第28話 壁に囲まれたトマソン
「よし、改良した」
「レイって意外とえげつないほどに殺意高いよねえ」
というよりは臆病なだけだろう。
俺自身は雑魚だから、ダンジョンを攻略されて襲われたら一巻の終わりだ。
だから、こうして少しでもダンジョンへのリソースを確保するために、確実に侵入者を魔力へ変換したい。
俺自身のレベルが上がれば多少は死にづらくなるし、使える魔力も増えるしで良いことづくめだ。
「地底魔界自体は入口しか作り込んでいないけど、それでもボクやプリミラさんの出番さえないからねえ」
できればここも色々と改築したいけれど、今は独立したダンジョンのほうに注力しておきたい。
あちらで侵入者を撃退するほど、あちらで改築するほど、俺ができることは増えていく。
そうすれば、どのみちこの場所もより強力な罠やモンスター、様々な部屋に変えていくことになるから二度手間になってしまう。
ピルカヤの索敵能力と、四天王二人の強さがあるからこそ、そんな悠長なことが考えられる。
……ということは、フィオナ様がすべきことって、本当にあの宝箱ガシャで蘇生薬を狙うことなのかもしれないなあ。
「問題なさそうだな。今度はちゃんと逃げる前に焼けている」
油の道を進んでいた獣人たちが炎に飲み込まれた。
火の球ではなく、
炎熱波自体は範囲こそ広いがそこまでのダメージを見込むことはできず、獣人たちもこれ単体でやられることはない。
だけど、油の道に着火させる役割としては非常に優秀で、一瞬で炎が燃え広がるように改良できた。
「あの罠そこら中に設置したら、ボク戦いやすそうだなあ」
「……ピルカヤもえげつない発想するじゃないか」
「魔族ですから」
精霊じゃなかったっけ? 途中で魔族に変異でもしたんだろうか。
「迷路のほうも以前より強力な部屋になっていますね」
プリミラは迷路に侵入した獣人たちを観察していたようで、そう呟いた。
迷路ってそもそもからして獣人たちへの相性いいよなあ。
ひとたび足を踏み入れると、こんな場所すぐに突破できるとガンガン前に進む。
そして、他の種族より考えなしなので全員が面白いほどに迷う。
力づくで突破しようとしても、獣人最強の戦士ほどの力はないので壁を壊すこともできない。
「前回と違ってけっこう数が多いけど、結局全員迷ってるみたいだな」
なんなら人数が多いことで、なんか険悪なモードにさえなっている。
そんな獣人たちもそれなりに迷路の先へと進めたらしく、まずは毒の霧の罠が作動した。
獣人たちは全員毒をまともに食らってしまったので、あとは放っておいても迷路の中で倒れるはずだ。
「
「いや、あのバジリスクたちは勝手に行動しているだけで、俺が命令したわけじゃないんだけど……」
放っておくだけでよかったが、獣人たちは運悪くバジリスクと遭遇してしまった。
そこからは、以前と同じくバジリスクの毒を追加で食らい、逃げ回るバジリスクと追いかけるうちに石化する。
石の中でバジリスクと罠の二種類の毒に蝕まれ、獣人たちは次々と倒れていった。
「あ、レベル上がった。メニューのほうは……増えてるな」
少しずつわかってきた。
俺のレベルはきっと経験値を稼ぐことで上昇する。その経験値を得る手段はおそらく三通り。
ダンジョンマスタースキルを使用する。侵入者を撃退する。モンスターたちが侵入者と戦う。
最後の経験値は微々たるものみたいで、ないよりまし程度だが、要は侵入者を招いてダンジョンを成長させればいいということになる。
そして、メニューのほうもスキルの使用か、作成した部屋や罠が効果を発揮するか、俺のレベルの上昇で増えるようだ。
魔力だけならゴブリンメイジよりは高くなった。
もっとも、俺は魔法とか使えないので戦ったら瞬殺されるだろうけどな。
落とし穴:消費魔力 5
商店作成:消費魔力 10
さて……今回増えたメニューはこの二つだ。
落とし穴はいい。まあわかりやすい罠だろう。問題はもう一つのほうだ。
……商店って、ダンジョンの中で商売でもしろと? そもそも、金銭を得たところで使い道ないぞ。
「レイ、どうしました? なにやら難しそうな顔をしていますが」
「ええと……できることが増えました」
「そうですか。それはおめでたいことです。ですが、それならなんでそんな表情を?」
「商店作成っていうメニューなんですよね……こんなものどう使えばいいのか」
俺の言葉を聞いてフィオナ様も黙ってしまった。
なんともいえない表情だ。きっと俺もさっきはこんな感じだったのだろう。
「……魔王軍が復興したら、みんなに使ってもらうとか?」
ピルカヤがそんな案を出してくれたが、やっぱりそういう用途になっちゃうよな。
少なくとも、現時点では使い道がなさそうだ。
「商店ということは、物を売るわけですからね。魔族である私たちが店番なんかしても、他の種族が利用することはありませんし」
だよなあ。プリミラの言うとおりだ。
この施設はあくまでも身内用であり、もう少し人数が増えて魔力にも余裕ができてから作るとしよう。
「でも、落とし穴のほうは気になる。フィオナ様。ちょっと落とし穴しかけてきます」
「でしたら、私も護衛としてお供いたします」
「はいは~い。二人とも気をつけてくださいね~」
気楽そうに手を振るフィオナ様に送り出されて、俺とプリミラは追加の罠を設置しにいくことにした。
ついでに油の道も再作成しておこう。この道便利なんだけど、何度か使用したらただの道になっちゃうからな。
侵入者がいなくなったうちに、こういうメンテナンスをすることも重要なのだ。
「よし、できた」
「なるほど……迷路を抜けて油断したところを落とし穴で。さすがはレイ様です。えげつないです」
褒められているってことでいいんだよな?
意図はプリミラが今言ったとおりだ。今のところ迷路を抜けた獣人はいないが、いずれはこの迷路も攻略されるだろう。
だから、迷路を抜けて気が抜けたところを落とし穴に落とす……のだが、なんか思ってたのと違ったなあ。
「浅いよな」
「落下死とまではいかないほどには」
やっぱりそう見えるか。
落とし穴はそれなりの深さではある。だけど、転落死するほど深いわけではなかった。
落ちた侵入者が登るのは難しいかもしれないが、飛行できる相手には通用しなさそうだな。
「……上に岩でも設置するか?」
「穴の大きさからすると、岩が穴の中まで落ちることはなさそうですが、閉じ込めることはできそうですね」
「じゃあ、上に転がる岩をセットしておくか」
今回は穴にひっかかってもらうから転がらないけどな。
……さて、今回はこれで終わりだ。新規の罠をセットしたけれど、補充が必要なのは油の道だけだったから、魔力がまだ余っている。
どうしよう。気になってきた。魔力が余分に使える今のうちに試すか?
◇
「それで急に入口付近にお店ができたのですね」
「すみません。好奇心に負けました……」
「謝る必要はありません。なにごとも試してみることは大事ですから」
作業を終えてフィオナ様の元に戻り、俺は素直に商店を作成したことも報告した。
どのみちピルカヤの視界を共有しているから、俺がなにをしたかなんてばれているしな。
「でも、本当にただの商店だったねえ。しかも品物はなにもないから、こちらで用意しないといけない」
「魔王様が宝箱に魔力を浪費したおかげで、品物には困らないですね」
「そうですね! ついに、私の宝箱が火を噴く時がきました!」
たぶん、プリミラのそれは皮肉だ。
だけどフィオナ様には通じていない。さすがは魔王だ。生半可な
それにしても、商品すらないとはなあ……。実は店員がついてくるんじゃないかと期待したが、それ以前の問題だった。
使い道がないうえなんか怪しいだけなので、とりあえず壁で囲んで隠しているが、いつかこの商店を使う日はくるのだろうか……。
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