第64話 にぎわう町作りのすゝめ

「なんかやけに魔石が出現するようになってないか?」


「お前もそう思うか。これまでよりも明らかに増えているよな」


「もしかして、死んでいたダンジョンに俺たちが入ることで活性化でもしたのか?」


 これまでは、まだ準備段階だった。

 ダンジョンを調査し、鉱床を把握してから採掘を行う。

 そうしなければ、危険と常に隣り合わせのダンジョンでの採掘なんて、割に合わない。


 しかし、その成果が明確な儲けを思い浮かばせるのであれば話は変わる。

 これまで調べてきた情報もある。理由はわからないが、魔石や鉱石はどんどん生成されている。

 ならば、この機を逃すほうが問題だと、ドワーフたちは判断した。


「獣人に人間が従業員なのか、珍しいな他種族同士で」


「ええ、私たちは巨大な組織ですので」


「人手はいくらあっても足りないんですよ」


「そういうもんか。いいなあ。景気のよさそうなことで」


 ドワーフたちは、これまで以上に他種族を呼び込んで共にダンジョンの採掘を進めていく。

 ダンジョンへの侵入者は増え、これまでの宿と商店では足りないだろうなと思っていた矢先、そのどちらもがこれまでよりも大きくなった。

 儲けられると判断して即時行動に移ったのか、ずいぶんと嗅覚が鋭い経営者がいたものだとドワーフたちは呆れる。

 しかし、これで増えた冒険者たちも、万全の態勢でダンジョンへと挑めるだろうとありがたいのも事実のため、特になにかを言うつもりもない。


「あんたらこれから潜るんだろ? 腹ごしらえしていかないか?」


「向こうの商店で扱ってない劣化防止の粉だよ~! 精霊の力という証明つきだ!」


「回復薬で治らない方、我慢しても悪化するだけですよ。私たち出張治療店に任せてください」


 これまであった商店と宿屋だけではない。

 ダンジョン周りでの商売が金になると判断したのか、今では屋台や出張店が次々と入口付近に作られている。

 需要があるため、どこもそれなりに人入りがあり、今後もこのあたりがにぎやかになりそうだ。

 ダンジョンだけでなく、自分たちの街まで活性化されているようだと、ドワーフは苦笑した。


「まるでちょっとした観光地だな」


「それどころか資源を生み続けてくれる。魔王もいいものを放棄してくれたもんだ」


「ここを目当てに色々な店が出るのはいいが、大丈夫だろうな……。突貫で作られていたらたまったものじゃないぞ。特に宿なんて」


「まあ大丈夫だろう。最初期からあるが、あの宿で問題が起きたことなんてないし、精霊の加護持ちが建築魔法でも使って作ったんだろ」


 現に一度利用したことがある宿屋は、なんなら自分たちの家や職場よりもしっかりとしていた。

 大量の魔力を消費し、多大な金銭のやりとりが発生するだろうに、思い切ったものだとドワーフたちは口々に話す。

 無論本気で心配しているわけではない。約束されたような成功に浮足立ってのことだ。

 あとは酒場でもできればなと、冗談をこぼす余裕さえ今の彼らにはあるのだ。


    ◇


「報酬が美味しければ、こんなことになるんだな」


「このままいけば、ちょっとした町みたいになるんじゃない?」


 たしかに、もはや俺たちと無関係の施設さえも進出してきているからな。

 商魂たくましいことこの上ない。そして、必要な施設というものがわかって助かる。


「商店どうするよ? なんか、取り扱ってない品をアピールしてる露店があるけど、潰すか?」


「いや、そのままにしておこう。商店で取り扱うこともできるけど、今の盛り上がりに水を差したくない」


 商店の売上に影響は出るが、今はこの活気あるダンジョン作りを学ぶべきだ。

 それに、侵入者が増えたことで、俺としても実入りはあるからな。


「ふふふふふ……ここは私の領土。つまり、あの者たちは知らず知らずのうちに、私の国作りをしているようなものです」


 あ、フィオナ様が初めてダンジョンに興味を示して、なんだか魔王っぽい考えをしていそうだ。

 部下が蘇生できてから、俺たちもああいう街みたいなの作ってあげたら喜びそうだなあ。


「しかし、あんなに魔石や鉱石を与えてしまって、そのたびに補充しているが、レイ殿の魔力は足りているのか?」


「今のところ問題ないかな。人が増えたおかげで熱量変換室がダンジョン魔力を増やしている。その魔力で新たな採掘場を作っているけれど、収支はプラスだから」


「よくわからぬが、大丈夫ということであればよかった!」


 よくわからぬ要素あったかなあ……?

 まあ、リピアネムが納得してくれたなら問題ないか。

 あとは魔石や魔鉱石を採らせすぎて、こちらの首を絞めないかが気になるところだったが、どうやらそれも問題ないらしい。


「勇者たちが、あの魔鉱石で作った装備で最大限強化されても大丈夫なんですよね?」


「ええ、魔王ですから。神の加護とかじゃあるまいし、最高の素材で作ろうが私への優位とはなりません」


 つまり、俺程度が生産した鉱石など、いくらかかってこようが問題ないってわけだ。

 我らが魔王様は実に頼もしい限りである。


「しかし、ダンジョンというか町づくりだよね~」


「なぜか、それが一番効率がよくてなあ……」


 ダンジョンの侵入者を倒すことで、魔力が増えると思っていた。

 ダンジョン内で生かさず殺さず疲弊させることで、安定した供給ができると思っていた。

 その先に待っていたのが、ただひたすらにダンジョンに入ってもらうだけになるとは、いよいよ経営者としての悩みとか抱えそうだな……。


「できれば、他のダンジョンも同じようにしたいけど……今から急激に変化させるのはまずいか」


「道中の宝箱の中身や、攻略した際のアイテムの質を上げれば、今以上に侵入者を増やせるかもしれませんが……怪しまれてしまいそうですね」


 プリミラの言うとおりだ。

 ようは餌をより豪華にすれば、侵入者たちは今以上に増えるというのが今回の結果だ。

 しかし、だからといって既存のダンジョンにその成果を反映させるのは、慎重になるべきだろう。


「獣人は大丈夫そうだけど、人間たちのほうのゴブリンダンジョンはそうだろうなあ。今さら高価なアイテムが出たら、あからさまにおかしい」


 まあ、既存のダンジョンだって、あれらはあれらで黒字なんだ。

 下手にテコ入れせずとも、今後に活かしていければそれでいいとしよう。


「フィオナ様って、元々はこの地底魔界に魔族たちの生活圏も作っていたんですよね?」


「ええ、なんせ魔王ですので!」


「どんな町づくりをしていたんですか?」


「望まれたものをだいたい用意しました。時間とお金と魔力をすごい使って」


 なるほど、フィオナ様らしい。

 部下の望みを聞いた町づくりとは、さぞかし魔族たちからも好評だったんだろうな。


「皆さまの声を聞き、考えなしに様々な施設を準備したことで、地図があっても迷う方は多かったです」


「建物同士がつながって、もはや街そのものがダンジョンって感じだったよね~」


「無法地帯になりかけてる区画がかなり多かったから、リピアネムに暴れてもらうこともあったぞ……」


「魔王様の街で騒ぎを起こすなど、私が許さんからな」


 ……もしかして、そこまで好評じゃない?

 あとリピアネム。たぶんお前が一番騒ぎを起こしているぞ。

 リグマに暴力の化身みたいに、いいように扱われているじゃないか。


「う……だって、難しいじゃないですか! 一人だけ要望を聞き入れられないとかだとかわいそうですし、場所もなくなってきてパズルゲームなみに苦労したんですよ!?」


 スケールのでかいパズルゲームだが、今の俺には少しだけ共感できる。

 好き放題、罠やモンスターや施設を配置したら、きっと大変なことになるからな。


「そしてそんな苦労した街も勇者との戦闘で……」


「崩れましたもんねえ。やっぱり無茶苦茶すぎたんじゃないですか?」


「街一つを使った罠として、勇者たちを撤退に至らせたのはさすがです!」


「……」


 かつての街を想い、またネガティブなフィオナ様になるかと思ったが、ピルカヤとリピアネムの言葉に黙ってしまった。

 フィオナ様。どうやら、ダンジョンや町をつくるのは苦手なんだな。


「レイ」


「はい」


「感傷に浸れない私を慰めてください」


 フィオナ様の二の舞を踏まないように気をつけよう。

 そんなことを心がけながら、俺はフィオナ様を慰め続けた。

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