第81話 マッチポンプの焼き畑農業寸前

「試したい」


「急にどうしたの?」


「昨日鳥系のモンスターたちを作っただろ?」


「そうだね」


「あいつらがどんな活躍するのか試したい」


「興味本位で人類に新しい危機が訪れそうになってるねえ」


 ピルカヤはそう言うが、別に危機ってほどではないだろ。

 なにも野に放って人類を襲うってわけじゃないんだから。

 あくまでもダンジョン内に配置して、航空戦力の優位性を目にしたいだけなんだ。


「でもなあ。今のダンジョンって、そこまで天井が高くて広いエリアはなかっただろ?」


 リグマの指摘はもっともだけど、なにも俺はあいつらの活躍を見たいだけでこんなことを言っているのではない。


 大広間作成:消費魔力 20


 倉庫代わりに適当に広間を作り続けていたら、ダンジョンマスタースキルさんが気を利かせてくれたのだ。

 これはもう試してみないことには失礼だろう。


「実は大広間っていうのが作れるようになったからな。こっちのほうも試してみたい」


「試すといっても、どこに作るのだ? モンスターたちを戦わせる以上、侵入者たちが立ち入れない場所では意味がないだろうし、今のダンジョンを拡張するにしても、大広間という名のとおりならば変化が大きすぎるように思えるのだが」


「リピアネムに正論を言われる日がくるとは……」


「レ、レイ殿!? それはどういう意味だ!」


 だってお前は、初期ダンジョンに四天王の自分を配置しようとしていたやつじゃないか……。

 それが今やこんな真っ当な指摘をしてくるとは、リピアネムも日々賢くなっているのかもしれない。


「いっそのこと入口付近に大広間だけ作るのいかがでしょう?」


 プリミラがそう提案してきたが、それはどうだろう……。


「宿や商店とは別にってことか? でもそれこそ入口に急にそんな空間ができていたら、侵入者たちが警戒するような」


「これまでのダンジョンではなく、大広間だけの場所を作るということです」


「つまり、新しいダンジョンを作るってことか」


 う~ん……。

 まあたしかに、そろそろいいかもしれないな。

 侵入者たちの管理も、宿と商店と採掘場の運営も、今なら順調でなにも問題はない。

 ならば、今のうちに魔力を消費して四つ目のダンジョンというのも……。


「いえ、大広間だけのダンジョンです」


「……それってダンジョンっていえるのか?」


「単刀直入に言いますと、畑がもっと欲しくなってきました」


 プリミラが、そんな自分の事情でなにかねだるなんて珍しい。

 ……いや、畑や果樹園に関しては妥協しないから。そう珍しくもないか?


「別にそれくらいなら、言ってくれたらいつでも作るけど。いつもの場所を拡張するだけじゃだめなのか?」


「魔力に敏感な薬草や果実もありますので、魔王様のような方が近くにいると問題が……」


 ちらっとフィオナ様のほうを見ると、フィオナ様は心外だというように口を尖らせた。


「なんですか。まるで私が作物に悪影響があるみたいに」


「うまく育てば、より魔力を回復できる薬が作れるかもしれません」


「がんばってください! プリミラ!」


 現金なものだ。

 そして期待しながら俺のほうを見てきたということは、もはや魔王命令のようなものということになる。


「あくまでも畑のための大広間を作るだけで、ダンジョンというわけではないってことか」


「はい。難しいでしょうか……」


「いや、作るだけならすぐ終わるぞ」


 大広間作成:消費魔力 20

 畑作成:消費魔力 10

 果樹園作成:消費魔力 10


 畑や果樹園を複数設置するなら一度には無理だけど、何度かにわければすぐにできあがりだ。

 ただ、本当に空洞に畑があるだけとなると、ちょっと心配なことがある。


「それこそ侵入者たちに荒されないかだけが心配だな」


「そこで、グリフィンたちをお借りできればと思いまして」


「なるほど、それならプリミラの畑も守れるし、大広間であいつらの活躍も見られる。せっかく作ったのに活躍の場がなくなるってこともないわけだ」


 うん、都合がいいな。

 もとよりフィオナ様の命令ではあるし、断る理由もない。


「作るならここか、ここか、あとこのあたりもよさそうだね。適度に侵入者がくるかもしれないよ」


「ありがとうピルカヤ。人間と獣人と……ここは、どの種族の土地だ?」


「ああ、そこね。そこはハーフリングたちの住んでいる場所だよ」


 ハーフリングか……。

 まだダンジョンは作っていないけど、ドワーフたちのダンジョンで何度も侵入しているし、捕獲して従業員にもしたからわりと知っている種族だ。

 彼らは罠を解除したり探知したりと、探索という面ではかなり優秀な種族といえる。

 半面戦闘能力はそこまで高くない。


 獣人たちのようにムキになって何度もダンジョンに挑むこともないだろうし、人間たちのように欲深くダンジョンの利益を求めることもない。

 いや、わりとがめついけれど、損得勘定はきちんとしているので、無茶な挑戦はしないだろう。


「ここに作ってみるか。ハーフリングたちなら、一度侵入して鳥たちに襲われて撤退することがあれば、深追いすることもなさそうだし」


 フィオナ様がうなずく。

 魔王様の許可も下りたことだし、さっそくダンジョン。もとい畑づくりを始めよう。


    ◇


 今日もドワーフたちの依頼でダンジョンの罠を対処した。

 連日需要があって稼ぐチャンスなのはありがたいけど、それだけ突破が困難だということでもある。

 というかなんだよあそこ。廃ダンジョンのくせに、どのダンジョンよりも罠だらけで殺意ばかりじゃないか。


 そんなわけだから、俺たちには仕事が大量に舞い込んでいるけれど、あそこの罠をすべて解除できる日なんてくるんだろうか……。

 というか、油断していたら解除した罠が元に戻っているのが嫌らしい。

 魔王がそこまで厳重に侵入者を撃退するってことは、絶対に過去に重要ななにかがあったダンジョンだろ。


「なんだここ?」


 俺を含め、ハーフリングたちは稼ぐチャンスなので、危険との兼ね合いを常に考えて行動している。

 なので今日は一人帰ろうとしていたのだが……帰り道に見覚えのない洞窟を発見した。


「畑……?」


 洞窟というか、畑だ。

 それもかなり広いうえ、誰かが作物を育てているのか土の上に緑や赤の葉が見える。


「薬草でも育てているのか?」


 見たところ順調に育っているようだ。

 人が立ち入った気配もあるし、やはり誰かがひっそりと薬草を育てていた場所なのだろう。


「品質は……まあ、俺にはわからないよな。専門外だし」


 俺が商人だったらその薬草の質がわかっていたのかもしれないが、あいにく鍵開けや罠の解除が得意な平均的なハーフリングだ。

 まあ、下手に薬草をいじったり、ましてや勝手に摘み取るなんてしないほうがいい。

 こんな場所で育てている変わり者の恨みを買う方が損だろうからな。


「変わったやつもいるな」


 ああ、そうだ。あいつにでも話してみるか。

 薬師を名乗るあの男。なんでも獣人たちに売りつけるチャンスだとかで、今なら薬の材料を高値で取引するって言ってたっけ。


「もしかしたら、あいつにとっては宝の山かもしれないしな」


 そうひとちて引き返すと、背後からなにかの鳴き声のようなものが聞こえた。


「……気のせいか」


 ずいぶんと小さい声だったし、遠くにモンスターでもいるのかもしれないな。

 出くわす前にさっさと帰るとしよう。


    ◇


「広くて育てがいがあります」


「それはよかった」


 プリミラは無表情ながらも、ウキウキとご満悦だ。

 大広間。めちゃくちゃ広かった。

 こう広いと、強大なボスでも置きたくなってくる。


 今回はボスではなく畑を大量に設置したので、プリミラはフィオナ様に言ったとおり、魔力回復のための薬草を育てているらしい。

 フォレストフェアリーやプラントゴーレムも、たまにこちらへ出張して作業してくれている。


「それにしても、さっきのハーフリング、すぐに引き返しちゃったな」


「グリフィンたちが追い返す必要もありませんでしたね」


 少し残念だ。

 グリフィンたちの雄姿を見てみたかったのだが……。

 まあ、そのうち機会に恵まれることだろう。

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