」
うえ~……。帰りたい。
こんな話していたら、ピルカヤさんやレイさんに裏切者判定されないかなあ。
平気だよね? ピルカヤさん見てるはずだし。
「挨拶が遅れたな。ジノだ。今はエルフをやっている」
あ、そういえば私たちも挨拶してないや。
「
「
……あれ? ジノ? 日本人にしては変な名前。
もしかして、ロペスさんみたいに外国の人なのかな?
「魔王……を倒すって、本当にそんなことできるの?」
「……残念ながら、今はまだ難しい。だが、ゲームのほうは俺も国松もクリアしている」
そうなんだ。江梨子ちゃんは途中で諦めたって言ってたし、この人たちすごいんだなあ。
「だから、魔王の倒し方はわかっている」
!? 魔王様の倒し方!?
え、あの魔王様って倒せるの?
……いやあ、無理でしょ~。だって魔王様だよ?
「倒し方ってことは、倒すためには条件が必要ということかしら?」
「そうなるね。あのゲームはフラグ管理が複雑すぎて、一概にこうとは言えないけれど、それでも魔王を倒すための事前準備だけは共通している」
「事前準備……それをしないと、絶対に倒せないということね」
「ああ、そしてこの世界ではそれが何よりも困難だ」
ゲームじゃないからねえ。
きっと、現実となったことで難しい条件になっちゃったんだろうなあ。
それで、その条件ってどんなものなんだろう?
「条件を詳しく教えてもらえるかしら? それを聞かないと、協力できるかも判断できないわ」
「悪いが軽率には教えられない。教えることで先走って動かれて警戒されたら、いよいよ魔王を倒すなんて不可能だ」
「……それで、仲間になるとでも?」
「ごめん。でも、僕の国の転生者たちは、転生してすぐに魔王へ挑んで帰ってきていない。その後も同じ結果ばかりで、これ以上魔王たちを刺激するのは問題なんだ」
……風間くんたちかな?
魔王様刺激されてるような様子はなかったけど……それは、事情を知ってる私たちだからそう思えるだけか。
「だが、必ずその条件を満たすように行動する。そのためにも、女神がばらまいた様々な能力から、条件を達成できる転生者を探さなければならない」
「ジノの力があれば、君たちも他の転生者も、女神の力をより強力なものとして使える。きっと、ばらばらに行動するよりも、手を組むべきだと思うんだ」
「……正直な話、あなたたちを信用していいのかわからない。だから、能力だってそう簡単に教えることも難しいわ」
「ああ、今はそれでいい。だから、俺と国松の力だけ教えておく。いつか気が変わったら、協力してもらいたい」
「僕の能力は鑑定。ごめんね。その力で君たちが転生者だってわかったんだ」
「俺の能力は強化魔法。肉体の強化だけでなく、なんでも強化できる。女神の能力もな」
王道っぽい力でいいなあ。
私の選択肢も便利だけどね。
でも、この中だと江梨子ちゃんが一番すごいかも。
「……なるほど、それじゃあジノの力は、転生者が集まれば集まるほど有効なわけね」
「ああ、効力の低い能力だろうと、俺がサポートすれば底上げできる。国松の鑑定の効果範囲を広げることで、あんたたちを見つけることもできたからな」
なるほど~……。ジノくんの能力で、私の選択肢を強化したらどうなるんだろう?
まあ、どうせそんなことにはならないし、考えてもしょうがないや。
「覚えておくわ。あとは……あなたたちの仲間の人数を知りたいわね」
「……残念ながら、転生者の仲間は俺と国松だけだ」
「で、でも、主人公のリックたち、勇者パーティも協力してくれているよ。ゲームのことは下手に話したらまたフラグがめちゃくちゃになるから話せないけど……」
勇者が仲間に……。なんというか、国松くんたちは順調みたい。
本当に女神様のお願いを達成できるのかもしれないな……。
魔王様を倒して、ゲームのエンディングを迎える……。魔王様が倒されるのは、困るなあ……。
「気が向いたらいつでも会いに来てくれ。国松か俺、人間かエルフの国を尋ねれば話を通せるようにしておく」
「ええ、覚えておくわ」
う~ん……全部江梨子ちゃんがやってくれたけど、とりあえず転生者たちはまだ二人ってことと、勇者が仲間ってこと、あとは能力がわかったくらいかあ。
魔王様を倒すってことは、いつかこの人たちと争うことになるんだよね……。
「それと」
「まだなにか?」
「この街は広い。人も多い。だから好都合なのかもしれないが、どうやら魔王軍の四天王が紛れ込んでいる」
「四天王……」
「ピルカヤという火の精霊だ。国松の鑑定範囲を広げているときに、ほんの一瞬名前だけ確認できた」
ピルカヤさんばれちゃってるよ!?
でも、一瞬だけってことは、すぐに鑑定の範囲から逃げられたって事かな?
「残念ながら、あの一瞬しか補足できなかったけどね……だから、君たちも気をつけてほしい。僕がもう少し鑑定を長時間使えたらよかったんだけど……」
「俺の力で効果も範囲も広げていたからな。負荷が高まりすぎた。なるべくあんな無茶はすべきではないだろう」
そういえば、心なしか国松くんずっと気持ち悪そうにしている。
……この辺もピルカヤさんやレイさんに話したほうがよさそうだね。
「ピルカヤが何を企んでいるかはわからない……本来なら、リックたち勇者たちが倒したはずだから、僕が鑑定できたのはわずかに生き延びた小さな火種かもしれない。だけど、君たちは十分気をつけてね」
「あ、はい……ありがとうございます」
ピルカヤさん。死んだと思われてる?
ああ、だめだ。色々あって考えがまとまらない。
レイさんに全部報告して、任せることにしよう。
◇
「まさか、本当にピルカヤが生き残っているとはね……」
「ああ、だが完全復活の前に倒せたのは僥倖だった」
「ありがとうリック。僕とジノだけじゃ、いくら弱っていたとはいえ四天王は倒せなかったよ」
「いや、こちらこそありがとうございます。クニマツさんがいなかったら、僕たちはピルカヤに気づけませんでした」
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