第53話 坑道はダンジョンです

 ありがとうダンジョンマスター。

 俺はもう深いことは考えないことにするよ。


 採掘場作成:消費魔力 20


 ドワーフたちを招いてくれと言わんばかりの施設が解禁された。

 適度にこれらを設置することで、放棄された採掘場のように見せることができそうだな。


「魔石に宝石。あとは詳しいことはわかりませんが、鍛冶に使用している鉱石みたいなものもありますね」


「それだけ種類が豊富なら、ドワーフたちもきっと興味を持ってくれそうですね」


「ま~た、とんでもないことしてらあ。なんなら、うちで採掘始めたほうがいいんじゃねえか?」


 体が水銀だからか、リグマまでお墨付きをくれた。

 でもいいのか? そんなこと言ったら……。


「じゃあ、リグマさんの仕事が増えるね」


「はあ!? なに言ってんだピルカヤ! おじさんこれ以上はほんと無理よ!?」


「だって、一番鉱石に詳しいのリグマのおっさんじゃん」


「……レイ。さっきの発言なかったことにできねえかなあ?」


「俺はいいけど、フィオナ様次第かな」


 その言葉を聞いて、リグマは恐る恐るフィオナ様のほうを見た。


「魔石……魔力を回復できる……宝箱」


 あ、これだめだと思う。リグマ、諦めろ。

 こうなったらフィオナ様はプリミラにしか止められないぞ。


「レイ。ドワーフたちの捕獲罠も設置しましょうね!」


「はい。他のドワーフにばれないように働かせましょう」


「おじさん働くことになってるよねえ!」


 大丈夫。最初の指導だけだから。

 さすがにドワーフのほうが採掘の能力も知識も上だろうし、本当にただ管理するだけのはずだ。


「安心しろリグマ。こう見えて力仕事には自信がある。私も手伝おう」


「い~や、これ以上俺の仕事増やさないでくれ。いやまじで。お前なら採掘場ごと破壊し尽くしかねない」


「…………だが、そのほうが石は採れるのではないか?」


「ついにごまかすことさえしなくなったな。そんな使い捨てにできるか! ……いや、まあレイならできるのか?」


「そんな贅沢な使いかたしないで、普通に使おうよ」


 たしかに魔力さえあればできなくもないけれど、どうせこれも時間や魔力によって採れる石が変わるタイプだぞ。

 毎回毎回作り直していたら、きっと低品質の石しかとれないだろうし、リピアネムには諦めてもらおう。


「それじゃあ適当に採掘場をちりばめて……」


「ああ、俺の職場が増えていく……」


 捕獲檻:消費魔力 5


「フィオナ様の要望どおり、捕獲のための罠をいくつか」


「魔石さえあれば、より効率よく宝箱を育てられます」


 満面の笑みで俺の頭をなでるフィオナ様だが、たぶんその目論見は失敗するんだろうなあ。

 だって、プリミラが作った魔力回復薬でさえ、フィオナ様の魔力は回復できていない。

 ならば、魔石とやらでもフィオナ様の魔力を回復しきるのは無理だろう。


 六つの岩:消費魔力 15


 転がる岩が六個になった罠を設置する。

 ドワーフってたぶん頑丈だし、岩一個では足止めにもならないだろうからな。

 燃費もこちらのほうがいいし、ただの転がる岩よりもこちらを設置しておこう。


「よし。頑丈なドワーフでも、身動き取れないほどの岩相手なら足止めできるだろう」


「誰? レイにドワーフの頑丈さを過剰に伝えたの」


「誰も伝えてないから、勝手にそう思ったんだろうなあ」


「足止めというより、息の根が止まるのではないか?」


「手を抜かず、全力で相手を仕留める。さすがはレイ様です」


「プリミラ。レイに甘くありませんか?」


 四天王にフィオナ様たちも、これならドワーフに通用すると判断したようだ。

 他の魔族たちはちょっと大げさだけど、プリミラはこちらに好意的な意見のようだし、たぶんこれで問題ないはず。

 なんか全員少し離れた場所で話し始めたが、俺の邪魔をしないように気遣ってくれているのだろうか。


 回転ノコギリ:消費魔力 10


 天井から降ってくるのが岩だけだと味気ないな。

 押しつぶすだけでなく、切断系も混ぜておいた方が安心かもしれない。

 ゲームというのなら、物理とか斬撃で得意属性が異なる可能性もあるしな。


「天井ばかりだとバランスが悪いし、床にもしかけておこう」


 トラバサミ:消費魔力 5


 古典的だけど、踏んだら足が鋭利な金属罠に挟まれて機動力を削げる罠だ。

 これはどちらかというと倒すための罠というよりは、相手を消耗させるような罠だな。


「フィオナ様が望んでいるし、こういうのでドワーフを捕獲するのもいいかもしれない」


「どうすんですか魔王様? 足を怪我したドワーフを大量に献上されそうですよ」


「うう……そこまでは望んでいないのですが、私のためにがんばっているレイを止めるのは忍びないですし」


「トキトウに、回復薬を売りきらないように伝えておかないとですねえ」


 上昇床:消費魔力 20


 ん……? これは見おぼえないな。最近解禁された罠か。

 魔力消費は吊り天井と同じ……。ただ名前からはいまいち効果が想像しにくい。

 エレベーターみたいな移動施設か? でも、罠の項目に記載されているしな。


「試しに作ってみるか」


 プリミラの畑から作られる回復薬のおかげで、ある程度の贅沢ができるのはありがたい。

 こうして気軽に効果を確かめることができれば、いざというときの選択肢にもなるしな。


「ピルカヤ。視界の共有してくれ~」


「おっけ~」


 フィオナ様や他の四天王たちと、少し離れた場所で話していたピルカヤを呼び寄せる。

 視界を共有し、罠がたしかに作成されたことを確認してから、今回は手動で起動してみる。


「お~……そういう感じか」


 床全体が上にせり上がっていく。

 その上昇は止まることはなく、天井にくっつくまでの高さになった。

 つまり、床と天井で押しつぶす系統の罠というわけだ。

 吊り天井の床版みたいなものだな。どおりで消費魔力も同じはずだ。


 その後もとりあえず思いついた罠を次々と設置していく。

 回復のために睡眠を挟まずにすむのは、本当にありがたい。

 おかげで獣人たちのダンジョンよりも速く、完成させることができた。


「こんなところかな」


 しかし心残りがあるのもたしかだ。

 モンスターも設置したかったなあ……。

 だけど、当初のコンセプトに沿って作るのは大事だし、ここは我慢するとしよう。


「ドワーフたちくるかな? いや、きてもすぐに諦めないかな?」


「殺意が高くておじさんびっくりだよ」


「これがレイ殿の戦い方というわけか。手を抜かずに敵を全力で打ち倒す。さすがは魔王様の側近だ」


「……もう少し罠減らしたほうがいいかな?」


 なんか、思っていたよりも倒す方に特化しすぎた気がしてきた。

 四天王たちの反応を見るに、それは気のせいというわけではないだろう。


「まずはこのまま進めてみてはいかがでしょうか? 放棄されたダンジョンと思わせるのであれば、途中で罠を増やすよりは減らしていく方が自然です」


「それもそうか。減る分には生きていた罠が停止したと思うだろうけど、急に増えたら絶対に怪しまれるもんな」


 さすがはプリミラ。

 フィオナ様にいつも意見しているだけのことはある。

 ……最近では意見というか、もっぱらお説教だけど。


「にしてもだよ? ドワーフたちは獣人ほど馬鹿じゃないし。やっぱり命が惜しくなるんじゃないかなあ」


「だなあ。餌をもっと豪勢にしようぜ」


「餌っていうと……宝箱?」


「ほほう、宝箱ですか」


 反応しすぎである。フィオナ様の前世ってミミックだったんじゃないだろうか。


「いや、石と酒だろ」


「あ~」


 たしかに、ドワーフといえばそんなイメージだな。

 石は採掘場に湧いてくる鉱石の質に期待するしかないが、酒か……。


「さすがに、ダンジョン作りのスキルじゃどうしようもないぞ」


「そこで、プリミラの畑……というか、もはや果樹園になってるあの場所だよ」


「なるほど、つまり私が酒精の実を育てて、魔族印のお酒を作れということですね」


「そうそう、得意だろ? そんでおじさんにもちょっとわけてくれたら、なおいいと思うよ」


 プリミラすごいな……。

 魔力の実から魔力回復薬を作ったときのように、酒の実とやらから酒まで作れるのか。

 リグマの魂胆はともかく、その酒の品質次第ではドワーフたちを釣る餌の一つになるかもしれない。

 魔族は他種族と交流なんてできないからな……。そんな魔族が作る酒なんて、彼らにとって未知の味となるだろう。

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