第102話 火の消える前に
『やばっ! ごめんレイ! ちょっと隠れる!』
「え、ああ。わかった」
いや、正直なところよくわからない。
視界こそ共有してもらっていたものの、俺には普通の街並みにしか見えなかった。
だけど、ピルカヤがそう判断したみたいだし、きっと間違いないのだろう。
『リグマさんもダートルのほうはできるだけ離れて! トキトウとオクイ以外の転生者も見つかるとよくない!』
『お、おう。じゃあ、二手に分かれることにする』
いつもより余裕がない。
リグマもそれを察したのか、すぐに二手に分かれた。
……もしかして、
ピルカヤが見破られるとしたら国松の可能性が一番高い。
それに、風間たちを連れて逃げるというのは、国松と風間たちが顔見知りだからだろう。
それだけでなくロペスもということは、ロペスから聞いたエルフの転生者ジノも一緒にいるのだろう。
そうか、大きな街だからな……。あいつらがいてもおかしくはないか。
『ふう……ごめんごめん。油断しすぎた。まさか、あんな広範囲から鑑定されるなんてね……ちょっと、転生者を甘く見ていたよ』
「転生者。それに鑑定ってことは、やっぱり国松のやつか?」
『うん、嫌~な力で見られている感じだった。事前にロペスが嫌な予感がするって教えてくれなかったら危なかったかもしれない』
ロペス……あいつ、本当に勘がいいな。
そんな能力を女神からもらったんじゃないかと思えるほどだ。
本人が言うには、転生前から直感は働く方で、ハーフリングに転生してそれが研ぎ澄まされたらしいが、立派な能力といえる。
『見られたのは一瞬だけだったけど、ボクの存在はばれたと思ったほうがいい』
「そうか……リグマたちは大丈夫か?」
『鑑定の範囲外に無事に逃げきれたね。カーマルは鑑定されても、リグマでなくカーマルという個体だから大丈夫だし』
そうか。リグマがわざわざ人格を分割しているのは不思議だったが、そういう利点もあるのか。
カーマルはリグマから独立した人格であり、鑑定されようがカーマルという個体の情報しか出てこない。
それなら、万が一鑑定されようが問題ない……大丈夫だよな? カーマルってゲームに出てないよな?
なんか、不安になってきた。いや、奥居だ。奥居はリグマを知っていたが、カーマルを知らなかった。
ならば、カーマルはゲームには登場しなかった設定なのだろう。
『今はトキトウたちが、クニマツたちから話を聞き出している。ボクはさっきの範囲外から探ってみるよ』
「気をつけてな。なにかあっても逃げることを優先してくれ」
『…………わかった』
なんか返事をするまでに間があったな。
もしかして、今もけっこうギリギリの状態で話をしているのかもしれない。
◇
「さてと……そうは言ったけど、ボクが生き返ったことはもうばれたわけだし、このままにはできないね」
あのムカつく獣人のときに失態を犯した。
ここでまた魔王様の足を引っ張るなんてあってはいけない。
「やあ、久しぶり。相変わらず能天気に女神の奴隷をやっていてムカつくよ」
「ピルカヤ……!」
目の前には勇者。剣士。精霊使い。聖女。
……弱体化していたイドより強いね。
蘇生後に鍛え直したんだろう。そういう慎重さも鬱陶しい。
「だめじゃない。ちゃんとトドメを刺さないから生き残っちゃったよ」
「ちっ……なら、今度こそ完全に消滅させてやる!」
ああ嫌だ嫌だ。暑苦しいったらないね。
炎であるボクよりも暑苦しい。
振るわれた剣をなんとか避ける。
炎の体さえも安々と斬り裂きかねない、理不尽すぎる剣技が襲ってくる。
「相変わらずムカつくやつらでなによりだよ!」
炎を向ける。対象は転生者二人。
元々こいつらのせいで、ボクの存在がばれたんだ。
八つ当たりというか、正当な怒りの矛先だよね。これって。
「そういうあなたは弱くなりましたね。以前の荒れ狂う恐ろしい火の力は見る影もありません」
「くそっ……」
聖女の結界に防がれる。
いいさ。ボクだってこんな攻撃で転生者を倒せるなんて思っていない。
「どうやら、以前の戦いで消滅しかけたみたいだね」
勇者……。こいつが一番厄介か。
「今度こそ倒してみせる。四天王ピルカヤ!」
「やれるもんなら、やってみろよ!」
できるかぎりの炎で勇者を包む。
だけど……ああ、やっぱりね。
その程度の炎なら突っ切ってくるだろうね。君は。
勢いそのままに、剣を横薙ぎに……体が斬られたか……。
「ボクが……また負ける……?」
「終わりだ。力を取り戻す前に見つけたのは幸いだった」
……意識が消える。
…………これで、すべては予定通りだ。
◇
「ただいま~」
「お、お帰りピルカヤ。なんか急に視界の共有が消えたから心配したんだぞ」
「ちょっと死んでおいた」
「なんて?」
死んだ? え、ピルカヤが?
「ほら、クニマツにばれたかもって言ったじゃん?」
「言ってたな」
「なんか、勇者たちも一緒にいたんだよね」
まじか……。
つまり、国松と勇者たちはすでに協力関係ということになる。
いよいよ国松が、危険な存在になってきたかもしれないな……。
「さすがに転生者たちと勇者にボクの蘇生がばれたらまずいでしょ? だから、目の前で死んできたよ」
「ええ……そこがわからないんだけど」
もしかして、今目の前にいるピルカヤは幽霊なのか?
精霊と幽霊って似たような存在ってこと?
「すごく弱っちい分体を作って、そいつで勇者たちと戦って負けてきたんだ。生き延びた雑魚のボクを、今度こそ倒したと思ったんじゃないかなあ?」
「分体が死んでも大丈夫なのか……?」
「若干弱くなったけど……まあ、回復薬でも使えばなんとかなるよ」
「ピルカヤ……無茶はいけません。すぐにこれを使いなさい」
「あ、ありがとうございます」
フィオナ様が回復薬を山程抱えて持ってきた。
ピルカヤがそれを使用したので確認すると、たしかにステータスは以前のものと変わっていないな。
「……ボクのこと鑑定した?」
「あ、悪い。弱体化がって話だったのでステータスを見た」
「まあ、レイならいいけどね。クニマツに見られたときみたいな感覚だったから、ちょっと警戒しちゃったよ」
リピアネムもステータスを見られて反応していたし、もしかしてステータスを見ていることって強者にはばれるのか?
プリミラもリグマも、それにピルカヤの初回のときもなにも言わなかったよな……。
「ステータス覗き見されてるって、感覚でわかるものなのか?」
「う~ん……クニマツの鑑定が力技だったからかな? なんか、わかるようになったかも」
なるほど……じゃあ、やっぱり最初から気づいていたリピアネムがおかしいだけだな。
それより強いフィオナ様は……もしかして、気づいているのか?
「あ、ボクが殺される前に、クニマツたちからトキトウが話を聞いてるはずだよ。あとで確認しておいたほうがよさそうだね」
「それは助かる。戻ったら聞いてみるよ」
とにかく、想定外のピンチをピルカヤが切り抜けてくれたみたいだ。
やっぱり、ピルカヤの能力は魔王軍にとって欠かせないものだな。
◇
「僕たちは四天王の生き残りがいたことと、討伐したことを報告しに戻ります」
「はい、僕が言うのもどうかと思いますが気をつけてください」
リックたちが去っていく。
本当に今回は同行してもらって助かった。
「まさか、四天王の生き残りがいたなんて……」
「かなり弱々しい状態だったのが助かったな」
本当にジノの言うとおりだ。
もしも、あそこにいたのが全盛期のピルカヤだったと思うと……。
この街の大半を火の海にされていたかもしれない。
しかも、その火で強くなるし倒しにくくなるし、ゲームと違って本当に恐ろしい相手になっただろう。
「でも……ピルカヤがこの街に現れるイベントなんてあったっけ?」
「わからない……だが、膨大なフラグとイベントのせいですべてを把握しているプレイヤーなんていないだろうからな。知らないイベントだったのだろうな」
「そうだね」
マップが変化したり、知らない街やダンジョンが現れるってことはないけれど、イベントや仲間になるNPCあたりは調べきれていなかったからなあ。
逃げ延びたピルカヤの討伐イベント。僕もジノも知らなかったけれど、なんとかなって本当に助かった……。
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