第61話 じめんのなかにいる
「うちのダンジョンってクソみたいだと思ってたけどよ。まだましだったんだな……」
狼の獣人が、鳥の獣人に話しかける。
「罠多すぎだろって思ったが、ドワーフたちのダンジョンもっとひどかったな」
彼らは自国にもダンジョンが出現したが、種族を問わず解放しているドワーフたちのダンジョンも挑んでみたらしい。
あの罠だらけのダンジョンを見て撤退することを選んでいるあたり、彼らはわりと冷静に判断できる獣人なのかもしれない。
「いくら俺たちが頑丈でも無理だな」
「ああ、あんなのイド様くらいの強さがないと正面突破できねえよ」
イド……。死んだらしいけど、次の蘇生はいつになることやら。
「そういえば……もう一人あのダンジョン突破できそうなやついたな」
「誰だ?」
「ほら、あの転生者の……オクイだったか?」
「その話、詳しく聞かせてもらえませんか!?」
「なんだお前……まあいいか。弱いけど特別な力を持ってるとかいう女だよ」
盗み聞きしていたことを隠しもせず、思わず彼らの話題に食いついてしまった。
最初思ったとおり、比較的冷静な人たちのようで会話に応じてくれてよかったけど、下手したら争いになっていたかもしれないなあ。
そんな僕の軽率な行動に、ジノは目を細めていた。
「壁を通り抜けられる猫獣人だったか?」
「いや、壁だけじゃなくて武器も障害物もだったはずだ」
「すげえな。それじゃあ、イド様の攻撃も効かないんじゃないか?」
「いやあ……それは無理だろ。イド様の爪撃って風の力みたいなのも含んでるし」
この獣人の言うとおりだ。
イドの遠距離技は限りなく風魔法に近い飛ぶ斬撃。
物理のみの脳筋キャラと見せかけて、遠距離から魔法使いのような戦い方もできる。
リピアネム以外の四天王と非常に相性がよく、魔王とリピアネム以外は脳死で進められるほどの技だ。
「だが、ここのダンジョンの罠は全部通り抜けられそうだと思ってな」
「なるほど、それで突破できるかもしれないって言ってたのか」
「その……オクイさんは今どこに?」
「さあなあ。最近街では見てないぞ」
ここも空振りか……。ルフの件といい、どうやら僕はとことん獣人とは縁がないらしい。
前回みたいに獣人の国に行ってもいいけれど、そこで転生者探しなんてしていたら目をつけられそうだ。
怪しい人間の転生者として、下手したらスパイ扱いされそうだな。
「他にも転生者はいないんですか?」
「そうだなあ……。名前は覚えてないが、兎獣人の転生者もいたような」
「だが、そいつはもっと前にいなくなっただろ」
獣人の転生者たちが次々と消えているらしい。
獣人なので、戦いに巻き込まれた? あるいは、戦いが嫌になって逃げたのかもしれない。
だとしたら、いずれ僕かジノの国にきてくれたら、こちらで確保できるんだけどなあ。
獣人たちは他の転生者のことも知らないらしく、話はそこで終わった。
礼を言うと彼らは去っていくが、あの方向からすると獣人の国に帰るみたいだな。
「兎のほうはわからないが、猫のほうは強力な力を持っていたみたいだな」
「うん。特にここのダンジョンとは相性が最高だったかもしれない」
それだけに惜しい。
猫獣人を仲間にできれば、きっとここ以外でも頼れる存在となってくれただろうに。
「うまくいかないなあ……」
「まあ今回は、俺と国松が協力できるってだけで我慢しておけ」
「そうだね。先はまだまだ長そうだ……」
通り抜けの能力なんて強力だ。
きっと獣人の国を捨てて、別の国でうまくやっているんだろうな……。
◇
「
無理もない。まだ短い付き合いといえ似た境遇の仲間が倒れたのだから。
「私の負けね……。芹香あとは頼んだわよ」
「いや、無理だから! 私一人でどうしろっていうの!」
奥居はもう動けない。獣人の商人は、今日はトラップダンジョンの商店で指導してもらっている。
となると、残るは時任しかいないわけだ。さすがにかわいそうになってきた。
「ダートル呼んでくるから、ちょっとだけ耐えろ」
「レイさん!!」
「あと、奥居は最悪の場合、店を消してから穴を作る」
「すみません……」
下半身が完全に地面に埋まった奥居は、申し訳なさよりも羞恥心が勝っているような顔をしていた。
ゲームの世界だからって、バグ技みたいなものが使えるわけないだろうが。
……いや、万が一ということもある。ならば、奥居の実験でそんなものがないと立証できたのは、いいことだったのかもな。
事の発端は繁盛しすぎた大商店の業務にある。
商品の補充がたびたび発生し、さすがにその都度こちらが出向くのは問題が出てきた。
単純に時間がとられるのもそうだが、魔族である俺が何度も商店に訪れたら、客である獣人たちに影響が出そうだ。
魔族のものだからと買わなくなるくらいならまだましで、最悪絡まれて攻撃でもされたら怪我をする。
イドのときの二の舞を踏むつもりはない。
それは、四天王でも同じだし、モンスターなんてもってのほかだ。
リグマに頼る手もなくはないが、あのおじさんスライム本当に多忙だからさすがにやめた。
というわけで、フィオナ様コレクションは倉庫代わりの広間に移して、二人には補充が必要になったら運んでもらうことにした。
アイテムの管理を任せる程度に信用したかと言われると微妙なところだが、最悪紛失してもいいアイテムらしい。
フィオナ様のハズレの回数を甘く見てはいけないのだ。
さて、俺たちへの負担はなくなったはいいが、どうやら商店は想像以上に盛況であり、商品の補充回数も想像以上だったようだ。
何度も店と倉庫を往復していた奥居が、ついに壊れた。
自らの能力で透過して地面に半分埋まり、それを解除すればバグ技でワープできると言い出してしまったのだ。
結果はさもありなん。
下半身が地面に埋まった奥居のできあがりというわけだ。
「奥居ちゃんなにしてんだよ……」
「す、すみません……」
ダートルを名乗るリグマもこれには本気で呆れている。
まあ裏を返せば、それだけ思考がおかしくなるほど働かせてしまっていたということだ。
それではいけない。フィオナ様の元で働く以上は、もっとまともな労働環境を提供するべきなのだ。
「ダートル。悪いけどしばらくこっちを手伝ってやってくれ」
「了解しました~」
大商店に改築してから、獣人三人だけで回してきたからなあ。
平気かと思っていたけれど、魔王軍への恐怖から無理だなんて言えなかっただけなのかもしれない。
今後はもう少し侵入者以外も見るようにしないとだめそうだ。
「とりあえずは……従業員の捕獲が当面の目標か」
「捕獲……確保の間違いではないんですよね……」
「今までもそうだったからな。これからも変わらないぞ」
フィオナ様が蘇生薬を連発で当てたら、リグマみたいに変身が得意な魔族が復活して従業員になれるかもしれない。
だけど、それを伝える必要はないし、そもそもフィオナ様のガシャ運では相当先の未来の話だ。
「あの……」
奥居が言いにくそうに、こちらに意見を伝えようとする。
この様子だと、仲間を捕まえるのはやめてほしいとか、そんなところか。
「できるだけ早く捕獲してもらえると助かります……」
「あ、ああ……わかった」
まさかの正反対の言葉だった。
そうか、それだけ忙殺されているのか……。
次からは施設を作るにしても、稼働できるようにちゃんと人員も確保してからにしておこう……。
◇
「仲間がたくさん! やった~!」
「レイさん……神様?」
どれだけ忙しかったんだお前ら。
ピルカヤは特になにも言っていなかったぞ。
「なあ、ピルカヤ」
「ん~?」
「大商店そんなに忙しそうだったのか?」
「ああ、なんかすごい忙しそうだったよ」
「なんで教えてくれなかったんだ?」
「え、魔王様のためにあんなに働けるのに、邪魔しちゃ悪いでしょ?」
……なるほど、ピルカヤにとってはそういう認識だったのか。
なんだかんだてピルカヤはフィオナ様のために功績上げるのが好きだからな。
しかも本人は分裂できるから、人手が足りないとかもない。
「まあ、これからは獣人やハーフリングが手伝ってくれるし、問題ないか」
「そうそう。うらやましいねえ。ボクももっと魔王様の役に立ちたいよ」
お前は十分すぎるほど役立ってると思うぞ……。
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