第25話 なんの変哲もない不労所得

「あはは! いいね~。簡易ダンジョンでコツもつかんだし、次のダンジョンってわけだ」


「案外俺たちがやるべきことってないからな」


「そうだねえ。むしろ余計なことしちゃうからね~。大量の罠であわや全滅ってしたりねえ」


「うるさいなあ……焦ってたんだってば」


 ピルカヤの言うとおり、俺が侵入者相手にとった行動はあのときの罠一斉起動くらいだ。

 それ以外はモンスターを再作成したり、宝箱を補充したり、侵入後のメンテナンスみたいなものばかり。

 あの簡易ダンジョンは案外上手くいっていたということなのかもしれない。

 ほぼ手間をかけず、一定の侵入者を撃退してくれる。


 ……ああ、転生者に目をつけられたのは痛手だったなあ。

 せっかくの不労所得だったのに、ほとんどなにもしないで自動で魔力や経験値が入手できたのに。

 だけど嘆いてもしょうがない。だからこそ、今度はもっとうまくやるべきだ。


「でもさあ。まずは足元固めていこうよ」


「ということは、また人間たちの村の近くにダンジョンを作るってことか?」


「え、簡易ダンジョンの整備を先にすませちゃおうって話なんだけど」


「……あそこ、まだ使えるの?」


 ボスも倒され宝箱を開けられた。

 完全に攻略済みのダンジョンなので、てっきりもう使うことはできないと思っていた。


「いやいや、モンスターと宝箱がなくなっただけでしょ。いつもどおり補充するだけじゃん。いつもより数は多いけどさあ」


 でもそうだよな。ゲームの世界だけどここは現実でもある。

 クリアしたダンジョンはそれでおしまいなんていうことはない。


「あ、でも……一度ボスが倒されたダンジョンが、また活性化してたら危険視されないか?」


「う~ん。平気じゃない? 魔王様がやる気出してたころなんて、次の日にボスが生き返っていたし」


「つまり、毎日ダンジョンが復活してたのか……それでよくフィオナ様と戦う余力があったな」


 それとも、フィオナ様を倒さない限りいたちごっこだと判断したのかもしれないな。

 勇者以外でダンジョンを処理して、勇者たちだけでフィオナ様を倒せれば人類の勝利だ。


「よほど放置しない限りモンスターがダンジョンの外に出ることはないからね。ある程度間引くだけにしていたみたいだよ。一度踏破したらもう宝箱も空っぽだし」


 なるほど……。

 ダンジョン内のみにモンスターが出現するのであればしかたないと割り切ったわけだ。

 それならたしかに、簡易ダンジョンもまだまだ役目を果たせるな。


 再びモンスターが発生するようになれば、ダンジョンからモンスターが溢れるのを危険視して間引く必要が出てくる。

 宝箱を用意すれば、それ目当ての侵入者だって増えるかもしれない。

 つまり、ダンジョンを整備してやれば、今までと同じく侵入者が集まることになるはずだ。


「じゃあ、さっさと簡易ダンジョンの整備をしちゃうか」


「やる気だね~。いいなあ。ボクももっと評価を上げたいんだけど、戦いにいく許可が出るのはまだまだ先か」


「ピルカヤの能力便利だからなあ。そういう意味では、フィオナ様の評価はずっと上がりっぱなしだと思うぞ」


「そうかな~。そうか~。まいったなあ。四天王以上に出世なんかしないのに、これ以上出世したら新しい役職が必要になるね」


 四天王の上か……なんか追加のコンテンツとして実装されそうだな。

 上機嫌になったピルカヤの横で、俺は魔力を回復させながら簡易ダンジョンの整備を続けた。


    ◇


「なんで二人とも助けにきてくれないんですか!?」


「簡易ダンジョンのモンスターと宝箱を補充していました」


「地底魔界と簡易ダンジョンを監視していました」


 フィオナ様は戻ってきたがお怒りの様子だった。

 俺とピルカヤは、事前になにも示し合わせていたわけでもないのに、それっぽいことを言ってとりあえず難を逃れようとする。

 うまくいったようで、フィオナ様はさすがに文句を言えなくなったらしく、黙ってしまった。


「レイ様とピルカヤ様はしっかりと働いておられます。魔王様もやる気を出していただけますか?」


「はぁい……」


 なんでこの魔族はあれだけ強いのに、たまに小動物みたいになるんだろう。

 プリミラに怒られそうだけど、そんな姿を見せられるとついつい助け舟だって出したくなる。


「でも、プリミラとピルカヤが復活してから、順調にダンジョンを作ることができているよ。だから、フィオナ様が蘇生薬作るのは、魔王軍のためになるんじゃないかな」


「またそうやって……」


「レイ! あなたは私の味方です!」


 プリミラとピルカヤも味方です。

 感極まって頭をなでてきたので、フィオナ様の機嫌は直ったようだ。


「レイ。候補しぼっておいたよ」


「お、ありがとう……なんかこの前より増えてるな」


「獣人たちの村の近くってリクエストがあったからね。そこらを重点的にもっと詳しく調べたんだよ」


 う~ん。この精霊やっぱり優秀だ。


「獣人たちの調査ですか? なにか気になることでもありましたか?」


「いえ、今の簡易ダンジョンは安定してきたので、そろそろ新しい侵入先を作ろうと思いまして」


「なるほど。たしかに、一度ボスが倒された以上は、侵入者も減るかもしれませんからね」


 かつてはすべてのダンジョンを一人で運営していたためか、フィオナ様ってこういう話は早いんだよな。

 あとはやる気を……いや、やる気を出されて俺が解雇されても困るし、今のフィオナ様のままでいてもらおう。


「それで、ピルカヤ様が獣人たちの土地を調べたということですか」


「まあね~。どう? お手柄でしょ。ボク」


「ええ、ピルカヤの目は本当に頼りになります」


 俺もそう思う。ピルカヤ一人いるだけで、周囲の状況の情報が全然違うからな。


「ところで、なんで獣人にしたの? あいつら野蛮でガサツだよ?」


「前にエルフたちは慎重で、獣人たちはその逆だって話してくれたからな。様子見だった簡易ダンジョンと違って、今度は侵入者をどんどん呼び込もうと思うんだ」


「たしかに、それなら獣人たちはうってつけですね。人間の勇者たちと違って、獣人の勇者たちなんて目につく魔族を皆殺しという心構えでしたし」


「入口にいた俺襲われましたからね……」


「そうです。あの獣たち、私のレイを殺そうだなんて……ちょっと、獣人の国襲いますか?」


「やめてください。こっちの戦力もまだまだ足りないので……」


 俺が死んだらガシャができなくなるからな。

 フィオナ様は獣人たちにご立腹みたいだ。


「レイ様は私がお守りしますから、二度とそのようなことはさせません」


 たしかに、プリミラが護衛を務めてくれるのであれば、頼もしいことこの上ない。

 だけど……あの獣人の勇者。最強の戦士と名乗っていた男はステータスだけなら、プリミラを上回っていた。

 いつかあいつが力を取り戻して襲ってきたときは、四天王だけでは返り討ちにあうかもしれないんだよなあ……。


「ありがとうプリミラ。みんなの負担にならないよう、俺は俺でダンジョンを育て続けるよ」


 勇者たちとの再戦のときに、足を引っ張らないように、せめて少しでもあいつらの妨害をできるために、選択肢をもっと広げないと。


    ◇


「復活……ですか? ボスは倒したのに?」


「ええ、ですがクニマツ様のおかげで、ゴブリンたちは一度殺しつくせました。今のところは低位のゴブリンのみがわずかに復活しているようです」


 そっか……ボスを倒しても、宝箱を回収してもそれで終わりじゃないんだ。

 そもそも、ゲームだってボスを倒した後に雑魚が湧かないわけじゃないもんな。

 なんとなく、ボスさえ倒せば終わりと思っていたけれど、この世界だとダンジョン一つでも大変みたいだ。


「それじゃあ、また僕たちが攻略しますか?」


「いえ、クニマツ様をあのようなダンジョンに縛り付けるのはもったいない。幸い、ダンジョン内の弱いモンスターを間引くだけですむので、これからは冒険者たちが主体となってあのダンジョンを管理します」


 そうやって、国がわずかな報酬を出して冒険者を動かす。

 そうしないと、万が一ダンジョンの外にモンスターが出たら危険ってことか……。

 僕が思っていた以上に、ここでのダンジョンは厄介な存在だ。


 もしも、これから魔王がダンジョンを増やし続けるとしたら、人類は徐々に疲弊することになるかもしれない……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る