第44話 訃報イドさんまた死んだってよ
「イドが死んだ!?」
「ええ……ダンジョンから離れた湖で発見されました」
「イドは四天王とさえ戦える最強の戦士だ」
「つまり、相手はそれ以上……魔王でしょうか?」
「その可能性は高そうだな。我らがダンジョンに挑み続けたことで、魔王が現れたのかもしれん」
「では、イドはそこで魔王と遭遇したと……」
「運が悪かった。としか言いようがないな」
このままダンジョンに挑み続けても問題ないのか。
もしもそれが魔王を刺激する行為ならば、再び魔王が現れるだろう。
イドと違い、蘇生にアイテムが必要な者たちが皆殺しにされる可能性もある。
「ダンジョンに挑んでいた者の中で、魔王に遭遇した者はいないんだな?」
「ええ……目撃した者さえいません。さすがに目撃者が皆殺しにされたとも考えにくいです」
「音もなく姿も見えずというわけではないだろうからな。ならば、ダンジョンというよりはイドが目的か」
獣王はわずかに悩んだ末に結論を出した。
「イド以外の者は好きにダンジョンに挑ませるといい。魔王のことは知らせるが、どの道挑む者はそんなこと関係ないだろうからな」
「イド様はいかがいたしましょう? 蘇生次第魔王を倒しに行ってしまいそうですが……」
「それが実現可能かどうか、さすがにあいつが一番わかっているだろう。それでも行くというのであれば、もはや自殺行為だ」
「せめて、仲間も蘇生して力を取り戻さねばいけませんね」
この後獣王国最強の戦士一行は、鬼気迫る勢いで力を取り戻そうとモンスターを狩り続けることになる。
中でもイドはまるで怒りをぶつけるかのようにモンスターを倒し続けた。
その理由を頑なに語ろうとしない彼を見て、仲間たちは首を傾げつつも、共に力を取り戻すことに尽力するのだった。
◇
「これは……たしかなんですか?」
「ええ、王国の者が実際に見たのでまず間違いないかと」
いっしょに見知らぬダンジョンを攻略したことで、王国の兵士たちとは親しくなれたと思う。
そのかいあって、こうして僕に有益な情報を度々教えてくれるのだけど、一つ気になることがあった。
「また、知らないダンジョンが増えている……」
「獣人たちは今も挑み続けているようですね。さすがに内部の情報はありませんが、あの獣たちが易々と攻略できないとなると、それなりに難易度が高いダンジョンなのでしょう」
やっぱりそうなるよねえ……。
「いっそのこと、クニマツ様が攻略してしまえばいいのですが、さすがに他国のダンジョンに無断で踏み入るわけにもいきません」
「ダンジョンなんて危険なもの、種族とか関係なく早めに攻略するべきだと思うんですけどね……」
「兵を強くするにはうってつけですから、現に我らもゴブリンダンジョンで今も鍛え続けていますので」
「ついでにアイテムも手に入るし、獣人たちがそんな場所他の種族に譲るわけないか……」
「獣人のみならず、大抵の種族はそう簡単には譲らないでしょう。最悪の事態に陥るにしても、各種族の勇者が事態を納めればいいので」
勇者か……。
ゲーム開始時に操作できるキャラクターたち。
最初に種族を選択し、基本的にはその種族の勇者がプレイヤーの操作キャラになる。
他の種族の勇者たちはNPCとして、最終的にはこちらの味方になってくれるという仕様だ。
獣人の場合は、勇者は最強の戦士であるイドだったか……。
操作する分には体力も高くて攻撃力も素早さも高い。
遠距離への攻撃まで持っている非常に扱いやすいキャラだったはずで、初心者にもおすすめの勇者だ。
なにより、敵が強いほど、敵が多いほど、ステータスが強化される能力も持っていたし、ゴリ押しで進められるので魔王以外はわりとなんとかできるポテンシャルを秘めている。
だけど、操作キャラにしなかったときにNPCとして登場した際は、チンピラっぽいあまり好かれるようなキャラではなかったんだよなあ。
イドが他種族になにかを譲るなんて考えられないし、気になるけれど獣人たちのダンジョンは調べることはできそうにない。
「獣人たちの中にも転生者っているんですか?」
「おそらくは獣人たちが確保……失礼しました。保護しているはずです。クニマツ様のように優秀な転生者は、他国に渡したくない人材ですので」
大転生なんていうくらいだし、やっぱり同時期に大量の転生者が現れて、各国は一人でも多くの転生者を確保しようと動いているということか。
獣人たちの中にも転生者がいるのなら、なんとか転生者同士で協力できる体制を作りたい。
女神に言われて動いているのであればなおさらだ。
魔王を倒してゲームをクリアしろ。エンディングを迎えたら元の世界に戻してやる。
その言葉にすがって魔王を倒そうと思う人がいても責めることはできない。
なにも知らないのであれば、そうするべきだとも思うだろう。
「問題は
そうならないためにも、できる限りの転生者たちと協力体制を築く。
できれば種族は多種多様なほうがいいだろう。
そして最後は魔族に……。
「はあ……まずは獣人の転生者と話せたらいいんだけど」
「難しいでしょうね……。獣人たちは一部を除いて転生者には興味がありませんが、その一部は転生者の力を理解しているので、情報も隠されていることでしょう」
「興味がないから本当に何も知らない一般の獣人と、重要性を知っているから何も喋らない獣人のどちらかだけってことですね……」
なんとも極端だけど、聞けば聞くほど獣人の転生者に会える気がしない。
前途多難だなあ……。
◇
「芹香~。回復薬と毒消しの在庫なくなったわよ~!」
「あ、ほんと? じゃあレイさんに伝えておかないと」
江梨子ちゃんが在庫をチェックしてくれているので、私の負担が減って助かる。
お店にくる獣人たちは、ダンジョンで商売する変な獣人たちと私たちを相変わらず臆病者扱いするけれど、そんな獣人たちからお金を巻き上げて魔王軍に渡しているって、よく考えたらとんでもないことをしている気がする。
「おつかれ~。今日も働いてるねえ。手柄を立てるのはいいことだよ」
「お、お疲れ様です!」
突然炎が揺らめいたと思うと、人の形へと変化して気さくに声をかけられる。
ピルカヤさんだ。江梨子ちゃんはまだ慣れないようで、彼が現れるたびに硬直してしまっている。
「えっと……なにかありましたか?」
「いやあ? 別に問題があるわけじゃないんだけどさあ。ちょっと扱う商品増やしてみようかって話になってね」
よかった。なにかを失敗したとかではないらしい。
でも、新しい商品かあ……。もしかして、また新しいギミックがダンジョンに追加されたのかな?
レイさん、簡単にダンジョンを改築するからなあ。
魔王様がなにをしているかわからないけど、四天王の方たちとの距離感を見るに、あの人絶対重要ポジションだよね。
なんとなく、魔王様の側近っぽい。
「はいこれ」
「ええと……上位回復薬ですか?」
「そうそう。効果が高いから、そのぶん値段も高めで売ることにするつもり」
「あの……でもいいんですか?」
私の疑問に炎が揺らいで不思議そうな顔をする。
「効果が高い回復薬なんて取り扱うようにしたら、ここのダンジョン攻略されちゃうんじゃ……」
「ああ、そういうこと」
ピルカヤさんは私の疑問を聞いて、あっけらかんと答えた。
「いいんだよ。そろそろ一回攻略してもらう予定なんだから」
「え……?」
さも当然というようにとんでもない発言をされてしまい、私は思わず江梨子ちゃんと顔を見合わせるのだった。
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