第83話 警鐘鳴りやまぬ夜
「私の畑が!!」
「俺の鳥が!!」
「落ち着けっての……あのハーフリングが崩したのは入口だけだ。畑もモンスターも無事だっての」
リグマの言葉と、ピルカヤが共有してくれた視界。
それでなんとか俺とプリミラは、互いの心配していたものたちが無事だったとほっと胸をなでおろした。
よかった……直前で崩落を察して、モンスターたちに逃げろと命令したおかげか。
「しっかし、すごいね~。ダンジョンの壁をあんなに簡単に壊せるなんて、レイくらいかと思ってたよ」
「最後に使っていた鍵だよな? あれって、こっちの世界のアイテムや装備だったりするのか?」
「いえ……あのような効果をもつ鍵など、私は見たことがありません」
フィオナ様の言葉に、他の四天王たちも頷いた。
ダンジョンの壁や床は、壊そうとするとフィオナ様でさえ一苦労するほどには頑丈だ。
それを一瞬でやってのけるってことは、やっぱりあのハーフリング、転生者なんだろう。
ロペス・トタネス 魔力:10 筋力:9 技術:52 頑強:11 敏捷:26
ステータスからして、ハーフリングが得意とする値がやけに高いとは思っていた。
しかし、こんな芸当ができるやつだとまでは思わなかった。
というか……今まで日本人の名前の転生者しか見ていなかったが、こいつはそうじゃない。
もしかして、あの女神海外からもこの世界へ転生させているのか?
「幸い今なら生き埋めになっている。ちょっくらおじさんが殺してこようか?」
たしかに、危険な相手だ。
リグマに任せようとしたその時、ピルカヤの視界の先で岩が崩れ落ちる。
そこから、やはり生きていたロペスの姿が確認できたが、その姿は偶然なのか降伏するように両手を上にあげていた。
◇
生き埋めを覚悟していた。
いや、なんなら岩に押しつぶされて死ぬとさえも思っていた。
だが、なんの因果か俺はこうして無事でいる。
それはいいのだが……問題は、この岩は俺を潰しかねない危険なものであると同時に、俺の身を守ってくれるものでもあったことだ。
つまり、それらが崩れて俺が無事に生還できた今。
あの鳥たちは再び俺を襲ってくる。
……と思ったのだが、うろうろと俺の周囲を飛び回るだけだ。
なんだ? なぜ襲ってこない。
また洞窟を崩すと思っている? いや、向こうは敵意はあるが襲えない。そんな雰囲気だ。
ということは、考えたくないがこいつらは野生のモンスターではなく、誰かに飼いならされているんだろう。
この薬草畑の持ち主に、侵入者を始末するように命じられていたか?
急に襲ってこなくなったのは、その持ち主がこいつらにそう命令した?
つまり、こんな恐ろしいモンスターを従える誰かが、今も近くで俺を見ているってわけだ。
そんなのはもう。魔王しかいねえだろ。
「降参だ。あんたに下る」
◇
「フィオナ様。下るって言ってますけど」
「え~? 私はちょっと気が乗らない……忙しいので、レイに任せます」
たしかに、忙しそうだな。
宝箱の前でなにやら真剣に祈っているし。
「じゃあ、俺が会いに」
「待ってください」
「え?」
フィオナ様の代理として、あのハーフリングに会おうとしたらすごい勢いで止められた。
「危険なことは?」
「しません」
「無茶は?」
「しません」
「よろしい」
なんだこの復唱。小学生じゃないんだから。
まあ、それでフィオナ様が満足するのならいいか。
「それじゃあ、改めて行ってきますね」
「なんにもわかってないじゃないですか!」
俺とフィオナ様のやり取りを、四天王たちは呆れたように眺めていた。
それほどか。それほどなのか。
ちゃんと護衛に四天王はつけるし、勇者もいないし、もしものときの不死鳥の羽も持っていく気だったのに。
「む~……それならまあ……ぎりぎりセーフですけど、最初からちゃんと言うように」
「すみません」
「相手は壁を崩す力だけど、なんでも破壊できるわけじゃない。それなら、モンスターを破壊しているはずだしね」
「ということは、崩落や岩盤の破壊のような限定的な能力ってわけだ」
「であれば、レイ様のスキルのほうが優位ということになりますね」
「なにかあれば私が全部壊して倒してやろう。あの大広間ごと」
四天王たちの分析と、破壊の化身の頼もしさのおかげか、フィオナ様は先ほどよりも安心して俺たちを送り出してくれた。
リピアネム。本当に、戦いにおいてはフィオナ様に信頼されているんだな。
◇
そうして、プリミラの薬草畑に道を作り中へと入ると、ハーフリングはひきつった表情で手を震わせながらあげていた。
ああ、そっか。長時間両手をあげたままだから疲れたのか。なんか悪いな。
「下るって言っていたが、俺たちが誰だかわかってるってことか?」
「イエス、ボス。魔族っていうんだろ? 俺は転生者のロペス・トタネス。残念ながら、役立つ情報は持っていないが、こう見えて手先だけは器用なんだ。なにか役立てると思うぜ」
俺の問いかけに答えている。しっかりと俺の目を見ている。
ということは、降伏のふりではなく、本当に敵意もないってことだな。
「よろしく、ロペス。俺はレイ。こっちがプリミラにピルカヤにリグマにリピアネムだ」
「ああ……よろしく頼むよ。旦那に姉御」
震えているな。
グリフィンたちが怖かったのか。それとも四天王の実力が理解できているのか。
転生者と言っていたが、もしかしてゲームプレイヤーなのか?
「ロペス。お前、ゲームプレイヤーか?」
「い、いや……あいにくテレビゲームなんてものに縁はなくてな。すまねえボス。力にはなれそうにない」
そうか。うちもこれで六人目の転生者がフィオナ様の部下になったわけだが、つくづくゲームプレイヤーと縁がないな。
さすがはフィオナ様。くじ運が全然ないんだあの魔族。
「まあいいか。とりあえず、宿か商店を手伝ってもらいつつ、なにができるか考えるか」
そう言うと、ロペスはしっかりとついてきた。
これまでで一番反抗的じゃないな。なんというか、従順というか……。
こいつ、裏切ろうとか考えてないよな? ここまですんなりいくと、逆に怖いんだけど……。
◇
女神の力は便利だ。
与えられた開錠の力だって、使いようによってはずいぶんと役に立つ。
だが、それだけだ。信用するつもりはない。
俺が信用しているのは、転生前も転生後も直感だけだ。
その直感が最大限の危険を伝えている。
「下るって言っていたが、俺たちが誰だかわかってるってことか?」
この男だ。一見すると俺一人で倒せそうな魔族の男。
この場所にきて、あの鳥どもが男にじゃれついている。
つまり、こいつがこの洞窟の主であり、魔王ってわけか……。
周囲の魔族の男女は、見るからに危険で俺なんかじゃ太刀打ちできそうもない。
そうか、魔王の側近やら幹部やらってわけだ。
あの魔王。弱そうに見えて、手を出したらこちらが死ぬような嫌な予感しかしない。
人が悪い。つまり、あの姿は擬態ってわけだ。
「イエス、ボス。魔族っていうんだろ? 俺は転生者のロペス・トタネス。残念ながら、役立つ情報は持っていないが、こう見えて手先だけは器用なんだ。なにか役立てると思うぜ」
逆らってはいけない。
へまをしたのは俺だ。今後はこの魔王、いやボスの下で、なんとか役立つってところを見せないとな……。
なに、大丈夫だ。俺の直感では死ぬほどのことではなかった。
今もこうして生きている。
きっと、このボスの下で従順に働けば、今後もひとまずは命だけは保証されるだろう。
「ああ、そうだ。あとで魔王様にも会ってもらうから」
「ああ……え?」
後日、ボスに紹介された本物の
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