第14話 魔族に馴染んでいく心と体
「あのさ、君からも魔王様に進言してくれない? ピルカヤが魔王様の役に立ちたがっているから、なにか仕事あげてくださいって」
「あ……そういう」
「大事なことだよ、これ。だってさあ……あれだけがんばって四天王に出世したのに、あんな失態をしでかしたんじゃ全部パアじゃん。ボクが役立つことを魔王様に見せないと」
……なんか、俺の考えに似ていていっそ親近感さえわいてくる。
そうだよなあ。俺もダンジョンマスタースキルの有用性を見せて、フィオナ様の便利な道具として仕えようと必死だったし、今だって捨てられたら困る。
「そのことなら、心配いらないと思う」
「へえ? なんかいい考えでもあるのかい?」
「いや、蘇生薬をわざわざ使ったわけだし、フィオナ様はピルカヤに頼みがあったから優先して復活させたみたいだからな」
「まじ!? よっしゃ~! まだ見捨てられてなかった! ……あれ? でも、君が蘇生薬作ったわけだし、いくらでも魔王軍を復活させられるんじゃないの?」
「いや、俺が作ったというか……」
俺はピルカヤに宝箱のことをかいつまんで説明した。
黙って話を聞いていたピルカヤは、徐々に目を見開いていき、最後には吹き出してしまった。
「ぶはっ! 魔王様まじっすか!? そりゃあプリミラさんも怒るわけですよ!」
「わ、わかっています! ですが、必要なことだったんです!」
「あははははっ! それじゃあ、そんな貴重な蘇生薬で復活させてもらえた以上、期待に応えさせてもらいますよ」
「ええ、頼りにしています。取り急ぎ、あなたの目を頼りたいので準備してください。小規模なダンジョンの入口が発生しても不自然ではなく、騒ぎになりにくい場所を洗い出してもらいます」
「な~るほど……そういうことですか。それはたしかに、ボクが適任ですね。それじゃあさっそくばらまくとしますか」
フィオナ様の指示に、ピルカヤはさっそく準備を始めたようだ。
さすがは魔王と四天王。意思疎通がやけにスムーズだな。
「ピルカヤは火の精霊。分割した自分の意識を火に送ることで、分身を作ることができます」
「それって、世界中の様子をいくらでも探れるってことですか……」
火なんてどこにでもあるだろうからな……。
このダンジョンにだって、各部屋や道を照らす松明みたいなものがあるくらいだ。
それらすべてがピルカヤになってしまえば、情報戦でとんでもなく優位を取れるだろう。
「さすがに国の重要拠点などは結界や妨害魔法で守られていますが、私たちが欲しいのは安全なダンジョンの入口ですからね。むしろそういった場所を避けたいので好都合です」
なるほど、さすがに国内の情報が筒抜けとはいかないか。
なんにせよ、フィオナ様がピルカヤを蘇生させたのも納得だ。
彼はまさしく今の俺たちが欲している能力を持っている。
「分身はどれくらい作れるんですか?」
「その気になれば千を超えます。ですが、そこまで意識を分割してしまうと、一体ごとが弱くなってしまいますね。それに、本体の力が弱まるほど分身の活動可能範囲は狭まりますので、索敵のためといえど、あまり大量の分身を作らないほうがいいでしょう」
分身にも色々と制限はあるらしい。
それでも十分強力なことには違いないし、そのあたりのさじ加減は本人が一番理解しているだろう。
先ほどからすでに行動に移っているらしいピルカヤは、分身の情報収集に集中しているのか、あまり反応がない。
ここが安全な場所だから本体は無防備なのか、それともそれだけの集中力が必要なのか。
いずれは、ピルカヤが諜報活動をするとき用の安全な部屋とかも作った方がよさそうだな。
◇
それなりに時間が経過したところで、ピルカヤの意識がこちらへと戻ってきた。
急に動き出すから少し驚いたが、どうやら情報を集め終えたらしい。
「いくつか候補を調べてきましたよ~」
「さすがですね。頼りになります」
「まあ、ボクは優秀ですからね! え~と、崩壊する前の地底魔界の地図あります?」
「どうぞ、ピルカヤ様」
「お、さすがはプリミラさん。仕事ができる人だね~」
そう言われるのがわかっていたかのように、プリミラが地図を手渡すとピルカヤはそれを受け取り目をとおす。
これが崩壊前のダンジョン……。今でも大きいと思っていたが、以前はそれ以上にはるかに大きく様々な部屋があったんだな。
そんなことを考えているうちに、ピルカヤはいくつかの場所を指さした。
「ここらがいいと思いますよ。小さな村や町で人がそんなに通らないから発見も遅れる」
「それは助かるけど、人が通らないとそれはそれで問題かも。ダンジョンの魔力を増やすために一定数の侵入者は欲しいから」
「そこは平気だよ。一度見つかっちゃえば、ダンジョン目当てのお客さんが集まるからね。最初は小規模。手が負えなければだんだんと大規模の探索隊がね」
そういうものなのか。であれば、ピルカヤが選んだ場所にも納得だ。
小さな町の付近のダンジョンなんて、初めのうちは国の兵士たちが派遣されるってこともなさそうだからな。
「フィオナ様どうします? 魔力も回復したので、今からでもダンジョン作りを進められそうですが」
「ちょ~っと待った」
フィオナ様に伺いを立てようとすると、ピルカヤの声に制止されてしまった。
「ダンジョン作りもいいんだけどさあ。それ以外にも面白いもの見つけたんだ」
「面白いもの……ですか」
どうやら報告はまだ終わっていなかったようだ。
勇み足で邪魔することになり申し訳ないことをしたな。
「もう大転生が始まってるらしいですよ」
「大転生ですか……たしかに、レイも転生者ですし、そのような時期ですね」
「あれ? 君、転生者だったんだ。へ~……珍しいね。魔族の転生者なんて」
「なんか女神に勝手に決められた」
「あははははは。女神なんて自分勝手なやつだからねえ。ついてなかったね。レイ」
本当だよ。まあ、今はフィオナ様の庇護下にいるから、かなりましな状況にはなったけど。
「ところで、大転生ってなに?」
言葉の意味と会話の流れから、なんとなくは想像できるけど一応確認しておこう。
「ある時期に転生者が大量にこの世界に現れる。それが大転生です。おそらくレイもそのうちの一人なのでしょうね」
「じゃあ……俺と同じ世界の人たちがこの世界にきている。それも、魔王を倒すために……ということですか」
「そうなりますね」
あまり考えないようにしていた。
モンスターや罠を作って侵入者を撃退するってことは、このダンジョンから追い払うだけではない。
ダンジョンの魔力を集めるという時点で、当然ながらこのダンジョンで人を殺すことを望んだということだ。
俺自身が魔族であり、初めて会ったこちらの世界の住人に殺されかけた。
そして、それは俺が魔族であるかぎり、こちらの世界では当たり前であると言われ、俺は魔族以外との話し合いを諦めてしまった。
自分に都合がいいから魔族の話を信じているだけかもしれない。
だけど……俺は死にたくない。そんなわがままのために、これから何人も殺すことになるだろう。
そう思っていた。でも、俺の世界の人たちなら……まずは話し合いができるかもしれない。
「レイ。あなたも私を殺したいですか?」
「い、いえ! 俺はフィオナ様のそばに置いてもらえれば……」
そう、それで満足だ。
魔族である俺にとって、一番安全な場所は最強のラスボスである魔王のそばなんだから。
……我ながら卑怯な選択で嫌になる。
「であれば、忠告します。残念ながら、同郷の者といえど話し合うことは難しい。特に、勇み足で私を殺しに来る者ほど話は通じません。……どうか、それだけは覚えておいてください」
そう忠告してくれたフィオナ様の表情は、どこか悲しそうだった。
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