第19話 そのゴブリン、特別製につき

「さっさとしろ。メイリス」


「は、はい……」


 前回の依頼に失敗したから、私たちのパーティリーダーであるカイランさんの機嫌が悪い。

 あと少しというところで、コボルトロードまで乱入したせいでゴブリンキングを倒せなかった。

 結局逃げ帰ることになったため、報酬はないし、戦いに使った費用のぶんでマイナス。

 だから、なるべく簡単な依頼を受けて、確実にお金を稼がないと。


「でもねえ、よりによってさびれた村の近くのダンジョン? どうせ、洞窟の中にモンスターが入り込んだとかじゃないの?」


「いや、それがしっかりと内部まで舗装されているみたいだぜ。モンスターの数も少なくとも十はくだらないとか」


「だって、たかがゴブリンでしょ? たった十匹程度なんの危険もないわよ」


 魔法使いのリオーナさんと、探索者のサリオスさんは、依頼について話している。

 村の近くにダンジョンができたから、調査と可能であれば制圧をしてほしい。

 情報として記載されていたけど、ゴブリンやゴブリンソルジャーが数匹ずつ部屋にいて、宝箱らしきものもあったみたい。


「宝もあるらしいぜ」


「ゴブリン程度しかいないダンジョンの宝箱なんて、せいぜい低品質の消耗品よ。ミミックさえ出てこないわ」


 私もそう思う。たぶんゴブリンたちばかりのダンジョンってことは、魔王が作り直したばかりなんじゃないかな。

 勇者様たちは魔王に倒されちゃったけど、きっと魔王も勇者様たちに追い詰められているはず……。

 だから、勇者様たちが復活を待つように、魔王も今はダンジョンや魔王軍を復旧することで精一杯なんだ。

 だったら、私たちでも十分どうにかなる生まれたばかりのダンジョンなんだと思う。


「連続で失敗したくないからな。そのくらい雑魚ばかりのほうがちょうどいい」


「しかたないわねえ……。宝箱の中身は期待できないでしょうし、ダンジョン制圧の報酬だけさっさともらっちゃいましょう」


「そうそう、王国の兵士たちが来る前に、俺たちで小遣い稼ぎといこうぜ。他のやつらに達成される前に」


 ダンジョンを制圧すると、王国から報酬がもらえる。

 ゴブリンだらけとはいえ、魔王の拠点の一つなのだから、わずかにでも力を削ぐことは必要なんだ。

 だから、今回みたいな手頃なモンスターが相手だと、まずは私たちのような冒険者が対応することが多い。

 王国の兵士やまして勇者様なんかは、そんなことで手をわずらわせちゃいけないからね……。


    ◇


「お、きたきた」


 ピルカヤがダンジョンの内部から侵入者を発見したらしい。

 俺とプリミラに視界を共有してくれるのは便利だけど、まだ慣れないな……。

 なんとなく目をつむることで、共有された視界にのみ集中するけれど、いずれは二人みたいに複数の視界を把握できたほうがよさそうだ。


「最初は村人がたまに来るだけだったけど、今回はなんかしっかりとした装備の人たちだな」


「だろうねえ。村人は数回で手に負えないって判断したんだと思うよ。だから、今度の侵入者は依頼された冒険者ってわけ」


「冒険者か……。ギルドに所属している何でも屋みたいな集団だっけ?」


「はい。さすがに村にはないので、ギルドか支部が存在する一番近い町まで行き、ダンジョンの報告をしたのでしょう」


 ということは、こちらの予定どおりにはなっているわけだ。

 ここからが調整が難しい所だな。


「全滅でいいかな?」


「う~ん……まあ、今回はそれでいいんじゃないかな」


 なら俺たちは特になにかしなくてもよさそうだな。

 逃がすとなると、モンスターたちに簡単な命令をしておかないといけないし、最悪壁でも作って侵入者たちを助けないといけない。

 今回はそれをしなくていいのだから、そこまで忙しいことにはならないので助かる。


 相手は四人。男が二人に女が二人。

 戦士のような男、身軽そうな男、杖を持った女、小柄な少女。

 看板も気にせずに進んでいくということは、腕にそれなりに自信があるのだろう。

 ボス部屋あたりまでは行きそうだな……。


    ◇


 村の人たちの情報どおりで、洞窟の中はしっかりとした道や部屋がある。

 それに部屋の中にはゴブリンが何匹か、たまにゴブリンの上位種が混ざっていた。

 うん、間違いなくダンジョンだ。魔王……。勇者様たちに軍をめちゃくちゃにされたけど、まだあきらめていないんだ……。


「雑魚ばっかり」


「そう言うな。楽な仕事だと思えばいい」


「カイラン一人で十分だったんじゃね?」


「たしかに、今のところ隠し通路も、鍵を開ける必要も、罠もないが、この先がそうとも限らないだろ」


 本当になにもない。

 道があって、部屋があって、中にはゴブリンがいるだけ。

 話にあった宝箱もたしかに発見したけれど、中身はやっぱり回復薬程度。

 カイランさんがその気になれば、ものの数十分で制圧しちゃいそう……。


 そうだよね。魔王もダンジョンを作る余力なんてなかったんだ。

 だから、こんな見つかりにくい場所に作って、力を取り戻すまでは隠したかったのかもしれない。

 やっぱり、魔族って愚かだな……。そんなことをしても、結局すぐに村の人たちに発見されちゃってるんだもん。


「ん? 道が合流しているな」


「おいおい、まじかよ~。どの道を選んでも同じ場所にたどりつくとか、ついには迷う心配さえないってことじゃん。ダンジョンじゃねえよ。こんなもん」


「冒険者になりたての子たちのいい練習になりそうね~……」


 みんな呆れてる。

 拍子抜けしちゃったのか、リオーナさんはもうやる気すらないみたい。


「次の部屋だ。……まあ、予想はしていたが、俺たちにはちょうどいい相手かもな」


 カイランさんが剣をかまえた先にいたのはゴブリンキング。

 周りには様々なゴブリンたちもいる。

 ちょうど、私たちが失敗した依頼を思い出しちゃう。

 みんなもそう思ったのか。すぐに意識を切り替えて、それぞれ戦うために行動した。


「ソルジャーは私が倒すわ」


「なら俺たちはメイジだ。メイリス、強化しろ」


「は、はい!」


 カイランさんがキングを抑えているうちに、リオーナさんがソルジャーを一掃し、私がサリオスさんへ魔法への耐性を付与してメイジを倒してもらう。

 それが一番の戦い方だから、私たちは疑いもなくすぐに行動した。


「う、うそ……なんで、なんで! 魔法が効いていないのよ!」


 リオーナさんの魔法でゴブリンソルジャーたちが炎に包まれた。

 前回は……それでゴブリンソルジャーたちは一掃されたけど、今回は炎の中をまっすぐに進んでいる。


「や、やべえ! なんで、メイジがこんなにしぶといんだ!」


 サリオスさんが短剣をゴブリンメイジの喉に突き刺したけど、ゴブリンメイジはまだ生きていた。

 じきに死ぬだろうけど、その前に魔法を使ってサリオスさんに攻撃している。

 ……なんで、なんで? ソルジャーは魔法に弱いし、メイジは物理攻撃に弱いのに。


「こ、こいつ……! この前戦ったゴブリンキングより強い!」


「ど、どうしよう。どうしよう……」


 リオーナさんが、ゴブリンソルジャーに斬られ、突き刺され、血だらけになっている……。

 サリオスさんは、ゴブリンメイジの魔法の集中砲火を受けて、黒焦げになってしまった……。

 あ……ゴブリンメイジが魔法を……そっか、メイジ同士で群れ全体を強化しているんだ。

 私がサリオスさんを強化したみたいに、すべてのゴブリンが強化されて……。


「こ、こんなところで……」


 当然。ゴブリンキングだって強化されている……。

 まさか、ゴブリンメイジが攻撃魔法だけじゃなくて、仲間の強化までするなんて……。


「あ……い、嫌だ。私は勇者様の役に立つために……勇者様が魔王を殺す手助けになりたかったのに……」


    ◇


「まあ、そうだよな。人間だったし、フィオナ様や魔族を殺したいのは当然か」


「どうせ、このダンジョンを、魔王様が新しく作った拠点だと思って潰しにきたんだろうね」


「小規模なダンジョンにしたはずなのになあ。それでも、フィオナ様のせいだと思われるのか」


「ダンジョンを作れるのなんて、魔王様くらいだからね。君という例外なんて、そりゃあ想像されているはずもない」


「勇者を倒した魔王様が支配地を拡大しようとしている。そう考えて潰しにきたのかもしれません」


 なるほど。勇者が倒されたことは村人は知らないかもしれないが、ギルドがある町なら知っているだろうからな。

 情報が行き来しやすいだろうし、そこに所属する冒険者ならなおのことだ。


「今回は全員倒せたから、これから先は侵入者も増えるだろうね」


「そして、そのたびに全滅させると、より強い冒険者たちがやってきます。強者を倒すか、弱者を適度に倒すか、方針はレイ様にお任せいたします」


「わかった。それじゃあ、今のダンジョンがどこまで通用するか、うまく見極めながら決めていくよ」


 罠やモンスターの配分。全滅や撃退すべきか、踏破させるべきか、適度に運営していくとしよう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る