第49話 数字だけでは計り知れない

「強いな」


「それだけが取り柄なのでな」


 四天王って、得意分野こそ違えど全員が似たようなステータスだけど、みんなこれくらい強いんだろうか。

 俺という足手まといがいたとはいえ、そんな四天王たち三人と戦おうとしていたイドが、いかにやばいやつだったか評価を改めねば。


「しかし困った」


「もしかして復帰直後で戦って調子を崩した?」


「いや、そこに抜かりはないのだが……私にできるのは今のように敵を倒すことだけ、今後魔王様のためにできることがなくなってしまった」


「まあいいんじゃない? リピアネムがやることがないうちは、敵がいないということなんだし」


「ううむ……。しかしなあ、穀潰しというのもどうにも心地が悪い。やはりせめて私も裏方として働くべきか」


 本人にやる気があるのなら、それもいいかもしれないな。

 リグマの宿屋の清掃やベッドメイキングみたいなことなら、魔族がやっても支障をきたすことはないだろう。


    ◇


「……人手は足りてるから無理に働くことはねえぞ」


「でも、本人がやりたがっているみたいだし」


「……そうだなあ。ああほら、うちの従業員は全員人間だから、裏方といえど魔族と鉢合わせたら面倒だろ?」


「ああ……そういえばそうか」


「だろ? リピアネムの力は有事のときにこそ頼れる。こんな雑用やらせることはねえさ」


 リグマはそう言って宿のほうに向かった。

 相変わらず、態度は不真面目なのに仕事は真面目だなあ。

 しかし、そうなるとリピアネムが手持ち無沙汰になってしまう。

 ならいっそのこと商店に……いや、今までなら時任ときとう奥居おくいだけだったからいいけれど、最近はあっちも獣人の従業員が増えたからなあ。

 やけに手際がよく優秀な拾いものだったが、転生者二人と違って、自らの意思で魔王軍のために働いているわけではない。


「おや、どうなさいました? レイ様」


「あ、プリミラなら大丈夫か」


「? よくわかりませんが、私ならレイ様のご命令なら大抵のことはこなしてみせます」


 そう言ってもらえるのは嬉しいが、フィオナ様が悲しんでしまうので、俺よりもフィオナ様に忠誠を捧げてほしい。

 もちろんそうなんだろうけど、最近のフィオナ様は基本プリミラに怒られているからなあ……。

 それはそうと、せっかく受け入れてくれるということなので話してみるか。


「リピアネムがやることないみたいだから、プリミラの畑を手伝ってもらうのはどうだろう」


「………………残念ですが、それは大抵のことの範囲外です」


「あれ? もしかして、もうやることなくなっちゃった?」


「いえ……ええ、はい。ですから、リピアネム様には別の仕事をしてもらったほうがいいかと」


 仕事が終わってしまっているのなら仕方ない。

 余計なことをしても、作物の成長の阻害にしかならないだろうからな。


「困ったなあ……」


「どうしたの~?」


「お、ピルカヤ。ちょうどよかった」


 本体がこうしてのんびりしているということは、ピルカヤの監視も異変なしということだろう。

 ……なら、リピアネムに手伝わせることはなさそうだな。


「話す前に勝手に諦めるのやめてくんない? レイの内心が簡単に伝わってくるんだけど」


「いやあ。こうして雑談できるくらいには平和ってことなら、お願いできないと思って」


「普通暇だからこそなにか手伝えるって話にならない?」


「どちらかというとこっちが手伝いたいというか、リピアネムが仕事をくれって言ってるんだよ」


「あ~……」


 用件を伝えた途端にピルカヤは納得したように頷いた。


「ボクのほうは手伝えることないかなあ。ほら、見てのとおり暇だし」


「だからピルカヤにも頼めないなあって」


「なるほどねえ」


「リグマとプリミラのほうも、特に今は仕事がないみたいだし、どうしたもんか」


「……なるほどねえ」


 四天王三人ともが任せるべき仕事がないというのは、順調ということだしいいことなんだけどなあ。

 そうなると仕方がない。やはり当初の考えにあった時任の店を手伝ってもらうことにするか。


「というわけで時任の店を手伝わせてみるよ」


「どういうわけかは知らないけど、うん……まあ一回見てもらった方がいいだろうね」


 ? よくわからないけど、ピルカヤもそれがいいと言ってくれたことだし、さっそくリピアネムを商店に連れて行ってみるか。


    ◇


「ド、ドラゴン!!」


 リピアネムを見た瞬間に奥居が叫んだ。

 よくわかるな。まあ、たしかに鱗とか尻尾とかドラゴンの特徴もあるから、わからなくもないか?

 ……いや、違うな。リピアネムは四天王だ。奥居のやつもしかしてこの世界の元となったゲームを知っているのか?


「奥居」


「は、はい!!」


「ゲームやったことある?」


「え……は、はい。リピアネムさんに何度も殺されて諦めましたけど……」


「なんだと!? 私はそんなことした覚えはないぞ!」


 うん、ごめんなわかりにくいこと話して。

 ゲームの話と現実の話がごっちゃになっているので、さすがのリピアネムも困惑したようだ。


「リピアネムは強いなあって話だよ」


「そうなのか? う~む……それならばまあ気にすることはないか。私は戦いだけが取り柄だからな」


 しかし、奥居はゲーム経験者だったのか……。


「奥居、知ってるゲームの情報すべて教えてくれ」


「は、はい! といっても、私もクリアを諦めたりやり込んでるわけじゃありませんけど……」


「それでもいいから」


「えっと……まず、ゲームはアクションRPGです。主人公は様々な種族から選べて、基本的には選んだ種族の勇者が操作キャラになりました。あと、レベルがあります。ステータスは筋力とか魔力とかをレベルアップごとに自由に割り振れますけど、後半になるとレベルを上げてごり押せないくらいには、敵も強くて……」


 プレイヤーのスキルも必要になってくるってわけか。

 ということは、フィオナ様とかレベルを上げても同じステータスにはならないだろうし、そりゃラスボスだけ鬼畜とか言われるよな。


「主人公たちの目的とかエンディングはわからないの?」


「全員で遊んでませんけど、主人公はどれも魔王を倒すのが目的だったはずです……」


「魔王を倒そうとする理由とか背景は?」


「すみませんが、詳しくは……なんか冒頭で世界の脅威だとか言われてましたけど、私はその姿すらここで初めて見ましたし……」


 残念ながらあまり得られる情報はなさそうだな……。


「で、でもリピアネムさんまではたどり着きましたよ! たぶん、サブイベントとか全然できていないので、単純に勇者が魔王軍を相手に戦ってるくらいしかわかりませんでしたけど」


「リピアネム以外は倒したってことでいいのか?」


「え、ええ……プリミラさんにも、ピルカヤさんにも、リグマさんにも、何度殺されたかわかりません」


 フィオナ様だけでなく、四天王もゲームで強敵として立ちはだかっていたようだな。

 だけど、リピアネム以外はがんばれば倒せる範疇だと。

 やはりリピアネムだけは、四天王の中でも特に強いって扱いで間違いないみたいだ。


「ゲームでは、四天王はどうやって倒すことになった?」


「えっと、どなたも道中の街や村で襲撃してきました。プリミラさんはスーパーアーマーがきつかったので、レベルを上げて火力で押し切って、ピルカヤさんは周囲の火を消すことで弱体化できて、リグマさんはレベルを上げてごり押して……」


「レベルを上げてごり押しばかりだな……」


「ピルカヤさん以外が容赦なさすぎるんですよ……」


 あまり情報は得られなかったが、奥居はゲーム経験者か……。

 フィオナ様までは到達できなかったようだが、引き続き注意しておかないとな。

 ピルカヤにもあとで念を押しておこう。


「あの~……それで、その方がどうして商店に……も、もしかしてなにか問題がありましたか!?」


 時任がおびえた様子で尋ねてきた。

 ……まあ、たしかに怖いよな。戦うことしかできないという四天王が急に訪ねてきたんだ。

 なにか粗相をしてしまったと思うのも無理はない。


「彼女はリピアネム。ちょっと商店の手伝いをしてもらうことにした」


「えぇ……四天王最強が店番?」


「いや、店番は魔族以外に任せるつもりだから、雑用として使ってくれ」


「えぇ……」


 奥居は困惑し、獣人の男性はもはや状況に一切ついていけてない。

 そんな中、意外なことに時任だけがなにをしてもらうか考えていた。

 だんだんとたくましくなってきたなあ。


「それじゃあ、リピアネム様。そこの商品を棚に並べてもらえますか?」


「うむ。任せろ」


「はっ! あ、あの……魔族が、いや四天王!? 俺たちはどうなるんだ!?」


「お、落ち着いてください。真面目に働いている間は危険な目には遭いませんから!」


 再起動したように狼狽する男性もきちんとフォローしている。

 なんだか俺の中で時任の評価が上がりそうだ。


「む」


「あ、その瓶割れやすいんで気をつけ」


「むむ」


「……」


「すまない」


「な、なんで触れるたびに割れちゃうんですか!?」


 リピアネムが回復薬の瓶に触れると瓶が割れた。

 時任の注意を聞き、力を抜いて触れるとまた割れた。

 時任が叫んだとおり、リピアネムが瓶に触れるたびに容器が割れていく。


「私は力加減が苦手でな。剣も私の力に耐えられる特注のものを使っている」


 ドラゴンだもんなあ……。

 握手とかしないでよかった。下手したら握りつぶされていたぞ。


「だが与えられた仕事はまっとうしよう。……むう」


「だ、大丈夫です! リピアネム様に向いていない仕事をふってすみません!」


 気にするなと言いながら瓶を手にするリピアネム。

 だけど、気にしているとかそういう問題ではないと思うんだ。


「ね? リピアネムさん。不器用だからあまり向いている仕事がないんだよ」


 様子を見ていたピルカヤの分体がこそっと話しかけてきた。


「どおりで、リグマもプリミラも仕事を任せたがらないわけだな……」


 というか、ステータスに記載されていた技術99とはなんだったのか。

 これでは力を制御できない悲しい怪物じゃないか。


「剣技は本当にすごいんだけどねえ」


 もしかして……剣を振るう技術だけで技術99判定をもらっている?

 あんな不器用なのにステータスを詐称するリピアネムがすごいのか、あるいはゲーム世界ゆえの欠陥なのか、俺には判断することができなかった。

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