超難関ゲーム世界に転生したら、ポンコツ最強魔王様のたったひとりの部下としてダンジョンをつくることになった

第24話 すべてを見ていたダンジョンの目

「これでひとまずは大丈夫かな？」

「ええ、よくできました。なでてあげます」

　フィオナ様。俺のことペットかなにかと勘違いしていないか？

　とりあえずフィオナ様のほうに頭をあずけると、宣言どおりになでられた。

「いい感じだったね～。まさか、前回の兵士たちがもう一度きてくれるなんて」

「ああ、おかげで今度はちゃんと踏破させることができた」

　前回全滅させかけた兵士たちが、今回はちゃんとボスまで倒すことができた。

　これでこの簡易ダンジョンが、必要以上に危険視される可能性は下がったと思う。

「宝箱からはなんか銀っぽい剣が出てきていたな。あれもそこまで危険じゃないってことでいいんだよね？」

「ええ、銀の剣は冒険者や兵士にも愛用されていますが、脅威となる武器というほどではありませんから」

「ありがとう。さすがはプリミラ、色々なことを知っているな」

「恐縮です」

　相変わらず頼りになる四天王だ。

　俺なんかの補佐をしているのがもったいない。

「私も今答えようとしてたんですけど～……」

　フィオナ様が機嫌を損ねていらっしゃる……。

「ありがとうございます。さすがはフィオナ様ですね」

「わかればいいんです」

　あ、これでいいんだ。

　自分でも適当な褒め方をしたなあと思っていたが、どうやらフィオナ様はそれで満足してくれたようだ。

「君、ほんとうに魔王様の扱い上手だよね～」

「俺も想定外だよ……」

　もしかして、ちょろいのか？

　いや、騙されるな。あのとんでもないステータスの持ち主だぞ。ちょろくても、機嫌を損ねたら死と隣り合わせだと思え。

　というか、プリミラやピルカヤだって、その気になれば俺なんて瞬殺だからな。

　みんな良い魔族だからってあまり調子に乗るなよ俺。

「そういえば……この前はいなかったけど、見るからに兵士じゃない人間混ざってたよね～」

「ああ、兵士たちがクニマツ様って呼んでいた。ステータスも確認したけど、あいつは転生者で間違いない」

　国松（くにまつ）幸夫（ゆきお）　魔力：３０　筋力：３９　技術：２３　頑強：３７　敏捷：２９

　しかもけっこう強い。

　互いを強化していない場合、ゴブリンキングたちでは相手にもならないだろう。

　つまり、それは俺の場合はもっと相手にならない。

　この前の連中と違って、おそらくちゃんとレベルを上げている転生者だ。

　鑑定と言っていたな。ダンジョンに入ってから、彼が部屋の様子を兵士に伝えている様子は頻繁に見受けられた。

　つまり、それが国松の強みであり、女神から授かった力なのだろう。

　俺もダンジョン内の生物のステータス程度ならわかるが、鑑定特化のあいつはきっとその精度が俺より高いはずだ。

「倒すべきだったかな……」

　元のゲームのことさえ知らないが、転生者が不確定要素であることは確かだ。

　ろくに準備もせずに、俺を殺しに来たようなやつらならいいけど、俺と違ってゲームの知識があって慎重なやつらは怖い。

　中にはゲームをクリアした者だって混ざっていることだろう。

「大丈夫ですよ。いざとなったら、私が守ってあげますから」

　フィオナ様が気合を入れながらそう言ってくれたが、どちらかと言うとそれが心配だ。

　ゲームをクリアしている者がいるとしたら、狙いはむしろフィオナ様。

　そして、きっとなにか倒す方法を知っているということになる。

　こんなとんでもないステータスの魔王相手にどう戦うのかとは思うが、ゲームである以上はクリアする方法があるだろう。

「俺も、フィオナ様を守りますから」

　だから、俺が守ろう。

　ダンジョンをもっともっと改築し、モンスターや罠も充実させ、フィオナ様の元までたどり着けないようにしよう。

　転生者たちがこの世界のイレギュラーなら、俺だって転生者たちにとってはイレギュラーだ。

　うぬぼれではなく、転生者たちにとって一番厄介なのは俺になるだろう。

　ゲームですでに予習済みのフィオナ様と違い、俺は転生者たちが予測していない存在なのだから。

「た、頼りにしていますよ！」

「え、はい……がんばって強くなります」

「ええ！　いつか、私より強くなってください！」

「それは無理だと思います……」

　そこまで頼られるとそれはそれで困るけど、最善を尽くせるようにがんばろう。

　そこで大切になってくるのは、俺自身のステータスだ。

　国松のステータスはきっと成長して上がっている。だけど、俺はこのゲームのことを知らないし、レベル上げのために外に出るのも危険だ。

　……自分でモンスターを作成して倒すって手段もあるだろうけれど、ゲームの味方ユニットを倒した場合に得られる経験値って少ないだろうからな。

　というか、さすがにかわいそうなのでそれはやめておこう。

「なんならボクが訓練でもしてあげようか～？」

「いやあ、さすがにそっち方面で強くなるのは無理だと思う……」

　ステータスを上げる、と言っても俺自身が強くなるためではない。

　狙いはもちろん魔力の強化だ。というか、魔力さえあれば他はいらない。

　他のステータスの上昇値も全部魔力に注ぎ込みたいくらいだが、さすがにそれは無理そうだ。

「それじゃあ、どうするの？　まあ、地底魔界を魔王様に任せられてるわけだし、ここを強化することはレイの強化といえるかもしれないけど」

「一応、俺自身もそれで強くなっているみたいだからな。当面は、改築して経験を積んで強くなるよ」

「なんというか、ボクたちみたいに戦闘経験を重ねる強さじゃないねえ。職人とかそういう類の成長かあ」

「侵入者がここで苦戦すると、俺自身が強化されるみたいだからな。結局はダンジョンを強化するのが一番らしい」

　国松のときに気がついたが、あいつらがダンジョンを進んでいると俺のステータスが上昇した。

　スキルは使用していないし、国松たちは全員無事にここを脱出した。

　なので、考えられるとしたら、俺が作ったモンスターと侵入者が戦うことでも、経験値みたいなのが手に入るのだろう。

「そうだったんですね。さすがはレイ。そして私」

「魔王様は特になにもしていません」

「いいえ。レイにダンジョンを任せた私の考えは、正しかったということです」

「……押しつけたのが、たまたま上手くいっただけでは？」

「上手くいったのならいいじゃないですか。ということで、私はこれからも力を蓄えます。そう、きたるべき戦いに備えて力を蓄えているのです」

　俺としては、ここを任せてもらえるほうが助かるので何も言わない。

　だけど、プリミラはそうはいかないようだ。

「魔王様。それではダンジョンはレイ様とピルカヤ様にお任せしましょう」

「まかせてよ」

「……ほどほどにしてあげてくれ」

「なにがですか？」

　プリミラの発言への返答としてはおかしなことを言ったため、フィオナ様は不思議そうに俺に尋ねた。

「それでは、私たちは邪魔をしないように別室で話し合いましょう」

「え？　な、なにをですか？」

「きたるべき戦いとやらのために、どのような備えをしているのか。魔王様のお考えをうかがいたく存じます」

「……レ、レイ～」

　すみませんフィオナ様。俺の名前を呼ばないでください。

　露骨に目をそらしたためか、フィオナ様は明らかにショックを受けているようだった。

　　　　◇

「魔王様、本当に面白い魔族になったよね～」

「前まではあんな感じじゃなかったのか？」

「全然。立派な魔王様だったよ」

「……その発言、今が立派じゃないと思われかねないぞ」

「やだなあ。ちゃんと面白くなったって褒めてるじゃない。それに……前までは無理してるみたいだったからねえ。今のほうがいいと思うよ」

　う～ん。昔のフィオナ様は大変だったみたいだな。

　今は……勇者たちをひとまず倒したから、心に余裕ができたってことなのかもしれないな。

　この平穏を壊されないためにも、もっと立派なダンジョンを作らないと。

　魔力がもっと欲しいな……。

　俺自身も、ダンジョンにもだ。

　そこで俺はピルカヤにとある提案をすることにした。

「なあ、ピルカヤ」

「ん、どしたの～？」

「獣人たちの村の近くにもダンジョンを作ってみたいんだ」