第26話 嵐の前の下ごしらえ
「魔力がついに30に……」
気がついたらステータスがまた上昇していた。
簡易ダンジョンを元に戻したことで、侵入者とゴブリンたちが戦ってくれているおかげだろう。
ダンジョンマスター様様だ。あの女神め、なにがハズレだ。すごいスキルじゃないか。
まあ、女神の言わんとしていることはわからないでもない。
ダンジョンでモンスターや罠を作成するのは、魔族側だとでも言いたいんだろう。
だけど、それだってダンジョン攻略に役立てることもできただろうに、ずいぶんと偏見に満ちた神だったな。
「せっかくだし、今度は思うがままに作ってみるか……」
「レイの本気ですか。楽しみですね。きっとすごいダンジョンになりますよ」
「あの……差し出がましいようですが、あまり難易度が高すぎると国が動くのではないでしょうか?」
「大丈夫じゃない? あいつらバカだから、なんか都合のいい力を示す場所ができたくらいにしか思わないよ」
獣人たちはなんというか、脳筋集団っぽいからな。あるいは戦闘大好きな種族。
どちらにせよ、多少変なダンジョンがあっても特に気にせずに挑戦し続けてくれるだろう。
問題は、ただの脳筋ではなく、本当に力のみでダンジョンや罠を突破しそうということだけど、適当なボスを配置しておけば満足して帰ってくれるだろう。
分かれ道作成:消費魔力 5
一本道だと侵入者で渋滞しそうだし、まずは道を分けておく。
でも、ただの道ばかりというのも芸がないな。そういえば、あんなのがあったっけ。
油まみれの道:消費魔力 5
これで、この道を通る獣人たちは、ふんばりがきかずに歩みが遅れることだろう。
できれば、そこをモンスターで一網打尽ってしたいけど、こっちのモンスターたちも同じく足場が悪くなるからな。
……いや、そういうのが効かないモンスターも少し配置しておけばいいか。
ポイズンバット作成:消費魔力 5
普段なら簡単にやられてしまう低位のモンスターだけど、動きにくいところで縦横無尽に飛ばれたらうっとうしいはずだ。
毒もあるし、嫌がらせとしては十分の役割を果たしてくれることだろう。
ああ、そうか。なにもモンスターだけにこだわらなくてもいいや。
罠なら、それこそ足場の悪い場所で一網打尽にできるかもしれない。
……油まみれか。なら、この罠は通常よりも効果を発揮するんじゃないだろうか?
火の球:消費魔力5
……っと、調子に乗って魔力を使いすぎた。
危うく、また意識がもっていかれてしまうところだ。
しかし、けっこう増えたと思った魔力も、一気にダンジョンを作ろうとすると一瞬でなくなるな。
やっぱり、もう少し魔力がほしい。それか回復速度を早めるか、いっそダンジョンの魔力を溜める手段があれば。
「レイ~。まただめでした~……宝箱作ってください~……」
「あ、はい。わかりました」
考え事をしていると、フィオナ様の悲しそうな声が聞こえてきたので、思わず反射的に宝箱を作成した。
そうして、俺の意識は闇に飲まれるのだった……。
◇
「はい……はい、反省しています。はい、すみませんでした……」
「あ、起きた~?」
目が覚めると、ピルカヤが俺の顔を覗き込んできた。
そしてその後ろでは、正座してひたすら反省を口にするフィオナ様と、フィオナ様にお説教しているプリミラが見える。
「魔王様~。レイ、起きましたよ~」
「だ、大丈夫でしたか!? すみません……私が考えなしにお願いしてしまったばかりに」
「いえ、俺のほうこそ考えなしに魔力を使っていました。俺はフィオナ様の部下なので、いつでもお願いしてください」
「レイ……」
こういうときにでもゴマをすっておく癖が身につきそうだ。
なんかもう自然にそんな言葉が口に出た。
でも、フィオナ様の心象もよさそうだし、悪いことではないだろう。
「ですが、レイ様が気を失っては、ダンジョンの管理に支障をきたします。魔王様はレイ様に甘えすぎないでください」
「わ、わかってますよ……」
でも、これはこれで便利なんだよな。
どうせ魔力がなくなった俺にできることはないし、次に目が覚めたら魔力は完全に回復している。
なら、全部使いきっては眠って、目を覚ましてまた全部使い切るってのも悪くない。
……まあ、フィオナ様とプリミラは許してくれなさそうだけど。
「とりあえず、ダンジョン作りはまだまだ途中だったので、続けちゃいますね」
「む、無理はしないてくださいね……」
「ええ、大丈夫です。寝ている間に魔力は回復したので」
さて、道を分断したところまでだったな。
しかも一方は歩きにくいわ、モンスターは出現するわ、罠まであるわで大変な道になった。
これでは、他の道を行く者ばかりになってしまう。
なら、油の道の先にはなにか見合った報酬を置いておけばいいか。
宝箱を適当に何個か置いておくのと……あとは、獣人たちが戦い好きなら、その先に強いモンスターを置けば喜ぶか?
中位モンスター作成:消費魔力 10
どうせそれなりに手ごわいモンスターたちも大量に用意するつもりだし、そろそろこれも使ってみるか。
回復したので三回は使える。もっとも、三回目には倒れて怒られるだろうから二回だけだ。
燃費悪いなあ……。もういっそのことダンジョンの魔力を使ってしまうか。
たった二回でいいモンスターを引けるとは思えないし……。
いかん。なんか俺までフィオナ様みたいな思考になりそうだった。
どのみち、何度もモンスターを作成するつもりだし、ダンジョンの魔力は予備としてとっておきたい。
モンスターガシャの沼に沈むわけにはいかないんだ。
「それでも、いいモンスターが引ければいいなあ」
迷っていても魔力がもったいない。
というわけで、中位モンスターを二回作成する。
バジリスク 魔力:42 筋力:11 技術:5 頑強:20 敏捷:39
ガーゴイル 魔力:51 筋力:57 技術:47 頑強:65 敏捷:48
……当たりかもしれない。
いや、当たりとかハズレとかは考えてはいけない。
その考えはあの女神のようになるから危険だぞ。
バジリスクは、黒い八本足のトカゲで、俺をおいかけてきた大トカゲとは別みたいだ。
名前からすると、こいつもトキシックスライムみたいに毒とか持ってそうだな。
ガーゴイルは、石でできた体のいかつい顔をした悪魔で、見るからに頑丈そうだ。
重い体なのに、翼で飛ぶこともできるらしいから、油の道に配置しておいたら最悪の敵となるだろう。
……さすがに、そんなことまでしてあの道を突破不能にする気はないが。
ともかく、どちらもこれまでのモンスター以上に厄介であろうことは期待できる。
そして、一度作成したので魔力さえ消費すれば、いつでも同じ種族を呼び出せるようになった。
バジリスク作成:消費魔力 10
ガーゴイル作成:消費魔力 20
やっぱり、ガーゴイルは上位モンスターっぽいな。
となると、いずれ解禁される上位モンスター召喚は、一度に魔力を20消費か……。
がんばって、このダンジョンで大量の魔力や経験値を稼げるようになりたいものだ。
「……ガーゴイルか。どんどん強力なモンスターを作れるようになっているね」
「消費魔力が高いから、あまり何度も作れるわけじゃないけどな。でも、奥のほうに配置しておくには申し分ないだろ?」
「ボクほどじゃないけどね! まあ、ボスとしては十分なんじゃないかな?」
四天王ほどであってたまるか。
でもそれは、勇者たちが相手だと簡単に倒されるということでもある。
獣人たちは、考えなしで行動するというけれど、それでもやりすぎると勇者がきてしまうかもしれないな。
まずはダンジョンを作り上げてから、実際にどんなやつらがくるのか、よく観察しておかないと。
他にも色々と試してみたいこともある。
迷路作成とか、上位モンスターと同等の魔力消費ってことだし、効果のほども期待してしまうな。
……ちょっと一か所くらいは作ってみようか。
どんなものか効果を知っておかないといけないしな。検証は大事だから仕方ない。
これは決して魔力の無駄遣いとかではないんだ。
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