第59話 交差する長命と短命
「ドワーフたちが獣人と違うのは助かるけど、さすがに王国の兵士を率いるのはまずいからなあ」
彼らともそれなりに友好関係を築けていたと思っていたので、今回のような調査で同行してくれたら心強かった。
だけど、さすがに国の兵士とともに、ぞろぞろとドワーフの国に入るのはよろしくない。
仕方がないので久しぶりに一人で遠出をしているが、これはこれで転生者として動きやすいのかもしれない。
「とはいっても、なにもイベントが進んでいないから、今のところ強力な装備を作ってもらうのは無理だけどね」
今回はあくまでもダンジョンの調査になりそうだ。
またしても現れた記憶にないダンジョン。
それも今回は、魔王が放棄して忘れ去られていたものらしい。
「ゲームで行けなかったからといって、存在しないって考えが危険なのかもしれない……」
ゲームはゲームだ。
オブジェクトとして設定されていても入れない建物なんてざらにある。
ならばダンジョンだって同じかもしれない。存在自体はしていたけど、ゲームの進行上入れなかっただけということは大いにあり得る。
これからも、僕が知らないダンジョンはどんどん見つかりそうだなあ……。
だけど、ゲームに関係なかったのなら脅威にならないのかもしれない。
さすがに放置していたら世界の危機とかなら、ゲームで話題に上がるか攻略することになるだろう。
そう結論付けて進んでいくことで、ようやくドワーフの国へとたどり着く。
「さて……今までみたいに兵士に助けてもらえないし、気をつけて進まないと」
幸いなのはモンスターが出ないらしいということだ。
そして罠だけが危険な場所というのであれば、僕の鑑定で罠をすべて看破してしまえばそこまで恐ろしい場所じゃない。
入ってすぐに鑑定を駆使して進もうと思ったのだけど……。
「落石の罠。ベアトラップの罠。回転ノコギリの罠。入口近くでこんなに……? 多すぎない?」
よほど守りたいものでもあったのか、入口の付近の数部屋でも嫌というほどの罠が設置されている。
元が採掘場だったからか、爆発や炎系の罠がないのがせめてもの救いかもしれない。
「たしかに魔石もかなりの数があるみたいだけど……」
だめだ。なまじ罠が把握できるぶん、精神衛生上よろしくない。
これだけ大量の罠の中を他の人たちはよく進めると思う。
そりゃあ、ふつうに移動するぶんには起動しない罠ばかりなんだろうけど、そこに罠があるというだけで足取りが重くなる。
「こんな状態じゃ鑑定での取りこぼしも出そうだし、むしろ僕と相性がよくないダンジョンなのかもしれないな……」
どれが生きている罠なのか死んでいる罠なのかわからない。
起動しないものもあれば、起動するけれど当たらないものもあるとなれば、気をつけるべき罠の見当がつかない。
魔王のやつ、こうなることを考えて適当に罠を設置したのかもしれないな。
「一旦引き返すしかないな……」
これ以上進んで認識できる罠が一斉に起動でもしたらと思うと、生きた心地がしない。
ふらつきながら引き返す僕を、他の探索者たちは不思議そうに見ていた。
知らないほうがいいこともあるってことか……。
◇
「だいたいなんだよ。あの上昇床って……。部屋ごと押しつぶす気じゃないだろうな……」
しかも天井には届かないはずの罠がいくつもあったけど、床が上昇して他の罠にぶつけるとかなんだろうか。
そう考えると当たらないと思っていた罠も、なんらかの手段でこちらに牙をむく可能性がありそうだ。
あの場は撤退して正解だったと思う。適当な数の魔石は回収したし、あまり深入りするべきダンジョンじゃなさそうだなあ……。
「帰ろうかな……」
あまり実入りのない結果になったけれど、ここは入らない限り危険でもない。
それがわかっただけよしとするべきか、と自分を納得させていると金髪のやけに顔が整った男がこちらへと向かってきた。
エルフだ。長い耳とその風貌は、あの種族特有のものなのでわかりやすい。
彼もまたこのダンジョンに挑戦するつもりなのだろうか。
「ダンジョンに挑むんですか? 罠だらけだから気をつけたほうがいいですよ」
なんとなく、ほんの気まぐれ程度に声をかけてみたが、エルフはエルフで他の短命種とそこまで友好的ではないことを思い出した。
やめておけばよかったかと思ったが、すでに発した言葉を取り消すことはできない。
エルフは
これは、嫌味の一つでも言われそうだな……。
「そんなに危険な場所なのか?」
しかし、返ってきた言葉は、以外にもこちらの忠告に対する反応だった。
「え、ええ……。そこらじゅう罠だらけで、進むのにかなり神経をすり減らして逃げてきたところです」
「そうか……。やはり、簡単にはいかないか。だが、最低限の手土産を持ち帰れば納得するだろうし、そこまで本腰入れる必要もないよな……」
エルフはますます難しそうな顔をして、ぶつぶつとつぶやく。
もしかして、機嫌が悪くなったとかではなく、僕の忠告を聞いてダンジョンがそうたやすいものではないと思っての表情だったのだろうか。
「はあ……どうせモンスターもいないダンジョンだ。レベルも上がらないなら、最低限の魔石だけ回収するか」
……レベル。明らかなゲームの用語だ。
こちらの世界の人たちとそれなりに交流したが、みんな戦えたり鍛えれば強くなると発言するものの、はっきりとレベルや経験値とは言っていない。
ゲームの世界の住人なので、ゲームのシステムの話は理解していないということだと思うけど……。
それなら、このエルフはもしかして転生者?
失礼だとは思うけど、つい鑑定スキルを使用してしまう。
それで転生者かどうかまで表示されるわけではないが、判断材料の一つとしてだ。
ジノ・ノヴァーラ 魔力:23 筋力:12 技術:15 頑強:8 敏捷:16
少し安心した。
ステータスだけで考えると、僕のほうが強いので最悪のケースに陥ってもなんとかなる。
しかし、魔力が他より高いな。やっぱりエルフだからか。
「ああ、悪かったな。お前のことを無視して。忠告感謝する」
そう言ってエルフの男はダンジョンに入ってしまった。
忠告は聞き入れるが、彼には彼の事情があるのだろう。
手ぶらで帰るわけにはいかないってところか。
それにしても、エルフにしては高慢な感じはなかったな。
やっぱり転生者だったんだろうか?
そういうことなら話しておくべきだ。彼が戻ってくるまでここで待ってみるか。
◇
思ったよりも短時間でエルフが返ってきた。
表情はうんざりしているので、彼もまたあの大量の罠に嫌気がさしたくちだろう。
「ん? さっきの……。すまなかったな。あの忠告がなければ下手したら大怪我をしていた」
「助けになったならなによりです。……あの、転生者ですよね?」
単刀直入に確認する。
僕たち転生者は味方同士かどうかはともかく、敵ということはない。
魔王を倒すにせよ、この世界で平穏に生きるにせよ、敵対する理由などなにもないのだから、転生者であることを隠す理由はない。
これがこの世界の者同士なら、腹の探り合いにでもなっていたんだろうなあ。
転生者を一人でも多く確保したいので、その所在を知っていても他種族には教えないだろうし、うちの王様もそのタイプだ。
彼がもし普通のエルフであっても、僕はすでに人間の国所属なので無茶な引き抜きはしないだろうし、転生者なら普通に会話ができる。
はたしてその答えは……。
「軽率にそれを確認してくるってことは、お前も転生者か」
お前
「僕は人間の
「エルフのジノ・ノヴァーラだ。当然、元は人間だけどな」
そんな冗談交じりの言葉に苦笑するジノだったけど、エルフということもありやけに様になっている。
エルフ……。人間よりあたりっぽい種族でちょっとうらやましいかもしれない。
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