第10話 隣の国の事情

「お、久しぶりに新しいメニューが」


 魔力が回復してはモンスターを作成し、たまに罠を作成し、フィオナ様にせがまれて宝箱を作成する。

 そんなことをしていたからか、モンスター作成の一行下に新たなメニューが記載されるようになった。


 中位モンスター作成:消費魔力 10


 消費魔力は10。俺の魔力を最大まで回復させたら、一応選択できるメニューだ。

 だけど、それをやったらまた倒れてしまい、フィオナ様に叱られることは容易に想像できる。


 そういえば、今まで作ったことがあるモンスターは、メニューから個別に選択できるのだが、トキシックスライムだけは魔力を10消費する。

 もしかしたら、あのスライムは大当たりで中位のモンスターなのに作成できたのかもしれない。

 ステータスは他のモンスターと変わらないから気がつかなかったけど、ステータスに記載されていない毒の能力がずいぶん強力みたいだしな。


 ということは、トキシックスライム級のモンスターガシャということか……。

 やってみたい。ダンジョン魔力を消費して……いや、節約するに越したことはない。

 というか、一度やったらはまってしまいそうだし、自制しないとな。


「レイ! 宝箱を作ってください! 今度こそは、今度こそは蘇生薬を作れると思うんです!」


「フィオナ様落ち着いてください。フィオナ様のおかげで、宝箱の中身は魔力量ごとにランダムだとわかりました。それだけでも、前進していますから」


 うん。やっぱりガシャにはまりすぎるのはよくない。

 ダンジョンの魔力もまだ50にも満たないし、俺の魔力が上がるのを待つとしよう。


    ◇


「地底魔界が成長している」


「成長……ねえ。人間たちがダンジョンは殺したと言っていたじゃないか。こんなに早く生き返るなんてありえない。それどころか成長なんて、ずっと先のはずだよ。あいつら嘘ついてたんじゃない?」


「人間だからな。所詮短命種。短い命に釣り合っていない大きな欲を抱えた愚かな種族さ」


「まあ、頭の悪い獣よりはかわいげがあるじゃない。私たちに渡り合えると思っているところとか、愚かでかわいいわ。ねえ、あなたもそう思うでしょ? ジノ」


「そうですね。長命種と違い経験が足りないからこその無謀な考えなのでしょう」


 さすがに名指しで話を振られては、愛想笑いでごまかすこともできない。

 心にもないことを口にするが、エルフたちの好みの回答だったようで、エルフたちは気分よく会話を続けている。


 やはり同じだ。今のところ設定となにも乖離かいりしていない。

 エルフたちは、寿命の短い種族を軽視していて、自分たちこそが至高の種族だと考えている。

 女神が言っていたゲーム、ルナティック・アビスの世界設定と同じだ。


 ということは……あの化け物みたいな強さの魔王がいる。

 それまで戦ってきたモンスターや、魔王軍の四天王さえ比較にならない、バランス調整ミスとしか思えないあの魔王が……。

 しかも、それを倒しても今度は狂神くるいがみなんていう正真正銘世界を滅ぼす裏ボスまで存在する世界……。

 いや、無理。ゲームでさえ何度死んだかわからないのに、転生してそいつらを倒せって女神のやつなに考えているんだ。


「ジノは転生者にしては優秀で助かるわ。中身はともかく今はエルフ。しっかりと育て上げれば、いずれは魔王を倒す賢者となる」


「は、はあ……ありがとうございます」


「そうね。まずは数百年、魔力について学んでもらいましょう」


 エルフが長命種でよかった~。

 この様子だと、俺の育成には気の遠くなるような歳月を費やすようだ。

 せいぜいエルフたちにこびへつらって、魔王を刺激しないように立ち回っていくとにしよう……。


「あの……ところで、人間や獣人の勇者たちはどうなったんですか?」


「ああ……蘇生したみたいよ。だから人間たちがダンジョンを殺したなんて喧伝していたみたいだし」


「大嘘だったみたいだけどねえ」


 勇者はすでに蘇生したのか……。

 ということは、主人公たちはちゃんといるということになる。

 死亡時のペナルティとして、レベルが下がってこそいるだろうけど、今の俺にとっては頼りになる存在には変わりない。


 まずは主人公たちに接触したいな。それと他の転生者だ。

 エルフたちの話を聞く限りでは、今の時期は俺以外にも転生者が何人も女神に拉致されるらしい。

 できればゲームのことを知っているやつ。知らなくても、住んでいた世界が同じで目的も同じなら、話し合いもしやすいはず……。


「一度、勇者たちに会ってみたいのですが」


「だめよ」


「そうそう。何を考えているの? 人間や獣人に会うなんて、変な考えに染まったら台無しじゃない」


 変な考えに染めようとしているのはあんたたちだろ……。

 まいったな……。エルフたちに取り入ることができたのはいいが、このエルフたち過保護すぎる。

 そう簡単には外の国に行く許可さえもらえそうにないか。


 だったら、他の転生者たちがなんとかこの国に接触してくれないだろうか。

 同じ転生者であれば、きっと俺と同じような考えに至る者も多いはず。

 さすがにこの世界がゲームだからと好き放題するやつはいないだろう。

 魔王が世界を滅ぼす前に、狂神が世界を破壊する前に、一刻も早く転生者たちによる協力体制を築ければいいのだが……。


    ◇


「ゲームだろ? それに女神からチート能力もらえてるし、適当に戦えば倒せるだろ」


「で、でも……私今まで戦ったことなんてないよ」


「みんなそうだけど、こういうのって転生先なんかどうにでもなる能力をもらえるものだから」


「あのおっさん、俺たちを利用した後で始末しそうだったよな。あいつらも返り討ちにしたほうがいいんじゃね?」


「ってかさ~。レベルっていうかステータスも最大にしてほしいよね~。なんで、めんどくさい戦闘訓練なんかしないといけないんだか」


 ある日僕のクラスは女神様のもとへと転移した。

 神様の力で特別な力をもらい、異世界へと転生する。

 肉体が自分のものではないようだけど、おおむねクラスごと異世界へ転移する物語の導入と同じ出来事が起こった。


 よく状況を理解できていない人たちへ、僕のようにその手の物語を好むクラスメイトが説明をした。

 当然、別世界で強力な力で好き勝手できると調子に乗る者だって現れる。

 帰りたい。危険な真似はしたくない。そんな意見は臆病ととらえられてしまう。

 クラス内での立ち位置の悪化を避けるために、みんな表向きは異世界を前向きに受け入れ始めた。


 だけど……この世界はまずい。

 僕たちを利用する気満々な人間の王とか、口約束だけで元の世界へ帰れないことはどうでもいい。

 いや、どうでもよくはないけれど、そんなことは後回しにしないといけない。


 ルナティック・アビス……。

 この世界が、本当にあのゲームの世界だというのなら、死にものぐるいで生き延びないと、僕たちの命なんて簡単に消し飛んでしまう……。

 魔王に敗北して、他の種族が魔族に支配されるならまだましだ。

 だけど、狂神まで出てきたら、そのときは世界が滅んでしまう……。


「なんか、勇者が攻略途中のダンジョンがあるらしいぜ。ちまちまとレベル上げするの面倒だし、そこでレベル上げすればよくね?」


「なんだよ。終盤のダンジョンに行けるなら教えてくれたらいいのに」


「チートあるなら、雑魚じゃなくて後半の敵倒したほうが効率いいわよね」


 信じられないことに、何人かは勇者が敗北したダンジョンに向かうらしい。

 止めた。さすがに臆病者とそしられようが関係ない。

 顔見知りが死ぬのは寝覚めが悪いし、こんな考えなしのやつらだって貴重な戦力だ。無駄に死なれたら困る。

 だけど、案の定僕は臆病者扱いされて、志願者だけで最終ダンジョンへと向かってしまった。


 ああ、ゲームの世界なんて言った女神を恨むしかない。

 ゲームなんて言うから、命が軽いものと勘違いするんだ。

 彼らはコンティニューなんかできないと理解できているんだろうか……。できていないんだろうな……。


 ああ神様……。あの性悪な女神ではない本物の神様……。

 なんで僕たちがこんな目に……。

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