第60話 高難易度モードに挑戦しますか?(強制)

「げ……国松くにまつ


「ああ、あのゴブリンダンジョンを攻略させた人間だね。今度はドワーフの国のダンジョン? ずいぶんと節操がないんだねえ」


 そうかもしれないけど、俺にとっては歓迎したくない侵入者だ。

 鑑定持ちの転生者。罠しかないドワーフのダンジョンには、これ以上ない相性最悪の相手だろう。


「どうしよう。潰す? ダンジョンごと潰すべきか?」


「落ち着けって。んなことしたら、これまでの苦労が水の泡でしょうが」


 そうだな。うん、落ち着こう。

 万が一国松にダンジョンを攻略されたとしても、ダンジョンを潰すよりは被害は少ないからな。

 ……ここで国松を始末したほうが、後々プラスになるか?


「そう……だな。まずはピルカヤ。鑑定で見つかったらやばいから、目につく場所からは離れてくれ」


「そうだね。とりあえず視線に入らないように、後ろからこっそり見ることにするよ」


 そうしてもらえると助かる。

 ここにピルカヤがいるとばれたら、放棄したダンジョンどころか、四天王が力を蓄えていた危険な場所に早変わりだ。


「む……殺すか? ならば、私が一太刀で沈めてくるが」


「あ~、待った待った! 殺さない殺さない。だから、その剣しまおうね」


 混乱していたときの俺の考えが伝わってしまったのか、リピアネムが剣をとりドワーフダンジョンへ向かおうとしていた。

 そりゃあリピアネムなら瞬殺なんだろうけど、無人と思っていたダンジョンから四天王が出てきたらまずいだろ。


「リピアネム様が暴走してくれるおかげで、レイ様が冷静になれるのはいいことです」


「よくわからないが、私が役に立っているのならなによりだ!」


 まあ、今回は否定できない気がするしそれでいいよ。

 さて、問題は国松だ。彼ならばトラップダンジョンをすべて看破して制覇するのも容易だろう。

 鑑定の前に罠なんて何の意味もないだろうし、ここはこっそりとモンスターでも配置するか?

 いや……無人であり放棄されたダンジョンの偽装を無駄にはしたくない。


 しかたない……。このままさっさと国松に攻略してもらおう。

 そしてさっさと国に帰れ。宝箱の中身ならくれてやるから。


    ◇


「撤退したな……大した脅威じゃないから見逃したとか?」


「いえ、私が宝箱ガシャに敗北したときのような、あのうんざりした表情。先が見えずに嫌になったのでしょう!」


「説得力あるような、ないような……」


 でも国松が引き返したのは事実だ。

 それに今回の観察でわかったが、鑑定で罠の場所はわかってもそれを解除する技術はない。

 結局罠を避けるか、事前に自分に被害がないように起動するか、そうやって進むしかないみたいだ。


「あれじゃあ、まいっちゃうよねえ。レイの鬼畜な罠ダンジョンだもん」


「全力で仕留めにかかっててすごいなあと、おじさん感心しちゃうよ。でもなあ、侵入者皆殺しにするわけじゃないんだよな?」


「いや、ちゃんと安全な場所も多いだろ。そうじゃなきゃ、ドワーフたちだってここまで入り浸ってくれないって」


 たしかに罠はかなり多く設置しているけど、目立つように置いてあるのに起動しないものとかもあるぞ。

 そうすれば、本命の罠を見落としてくれないかなという魂胆があったわけだけど、それで国松も嫌気がさしたってことか?


「細い糸の上を歩くようなバランスのダンジョン作り。さすがはレイ様ですね」


「なぜ私を見るのですかプリミラ」


「レイ殿のダンジョンを否定するわけではないが、私は魔王様の作った広くて戦いやすいダンジョンも好きです」


「リピアネムさんは、自由に戦いたいから凝ったダンジョンじゃないほうがいいだけだよね」


「私のダンジョンになにか思うところがあるというのなら、はっきり言いなさいピルカヤ」


 フィオナ様のダンジョン。

 きっとチュートリアルみたいなダンジョンだったんだろうなあ……。


「いいですよ~だ。私にはずっとレイがついていてくれますし、ダンジョン作成はレイに全部任せればいいだけですから」


「はい。俺はそれくらいしかできないので、フィオナ様は別の仕事に専念してください」


「仕事……?」


 そこでなぜ、そんなにも純粋な表情できょとんとできるのだろうか。

 まるでその言葉を初めて聞いたような反応はやめてほしい。


「とりあえず、宝箱を育てましょうか?」


「もうそれでいいです……」


 蘇生できる部下が増えれば、それだけ手も増える。

 だからフィオナ様にしかできないそれが一番いい選択なんだろうけど、どこか釈然しゃくぜんとしない気持ちになるのはなぜなんだろう。


    ◇

 

「だめだな……さすがに、あれを全部解除するか避けるのは心が折れそうだ」


「全部物理の罠だから、物理無効みたいな転生者がいればなあ」


 それか物理全部通り抜けみたいな能力。

 そうすれば、こんなダンジョンただ道を歩くだけだったろうに。


「こんなダンジョン、ゲームにあったら最悪だっただろうな」


「だから実装されなかったのかもね。案外設定だけ考えてさすがにこれはないとボツにしたとか」


「それでこの世界にこんなものができたんだとしたら、余計なことするなって言いたくなる……」


 まあ、実装されなかっただけいいほうだろうけど。

 もしもここが攻略必須のダンジョンなら、それこそ余計なことするなと文句を言っていたかもしれない。


「だが、このダンジョン自体は意味があったのが幸いか……」


「なんか見つけたっけ?」


「俺も国松もこのダンジョンの噂を聞いてやってきた。そこで転生者同士が会える切欠となっただけでも、ここには意味があったと思おう。それでいい。だからもうここには用がないんだ」


 最後は自分自身を納得させるように、ジノは言い訳まがいな言葉を重ねた。


「たしかに、ゲームクリアしている転生者と会えたなら意味があったかな。同じ転生者といっても、ゲームを知っているかどうかで危機感が違うし」


「国松がいる場所はなかなかひどそうだからな。ゲームと聞いて好き勝手するやつに、慎重な行動をすべきだとみんなをまとめている気になってなにも行動せずに自分に酔っているやつ。せめて邪魔だけはしないでもらいたいもんだ」


 ほんと……そのとおりだよ。

 勝手な行動してこの世界の住人の心象を悪くするやつら。

 あいつらは帰ってこなかったから別の国で好き放題しているか、どこかで死んでしまったんだろう。

 だから問題は転生者の中でも大きな派閥となったやつらだ。


 平和な国から転生したため、自分たちは戦いなんてできないと主張するのはわかる。

 それでも安全にレベルを上げて強くなろうしている分、なにもしていないというわけではない。

 だけど、その成果ははっきり言ってほぼ無いに等しい。

 あの王は転生者というだけで優遇しない。自国の利益にならない者たちを、いつまであの城に置いてもらえるんだろうか。


「抜け駆けするなと言われてもなあ」


 彼らと共に行動して、安全にモンスターを倒したところでほとんど経験値は入らない。

 なにかしたということで彼らは満足しているようだけど、そんな速度のレベル上げではいつまでたってもゲームをクリアできない。

 だから分かれて行動して上手くいったのはいいけれど、彼らはそれが面白くないらしい。


「多少の無理はしないと時間はいつまでもあるわけじゃない。それがわかっていないというのは、ある意味ではうらやましいな」


 そう。時間は有限なんだ。

 いつまでも平和に暮らせるというのなら、僕だって最悪この世界で暮らしてもよかった。

 命がけの戦いをするよりは、見知らぬ土地での安全な生活だ。


 だけど、この世界の顛末を知っている僕とジノに、そんな選択は許されない。


狂神くるいがみルートになったら、世界の崩壊と神々の死か……下手したら俺たちが元いた世界にも影響が及ぶんだろうな」


「だから、そのルートだけは阻止しないとね」


 そのためにも多少のリスクは冒すべきだ。

 最低限、いつでも魔王を倒せるための準備だけでもしておきたい。

 だけど、現実となってしまったこの世界では、その魔王を倒す条件の達成さえも格段に難しくなってしまっている。

 僕では無理だ。ジノでも無理だ。もっと広範囲の情報を得られる千里眼のような力が欲しい。

 女神様がそんな力を転生者に授けていることを願いながら、僕たちは協力者を探さないといけないんだ。


    ◆


 魔王は倒せました。

 倒せました。

 倒せたというのに――


 そんなことに意味なんてありませんでした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る