第11話 引っ越し途中の訪問者(未遂)
「宝箱って食料も出てくるんですね」
「つ、次こそは……」
ようやく宝箱の無駄に大きな収納スペースが役に立ったようだ。
フィオナ様は今日も蘇生薬を狙って、宝箱に魔力を注ぎ続けている。
ダンジョンに備蓄していた食料がなくなったらどうしようと考えていたが、このぶんだとその心配もいらないみたいだな。
むしろ、どうやって消費していくかのほうが問題になりそうだ。
「モンスターは食べ物必要ないみたいだしなあ……」
「そういえば、レイが作成したモンスターは自動的に回復しますね。作成時の魔力以外はなにも必要ないとは、コストがかからない素晴らしいモンスターです」
「まがりなりにも女神からもらった力なだけありますね」
ハズレ扱いしていたけどな、あの女!
……まあ、敵側である魔族だし、ダンジョンがないと無意味と考えるとわからなくはないけど。
「そんなレイの力になるためにも、やはり四天王の一人や二人蘇生しなければ……」
「思いつめないでくださいね~」
というか、沼にはまらないでくださいね。
でも、フィオナ様の宝箱ガシャのおかげで物資が増えていることを考えると、今のままでもいいのかもしれない。
ギャンブル中毒の魔王様にならないようにだけは気をつけてもらおう。
「モンスターで思い出しましたけど、そろそろ最初の部屋にはモンスターが入りきらなくなっていますね」
「そうですね。それでは、ダンジョンの改築を試してみますか」
フィオナ様の言うとおりだ。
俺は俺でモンスターガシャばかりしているため、戦力はどんどん増えていっている。
その代わりにそろそろスペースが足りなくなってきている。
さすがに、あいつらを一つの部屋にすし詰めにするのはかわいそうだし、ちょうどいいしそろそろ新しいことをするか。
というのも、気がつけば俺のステータスは、また上昇していた。
これが今のステータスで、魔力が10を超えてくれたのだ。
前回よりもステータスが上がるまでが速かったのは、何度もダンジョンマスタースキルを使っていたためか、あるいは入口を解放したことで侵入者が増えたためか。
どうにも、侵入者をモンスターや罠で撃退してもステータスが上昇する気がするんだよな。
ぼけっとステータスを見ていたら、何もしないのに上昇したし、それくらいしか心当たりがない。
「なにか考えがあるようですね。では、入口のほうまで行きますか」
「玉座にいなくていいんですか?」
どうやら、今回はフィオナ様も同行するようだ。
「たまには、レイの働きぶりを見てみたいですからね。なんせ、私の最後の部下ですから」
「……期待にそえるようにがんばります」
フィオナ様から、無自覚のプレッシャーをかけられたため、そう答えるしかできなかった。
組織の最高責任者が出向いて仕事の内容を観察されるって、相手が魔王でなくとも相当緊張するぞ……。
どうやら今はフィオナ様の機嫌はかなりいいようだけど、それが損なうことのないようにせいぜいヘマしないようにしよう。
◇
「改築ということは、新しい部屋でも作るのですか?」
「それもいいんですけど、もっと広い部屋を作ってみようと思います」
広間作成:消費魔力 10
わりと早い段階で解放されたけど、消費魔力が高すぎて手が出せなかったメニューだ。
だけど、あのときと比べて俺の魔力は二倍以上に増えた。
……まあ、元々の魔力が低かっただけというのもあるが、ともかく今ならこのメニューも選択できる。
「ほぅ……本当にレイの力は便利ですね。こんな大部屋まで一瞬で作れるとは」
ちょっと意識がぼうっとしてしまう……。
消費魔力が大きかったり、残りの自分の魔力量によっては、意識を失いやすくなるのかもしれないな。
「いえ……女神はハズレ扱いしていたスキルみたいですから」
「そんなことはありません! あなたの力はすばらしいものです。ですから、あまり自分を卑下しないように」
「どっちにしろ、貰い物の力なんですけど……」
「あなたは私のものです。レイといえど、私のものを侮辱する発言をしてはいけませんよ?」
「はい……」
一応、便利な道具として、そばに置いてくれるようになったと喜んでいいのかもしれないな。
女神に感謝はしないけど、この力には感謝するとしよう。
「それにしても大きな部屋ですね。前回の地底魔界には、これほどの広間はありませんでした」
「広すぎて、今のモンスターたちを半分ほど移してもスペースが余りそうですけどね」
まあ、それは今後もモンスターを作成し続ければ解決するか。
いっそ罠もいいかもしれない。
これだけの広間なら、うちのモンスターたちに被害を出さずに起動できそうだしな。
「まだまだ、いろんなことができそうなので、魔力が回復したらこの部屋も改築していきますね」
「ええ、頼りにしています。ですが、くれぐれも無理はしないように……」
相変わらず、無茶なことをするなと念を押される。
最初に、魔力不足で何度も失神したことが尾を引いているな……。
「ところで、そろそろ宝箱に魔力を注ぎ終わりそうなので、次の宝箱を作ってもらえると助かるのですが……」
「フィオナ様も、無理しないでくださいね……」
ほうっておいたら、自分の魔力を全部宝箱ガシャに浪費しそうだ。この人。
◇
「転生者様にも困ったものだな……」
「まあいいじゃねえか。どうせ勇者様が殺したばかりのダンジョンだろ? 適当に中を確認して報告したら終わり、楽な仕事じゃないか」
「ああ、転生者様のわがままのおかげで、仕事をサボれてついてるよ」
転生者の願いは、無理のない範囲で叶えること。
王は事前に国民へ、そのように命じていた。
表向きでは転生者に協力的な態度をとっておくことで、転生者が他の国に引き抜かれるのを防ぐためだ。
城の兵士である彼らもまた、偉そうに命令をする転生者に内心で舌打ちをしながら、その命令を承諾した。
なぜならそこはすでに勇者たちが魔王を追い詰めた場所。
転生者と違い、本物の超越者である国の英雄たちが突破したダンジョンなのだから。
危険はない。常識を知らない転生者以外は子供でもわかることを確かめに行くだけだ。
仲間が言ったとおり、それで本来の仕事をサボれるのならちょうどいい。
転生者たちは機嫌を良くし、自分たちは楽ができる。
「な、なあ……ダンジョンに入ったことがないからわからないけど、このダンジョンって本当に死んでいるのか……?」
険しい山道を進んだ。といっても城の兵士を務める彼らには日々の訓練より楽ではあるが。
途中で現れるモンスターたちも、転生者はともかく自分たちなら余裕をもって倒せた。
だけど、このダンジョンはそんな自分たちでは手に負えない。入ってはいけない。
彼らとて愚かではない。城を守る者に選ばれた存在であり、勤務態度はともかくそのあたりの危機管理は常人以上だ。
「モンスターだらけだ……どうなってる? もしかして、ダンジョンが死んだことで、野生のモンスターたちが巣を作ったか?」
「勘弁してくれよ。安全であることを確かめるために来たんだ。こんな大量のモンスターの気配を感じる場所に突っ込むのはごめんだぜ」
「……このダンジョン本当に死んでるのか?」
「それは間違いないだろ。なんせ勇者様たちの言葉だ。あの転生者どもと違って、人間のために戦ってくださる立派な方たちが嘘を言うとは考えられない」
「となると、やっぱり野良のモンスターの巣になったか……」
彼らが幸運だったのは、入口に詰め込まれた大量のモンスターの気配を感じ取れたこと。
それらのモンスターが後方に作られた広間に移される前だったこと。
そして、彼らに命令をしたのが尊敬に値しない転生者だったこと。
命を懸けるに値しない。
それが彼らの命運を分けることになる。
「帰るか。転生者様たちには、ダンジョンは死んでるけどモンスターが巣くっていたと伝えれば十分だろ」
そうして、彼らはダンジョンの餌食になることなく、転生者たちに感じたままのことを伝えるのだった。
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