第15話 最速クリアの障害でしかない会話の提案

「魔王様が言ってること、正しいと思うよ」


 なんともいえない空気になってしまったが、ピルカヤが口を開いた。


「そう……だよな。俺は魔族だし」


「ああ、ちがうちがう。そういうのじゃなくて、今現在の話。人間の転生者の何人かが、ここに向かってるのが見えたんだよね。魔王も魔族も殺すって息巻いていてさ」


 それは、女神にこの世界をゲームのとおりに攻略しろと言われたからだろうか。

 それとも、魔族は殺すべき存在という認識が、転生者たちの中でも共通しているからだろうか……。

 最初に会った連中とは違う。相手はあくまでも俺と同じ世界の出身。話し合えばこちらを殺すなんてしないと思いたい。

 思いたかったが……その考えは甘いと思った方がよさそうだな。


「早すぎますね。勇者たちを倒してから、それほどの時間は経っていません。ということは、国に依頼されたのではなく、一部の血気盛んな転生者たちによる独断ということでしょうか」


「さっすが魔王様。どうにも自分たちは最強無敵で好き勝手できる力がある。だから国王よりも偉い存在だと思ってるみたいですよ」


「力に溺れた転生者たちですか。すでに王に見限られていそうですね。ということは、ここで倒しても国が動くこともないでしょう」


 きっとゲーム感覚なんだろう。

 女神に転生させられた。その際に特別な力も授かった。

 ならば、自分たちこそゲームの主人公を超える存在であり、負けることなど想像もしていない。当然……死ぬこともだ。

 俺の場合、出会った人間にすぐに攻撃され、いきなり死にそうになったから気がつけたが、この世界は元の世界以上に死が身近にある。

 そのあたりを理解してもらわないことには、こちらの話を聞いてもらうのも難しいんだろうな。


「そんじゃあ、ボクがさくっと倒してきましょうか」


「いえ、ピルカヤ様は蘇生して間もないため、急に戦うのは避けたほうがいいかと」


「いやいや、だからこそああいうので勘を取り戻しておかないと、楽に倒せて手柄もあげられる。美味しい話じゃない」


「プリミラの言うとおりですね。ピルカヤ、あなたはすでに十分な功績をあげてくれました。今回は体を休めていてください」


「は~い……」


 さすがにフィオナ様の言葉に逆らうつもりはないらしく、ピルカヤはしぶしぶとその言葉に従った。

 となると、プリミラかフィオナ様が戦うことになるのか?

 こちらの情報を知られたくないし、戦いにならないのが一番なんだけどなあ……。


「ピルカヤがそう言うのであれば、その転生者たちは脅威ではないと考えてもいいでしょうか?」


「そうですね~。少なくとも勇者なんかよりは、ぜんっぜん弱っちいですよ。ボクかプリミラさんなら、一撃じゃないかなあ」


 やっぱり転生者だからといって、いきなり魔王や四天王や勇者に匹敵する力はないか。

 そして、こちらに向かっているという彼らはそのことに気がついていないんだろう。


「であれば、私たちが迎え撃つ必要もなさそうですね。これまでと変わりありません。ただの侵入者がやってきただけです」


「それって、モンスターたちで十分ってことですか?」


「ええ、まずはそれで問題ないでしょう。万が一モンスターたちで対処できないようであれば、プリミラが始末してください」


「かしこまりました」


 脅威ではない。万が一とは言うが、恐らくフィオナ様はプリミラの出番さえないと考えているのだろう。

 だからこそ……俺が会って話をするチャンスじゃないか?


「フィオナ様」


「なんですか?」


「そいつらが転生者というのなら、話をしてみてもいいですか?」


「だめです」


 はっきりと却下されてしまった。取り付く島もない……。

 まあ、そりゃそうか。魔族側の転生者のくせに、人間側の転生者と会話がしたい。

 そんなの、魔王への裏切りととらえられても仕方がない。

 むしろ、この場で処罰されなかっただけでも寛大な対応だろう。


「ピルカヤや、プリミラにとっては脅威ではないとしても、レイの場合は話は別です」


「あ~、そうかもしれませんね。レイ、たぶん君にとっては危険な相手だよ」


 ……それどころか、俺の身を心配しての判断となると、なにも言えなくなる。

 どちらにせよ、直接見ていないだけで俺はすでに、作成したモンスターや罠でこの世界の人を殺している。

 なのに、今さら同郷の者だからと会話を望むことが間違いか……。


「…………魔王様。であれば、私がレイ様の護衛をするというのはいかがでしょうか?」


 しょぼくれている俺を見かねたのか、プリミラがフィオナ様にそう提案してくれた。


「……ピルカヤ」


「なんですか~?」


「もう一度確認しますが、本当にその転生者たちは、あなたたち四天王であれば相手にもなりませんか?」


「まあ、あのままだと途中で鍛えるなんて考えもないでしょうからね。余裕ですよ」


「はあ……わかりました。プリミラ、レイを護衛してください。万一危険と判断したときは、すぐにレイを連れて逃げること。いいですね」


「かしこまりました」


「あ、ありがとうございます。フィオナ様」


 プリミラの提案のおかげか、フィオナ様は俺が転生者たちと会うことを許可してくれた。

 本当に、部下には慈悲深い魔王様だな。


    ◇


「つっかえねえな~。結局、俺たちだけで魔王を倒すことになってるじゃん」


「どうせチートも持ってないやつらだからな。場所を調べただけでも役には立ったほうだろ」


「それより、女神からスキルをもらったくせに、勇者と一緒じゃないと嫌だとか言ってる臆病者のほうがムカつくけどな。俺は」


「あいつら、後になってから慌てても遅いって気づいてないんじゃない? 私たちだけで、魔王退治の手柄もらっちゃおうよ」


 本当に馬鹿ばっかりだ。

 女神が言ってたじゃねえか。ゲームの世界へ転生したって。

 たかだかゲームなのに、慎重になるとか、死にたくないとか、臆病にもほどがある。


 国相手に信頼を築くと言っていたけど、俺たち以外はゲームのキャラだろ。

 NPC相手に信頼とか、一生人形相手に会話ごっこでもしていればいい。


 勇者が力を取り戻すまで待つべきだとか言っていたリーダー気取りの正義の味方。

 その勇者が魔王にあっさり負けたから、女神は俺たちに力を渡して魔王を倒せって頼んだんだろ。


 どいつもこいつも臆病で馬鹿で見当違い。

 まあいい。そんなの連れて行っても足手まといだろうからな。

 さっさと魔王を倒して、元の世界に帰ってやる。ついでにこのスキルもそのままにしてくれと女神に頼んでみるか。

 動きを止める力なんて、元の世界でもいくらでも役に立つだろうからな。


「あれか?」


「ああ、本当だ。なんか洞窟みたいになってる」


「それにしても、ここにくるまでに生き物なんかいなかったじゃねえか。あの兵士たち嘘ついてたな」


「魔王のいる場所を探索するのが嫌だから、適当なこと言って逃げてきたんじゃない?」


「本当にここに魔王がいるんだろうな……」


 それさえも怪しくなってきたが、ここまできたからには確認だけはしておくか。

 もしも嘘なんかついていたら、転生者様に逆らった愚か者として罰を与えないとな。


 洞窟の中へ足を踏み入れると、二人の人間が立っていた。

 ……いや、あれが魔族か。耳がなんかとんがっているし、肌がわずかに青っぽい。

 じゃあ敵か。それとも、どっちかが魔王?


「あんたたち転生者なんだろ?」


 別にその言葉に驚くことはない。

 俺たちがいた人間の国でも、転生者というものは知れ渡っていたからな。

 女神が何人も転生させていたから、この世界ではもう常識なんだろう。


「俺も転生者なんだ。たぶん女神に言われて魔王を倒そうとしているんだろうけど、ちょっと話し合わないか」


 ……驚いた。

 魔族に転生したやつがいることじゃなくて、魔族のくせに話し合いなんて言ってることにだ。

 たぶん、こいつも俺たちについてこなかった臆病な転生者たちと同じってことだろう。


 倒されるためだけの存在が話し合いとか、それって要は殺さないでくれって命乞いだろ。

 やられることが役目のくせに、つまらないこと言ってんじゃねえよ。


「馬鹿じゃねえの。魔王も魔族も殺すに決まってんだろ。敵キャラに転生したってことは、女神に死んでもいいと思われたってことだよ。お前は」

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