第99話 エルフと勇者たち、二度目の遠征計画
「アルマセグシアに!?」
「ああ、お使い程度に思われているが、なんにせよ許可がもらえた今、訪れておきたい場所ではある」
「そりゃあ、行けるならそうなるよね……」
情報の宝庫というか、情報が多すぎてわけのわからないサブイベントも大量に発生する場所だ。
当時は攻略に必要な情報の取捨選択ができずに困ったものだけど、今はどんな情報も重要だし行って損はない。
「幸いという言い方はあれだが、ジェルミ王子は死んだんだろ?」
「そうだね……あれでも最終戦まで残ったネームドキャラだ。死んだとなると、魔王軍。それも相応の強さの者が活動を再開しているんだと思う……」
「ディキティス。エピクレシ。イピレティスあたりかな……」
思い出すのは軍団の司令や、同レベルの強者、そして魔王の側近。
どいつもこいつも本当に強かったし、万全の体勢で挑まないとジェルミ王子だって当然敗北するだろう。
「その上かもな」
「その上って……まさか、四天王」
冗談でもやめてほしい。
リックたちに確認済だけど、プリミラもピルカヤもリグマもリピアネムも、すでに倒している。
魔王が健在なので、いつまでも死んだままということはないけれど、それだって魔王の力を使って数千年かけての復活となるはずだ。
……いや、それは魔王軍すべてを復活する場合だったか。
もしも、四天王一人だけの復活に注力すれば……それだって、百年単位の時間が必要のはず。
「リックたちは四天王を確実に倒している。あとはイドたちかもしれないけど、とにかく魔王以外は全滅しているはずだよ」
「本当にすべてか? 四天王はともかく、魔王軍全員を殲滅したってことはないと思うぞ」
「う……それは、そうだね。イピレティスとか、逃げに徹したら厄介だろうし、生き延びているかも……」
「四天王はともかく、他の魔王軍は誰が生き残っているかわからない。注意はしたほうがいいだろうな」
そのとおりだ。
四天王だけはゲームの進行上必ず倒さなければならないけれど、他の魔王軍はなんなら全員無視して進めることができた。
リックたちが、本当に魔王を倒そうと考えた場合、無駄な消耗を避けるために戦わなかったなんてことは十分考えられる。
「はあ……敵を倒したタイミング、残った敵と味方。そのあたりで全部分岐が変わるから、今がどんなルートなのかわかる気がしないよ」
「それはもう諦めるべきだろうな……せめて、最悪の事態だけは防がないといけない。そして、魔王も最強の状態に挑むことを考えるべきだろう」
魔王も条件によって強さや戦い方が様々だ。
最強の状態となると、大体の攻撃を二発喰らったら死ぬ。
一発で死なないのはゲーム開発者たちのわずかに残った良心によるものだろうか……。
それとも、どんな攻撃でも即死するクソゲーではないという言い訳のためか。
「なんにしても、情報は必要か……」
「ああ、それに人が集まる場所だ。協力してくれる転生者も見つかるかもしれない」
たしかに、ジノの言うとおりだ。
残念ながら、僕たちの国にはそんな転生者はいない。
今思うと、風間がいるぶんあの頃のほうがましだったのかもしれないな……。
そんな転生者たちも、城の者に呼び出されているところを見かけるので、なんらかの仕事を割り振られているようだけど、こちらに協力してもらうのは難しそうだ。
「今ならジェルミ王子の邪魔も入らないし、向かうにはちょうどいいかもしれないね」
「ああ、準備ができたらすぐに向かうとしよう」
話は決まった。あとは準備をするだけだったのだが、そこに第三者の声が入ってくる。
「僕たちも一緒に行っていいですか?」
「リック……」
そこにいたのは勇者一行。
ジノとの会話をどこまで聞かれていたかはわからない。
こちらは転生者探しとゲームの情報収集を行おうとしている。
そこにゲームの主人公たちを同行させるのは、正直なところ遠慮したい。
「いいんじゃないか?」
しかし、意外にも賛同したのはジノだった。
「原作キャラで、しかも主人公だよ?」
小声でジノにそう伝えると、彼は彼で考えがあったらしくそれを伝えてきた。
「ああ、それも人間の勇者ということは、一番他の種族たちを仲間にしやすいはずだ」
たしかに、リックは主人公の一人ではあるものの、正史というか開発がメインキャラと想定している節がある。
なので、様々な種族を味方に引き込めるようになっているのだ。
思い出すのはルフのこと。
あのときはタイミングこそ合わなかったものの、もしも会うことができていればリックたちの仲間になってくれていただろう。
僕一人だった場合はどうか。
まず無理だろうね。最低限の強さを示せなければルフを仲間にすることなどできない。
「……原作キャラはリックたちが、転生者は僕たちが仲間に引き込むってこと」
「そうなるな。仲間は多ければ多いほどいい。魔王を倒す条件のことを考えるならなおさらだ」
たしかに……少数精鋭だと魔王は絶対に倒せない。
仲間は一人でも多くつくりたいところだ。
「わかった……リック。一緒に行こう」
「助かります。転生者であるあなたたちが協力してくれるなら、道中もより安全になりそうですから」
それは……むしろ、こちらがお世話になりそうだな。
というか、勇者の期待に応えられるほどのレベルではない。
僕もジノもまだまだ低レベルだからね……。
ともあれ、僕とジノ、そして勇者一行はアルマセグシアへ向かうこととなった。
◇
「今ので全部かな?」
「……すごいな。こうして直接目の当たりにしたのは初めてだが、これが勇者の力か」
ジノが驚くのも無理はない。
原作主人公。一度蘇生して弱体化したとはいえ、そのレベルやステータスは僕たちの遥か上の存在。
戦い方一つとっても、僕たちでは足元にも及ばない実力差をまざまざと見せつけられているのだから。
「このあたりは、そこまで危険なモンスターは出てこないみたいなので、僕たちに任せてくださいね」
「あ、ありがとうございます……」
そうか。危険なモンスターじゃないのか……。
オーク種の上位モンスターたちに見えたんだけどなあ……。
それも、ロードが率いて強化されている群れだったのに。
「国松……。あのリックたちがさらに強かった状態でも魔王に負けたんだよな」
「そう聞いているよ……」
「つまり、最低でもあのレベルの強さが必要となるわけだ」
「……死ぬ気でレベルを上げないと、一生魔王を倒すことはできないだろうね」
「それだけじゃない。
「魔王相手に苦戦もできないか……」
いったい、どれほどの細い糸の上を歩くような道程となるんだ……。
いっそのこと、諦めてこの地で生活したくなってくる。
だけど、魔王にせよ狂神にせよ、いつ世界を滅ぼすかわからないやつらが健在な世の中で平和に暮らすなんて無理だ……。
「女神は、どうやって僕たちに魔王を倒させようとしているんだろう……」
「女神の加護、だろうな……」
鑑定で? 冗談はよしてくれ。
それとも、この力を僕が使いこなせていないだけなんだろうか。
転生者に与えられた力。それらを使いこなすことで、原作主人公たちに匹敵する力を得ることができるとでも言うのか。
「はあ……リックたちが、完全に魔王以外を倒してくれているというのなら、まだやりようもあったんだけどね」
「まあ、それが一番ではあるが。ジェルミのことを考えると残党はいるだろうな。リックたちが敗北したのも、案外そのあたりが原因かもしれない」
「となると、魔族の残党をなんとかしないとね……」
やっぱり、今世界中にいる魔族の位置を知ることができるような能力がほしい。
願わくば、アルマセグシアでそんな転生者に会えればいいんだけど……。
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