第80話 動物パニックの原典

「レイ~。今日も宝箱ガシャしましょう」


「だめですよ。俺がやっても、フィオナ様と結果は変わらないってことは、わかったじゃないですか」


「数撃てば当たります!」


「もうちょっと余裕ができてからです」


「うぅ……欲がありませんね」


「また今度つきあいますって」


 欲はあるけれど、俺にはあのガシャは高級すぎる。

 フィオナ様の馬鹿げた魔力あってこその娯楽だと実感した。


「それでは、私はまたしばらく一人で宝箱を育てるんですか……」


「他の四天王を手伝うとかでもいいんですよ? リピアネムと違ってフィオナ様は力の制御ができますし、やる気がないだけなんですから」


「レイ殿。私もいずれは力を制御できると思うのだが……」


「レイ。私はやる気はありますが、気が乗らないだけなんです」


 リピアネムはともかく、フィオナ様のそれはなにが違うんだろう。

 まあともかく、二人とも働くのはまだまだ難しいってことだけはわかった。


「しょうがない。レイくんもやる気みたいだし、そろそろおじさんも宿を見に行くかな」


 とか言いつつ、きっと俺がなにも言わなくてもリグマは宿の様子を見に行っていただろう。

 ついでに隣の時任ときとうの商店もだ。

 宿はいまだに順調に客が入っているし、商店もあの商品横流し以来至って順調。

 獣人たちのほうだけでなく、ドワーフたちのダンジョンも問題は起こっていない。


「カーマルからなにか要望ってあがってるか?」


「いや? おじさん会議しても問題はないってさ。ハーフリングたちも案外戦力になっているみたいだなあ」


「ついでに隣の商店も問題なさそうだね。風間かざまたちが思ったよりも役立ってるよ。カールが魔石の加工に集中できるくらいにはね」


 そうか。あいつらも真面目に働いてくれているんだな。

 当初は、転生者なんて魔王であるフィオナ様に絶対従わないだろうし、従業員は現地の者がいいと思っていた。

 だけど、あの女神のやつが現地の種族を変に脅していることがわかったため、むしろ転生者のほうが御しやすいのではとさえ思えてきた。


「プリミラのほうはどうだ? 結局畑の人員はモンスターだけになっているけど、人手は足りているか?」


「はい、問題ありません。レイ様とあの子たちのおかげで、作業ははかどっています。……なので、リピアネム様の手をわずらわせる必要はありません」


「む……では仕方あるまい」


 よく見ているな。

 どうやらリピアネムは自身が手伝うことを提案しかけていたようだ。

 プリミラに先手を打たれたことで、リピアネムは上げかけていた腰を下ろした。


「それにしても、意外とモンスターたちって役立っているのか……」


「ええ。あの子たちはとても賢いですし、器用ですし、真面目ですから」


 気のせいだろうか。

 器用のときにはリピアネムを、真面目のときにはフィオナ様を見ていた気がする。

 本人たちが気づいていないし、見なかったことにするか。


「最近罠ばかり作っていたからなあ。モンスターガシャを全然回していないし、そろそろ余った魔力を使ってもいいかもしれないな」


「いいと思います。きっと侵入者の迎撃以外でも役立ってくれますよ」


 実際にモンスターたちと働いているプリミラからのお墨付きだ。

 きっと、彼らは俺の想像以上にできることがあるのだろう。


「レイ~。宝箱ガシャに役立つモンスターを作ってください~」


「無理ですよ……」


 幸運を呼び込む系統のカーバンクルみたいなモンスターでも作ればいいのか。

 いっそミミックでも作って、魔力注入中に指を噛まれたら宝箱ガシャ中毒治らないかな。


「まあ今回は適当にガシャを引いていきますよ」


「恒常ガシャですね」


 もうフィオナ様はだめかもしれない。

 いや、合ってはいるんだけどね。


 さて、現在の俺の魔力は……。


 和泉いずみれい 魔力:62 筋力:22 技術:30 頑強:31 敏捷:21


 そしてモンスター作成のメニューはこの三つか。


 モンスター作成:消費魔力 5

 中位モンスター作成:消費魔力 10

 上位モンスター作成:消費魔力 20


 ここは当然、上位モンスター作成だな。


「俺の魔力が62なので、消費魔力が20のモンスターを作成します。3連ガシャですね」


 ……いかん、俺までガシャ脳になりそうだ。自重しないと。

 フィオナ様以外は、ついていけなくなっている表情だ。


「鳥だ」


「馬じゃないですか?」


「レイ様はともかく、魔王様までなにを言っているのですか。ヒポグリフですね」


 体の前半分が鳥で後半分が馬なので、俺もフィオナ様も合っている。

 それらの混合のモンスターは、どうやらヒポグリフというらしい。


 ヒポグリフ 魔力:42 筋力:48 技術:63 頑強:46 敏捷:68


 なるほど。ガーゴイル同様に高水準のモンスターだ。

 敏捷が高いのは馬だからだろうか。

 解放されたメニューを見ると、消費魔力は20なので上位モンスターではあるが、このレベルになってくると十分頼りになりそうだな。


「そうそうハズレなんていないだろうし、安心して回せそうだ」


「そこが、私の宝箱ガシャとの違いですよね~……」


 いや、フィオナ様のだって一点狙いじゃなければ当たりだと思うんだけどなあ……。

 理想が高いのは魔王なのでしかたがないのかもしれない。


「次のモンスターは。あれ、またヒポグリフ……じゃないな」


 巨大な鳥だけど、体の後ろがやはり鳥ではない。

 こっちは俺も知っている。体の半分がライオンの幻獣としてわりとメジャーだ。


「グリフィンですね。ヒポグリフ同様に、頼りになる優秀なモンスターです」


 グリフィン 魔力:40 筋力:54 技術:55 頑強:49 敏捷:60


 似通ったステータスだけど、こちらはヒポグリフよりも敏捷値が低い。

 筋力が高いってことは、パワーはこちらのほうが上ってことか。


「当然というか、こいつも上位モンスターだな」


 まあ、別に問題ない。

 でも、これまではガシャのうち一体は回しているガシャの一つ上のランクのモンスターが出てきていた。

 今回も……いや、その思考がフィオナ様の始まりだ。

 いいじゃないか。上位モンスター。フィオナ様も頼りになる優秀なモンスターって言ってるいるし。


「それじゃあ、最後のモンスターは」


 鳥だ。

 だけど、今回はヒポグリフでもグリフィンでもない。

 鳥は鳥でも巨大なニワトリが現れた。

 よく見ると尻尾が蛇になっているので、体の大きさを除いても明らかに普通のニワトリではない。


「コカトリスか。見事に鳥系のモンスターばかりだったな」


「コカトリス」


 それもなんとなく聞いたことがあるような気がする。


 コカトリス 魔力:52 筋力:44 技術:58 頑強:35 敏捷:51


 先の二体にこそ劣るものの、やはりそこは上位モンスター。

 ステータスの水準は十分高く、バランスのいい値でまとまっているみたいだ。


「コカトリスは、毒が武器だね。獣人ダンジョンにでも配置する?」


「バジリスクみたいなものか」


 それでもこちらは上位、向こうは中位モンスター。

 その差はステータスの高さによるものなのか、あるいは毒の強さによるものなのか。


「空から石化と毒をばらまけるから、バジリスクより広範囲に対応できるよ」


「え、こいつ飛べるの? ニワトリなのに」


 そりゃバジリスクの上のモンスターになるはずだ。

 空中から状態異常をばらまいてくるモンスターとか、迷路に配置したら一方的に蹂躙しそうだぞ。


 俺の言葉にどこか誇らしげなコカトリスと、自分たちも優秀だぞと言いたげなヒポグリフとグリフィンたち。

 ……君らわりと知能高そうだね。でかい図体しているくせに、なんだかモンスターたちがかわいく見えてきてしまった。


    ◆


「なんかやけに広いマップだな。絶対なにかあるだろ」


「ボス戦でも始まるのかもしれないな」


「というかセーブまだ? こんなところでボス戦始まっても、またここに戻ってくるの大変なんだけど」


 やけに開けた遮蔽物のないマップ。

 操作キャラはその中央を進んでいく。

 ある程度進んだときにそれらは現れた。


「ん? なんか、羽ばたくような音が……おおっ!?」


 操作キャラが吹き飛ぶ。

 HPはボス戦ほど削られたわけではないが、連続して喰らうとさすがに倒れるだろう。


「なんか急に鳥が!」


 彼の操作キャラを吹き飛ばしたのはグリフィン。

 それも一頭だけではなく、複数のグリフィンがヒポグリフとともに襲いかかる。


「だりい! 数が多すぎるって!」


 一対一であれば、その場で倒して先に進むだけでよかったかもしれない。

 しかし、さすがに複数の敵キャラに囲まれたのであれば、そのまま戦うことは愚策といえる。

 彼らは短くないプレイ時間からそれを理解していた。


「とりあえず逃げる!」


「それがよさそうだな。空中にいるから攻撃当てにくそうだし」


「遠距離攻撃用意していないとめんどくさそう」


 追ってくる鳥型のモンスターたちから逃げていると、彼はHPが減り続けていることに気がついた。


「あれ……なんか毒喰らってね?」


「というか、石化ゲージがどんどんたまってるしやばそうだな」


「ええ!? なんで!?」


 異変に気付き、ふと追ってくる敵の集団を見ると、そこにはニワトリの姿もあった。


「コカトリスじゃん! お前、ニワトリのくせに飛ぶんじゃねえよ!」


「あ~……空中からずっと状態異常喰らってたのか」


「これはもう無理そうだな」


 その言葉どおり、必死の逃走もむなしく操作キャラが硬直した。

 石化の状態異常が発症し、毒で削られ続けた残りわずかなHPもヒポグリフの突進で露と消える。


「クソゲー」


「慎重に進んで一匹ずつ処理しないとだめそうだな」


「あ~……もしかして、またあそこからやり直し?」


「セーブまだなかったからな」


「はい、クソゲー!」


 そう言いながら、彼は鳥エリアを六度目に突破するのだった。

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