第9話 魔王様、その先は地獄です

 モンスターガシャ……じゃなかった。モンスター作成も順調に数をこなすことができている。

 そのおかげか、俺のステータスがまた少しだけ強化された。


 和泉いずみれい 魔力:10 筋力:5 技術:7 頑強:7 敏捷:6


 これってやっぱり、自分の魔力を消費してダンジョンを改築しているからだろうな。

 魔力だけ他のステータスより上がりやすいのは、魔力ばかりを消費しているからかもしれない。

 まあ、今の俺に一番必要なのは魔力なので、このまま魔力が上がってくれるほうが助かるが。


「そういえば、フィオナ様のほうは順調ですか?」


 あれからひたすら魔力を宝箱に込め続けていたフィオナ様が、心なしか胸を張って俺の質問に答えた。


「先ほど終わりました。私の最大魔力の九割ほどが、すでにこの宝箱に込めてあります」


「たしかに、宝箱の見た目がまた豪華になっていますね」


 あのとき蘇生薬が出てきたものと同じような宝箱だ。

 これで、さらにフィオナ様の部下を蘇生させれば、徐々に魔王軍を復活させることも夢ではない。


「それじゃあ、開けますね」


「ええ、お願いします。私にもプリミラにも無理ですから」


 許可を得て、俺は宝箱を開けてみた。

 中には例の虹色に光る液体が入った小瓶が……ないな。

 中にあるのは砂時計? 宝箱の外装に劣らず、どこか高級そうな雰囲気を感じる。


「フィオナ様。蘇生薬じゃないみたいです」


「……このようなものまで」


 わずかに落胆していた俺とは別に、フィオナ様とプリミラさんはやけに驚いているようだ。

 二人の反応からしてこの砂時計もなにかすごいアイテムっぽいな。


「これは、時の砂時計ですね。使用者の時間を数秒だけ巻き戻す道具で、蘇生薬以上に希少なアイテムです」


 案の定とんでもないアイテムだった……。

 時間を戻すって、それこそ死んだとしてもやり直せるってことじゃないか。


「レイ。あなたが持っていてください。もしものときの保険になります」


 それはありがたいんだけど……俺の頭の中ではすでに別の使い道を思い浮かべてしまっている。


「これを使えば、フィオナ様の魔力を一瞬で回復できるんじゃないですか?」


「……なるほど、今みたいに少しずつ魔力を注入するのではなく、全快したところで一気に注入し、時の砂時計を使用する。それならば、魔力も回復できますね」


「であれば、フィオナ様が持っていてください。宝箱はまた作っておきますから」


 いずれは俺の保険もほしいけれど、今は魔王軍の再興をすべきだ。

 そうしないと、万全の状態の人間や獣人たちが襲ってきたときに困る。

 俺たち三人だけで迎え撃つというのは避けるべきだろう。


「魔王様。そういうことでしたら、玉座で魔力の回復に努めてください」


「……まあ、そのためにプリミラを復活させたわけですけど、仕方ありませんね。プリミラ。私がいない間はあなたがレイを守りなさい」


「かしこまりました」


 そのほうが魔力が回復しやすいのか、フィオナ様はなんだかしぶしぶといった様子で玉座の間に向かったようだ。


「……」


「……」


 プリミラさんは、ただ俺のそばで控えている。

 まるで秘書のようだけど、この人四天王ってことは魔王軍の中でも上位の存在なんだよなあ……。

 フィオナ様の命令とはいえ、俺なんかにつくことになって内心怒ってないといいんだけど。


「どうされましたか?」


「いえ、ちょっと考え事を……」


 とりあえず、俺が便利な存在であることをこの人にも認めてもらうしかないか。

 地道にダンジョンを改築する。そうやってアピールしていくとしよう。


 そこでそろそろ試してみたかったのが、宝箱やモンスターと同時に出現したメニューだ。


 罠作成:消費魔力 5


 名前から察するに、これも侵入者撃退のためのメニューだろうな。

 モンスターたちとは別に、ダンジョン自体にしかけるトラップなのだろう。


「プリミラさん。ちょっと入口まで行きたいので、ついてきてもらえますか?」


「プリミラでけっこうです。承知しました。レイ様のことは、命に代えてもお守りいたします」


 なんとも、職務に忠実な人だ……。

 できればそのようなことにならないことを祈ろう。


    ◇


 やってきたのはダンジョンの入口に最も近い部屋。

 今では作成したモンスターたちが待機しているため、それなりに広い部屋が狭く感じる。


 ダンジョンクロウラー 魔力:10 筋力:23 技術:7 頑強:30 敏捷:19

 コボルトロード 魔力:7 筋力:26 技術:30 頑強:28 敏捷:35

 ゴブリンメイジ 魔力:32 筋力:10 技術:27 頑強:25 敏捷:24

 トキシックスライム 魔力:12 筋力:4 技術:9 頑強:41 敏捷:28


 なんとなく前衛と後衛でバランスがいい集団になっている気がする。

 似たようなモンスターばかりなのは、俺の魔力が低いせいか、それとも単純に運の問題なのか、そのあたりはおいおい調べておきたい。


「ちょっと通してもらうぞ~」


 最初はおっかなびっくり接していたモンスターたちだが、どうやら俺のことは仲間扱いしてくれている。

 そのため、今では彼らも頼りになる魔王軍の一員という認識へと変わった。

 俺自身が弱いからな……。どうか非力な俺に変わってダンジョンを守ってほしい。


「部屋から出るのですか?」


「ええ、この部屋を抜けると入口まで一本道しかありませんからね。……ちなみに、ダンジョンへの侵入者の気配とかわかります?」


「少々お待ちください…………魔力、音、気配、すべて付近にはありません。今は安全ですが、くれぐれもお気を付けください」


「はい。ありがとうございます」


「敬語も不要です」


 それは、まあ慣れてきたら考えさせてもらおう……。

 ともかく今は安全なようだし、ちゃちゃっとすませてしまうか。


 罠作成:消費魔力 5


 魔力を消費し、ダンジョンの入口から続く一本道を改築する。

 すると一見なにも変化していないように見えたが、天井に丸い岩が設置されたのがわかった。

 たぶんあれのことだな。モンスターのときと同じく、一度作った罠はメニューに追加されるようだし間違いない。


 転がる岩:消費魔力 5


 なんともわかりやすい名前で助かる。

 たぶん侵入者を感知したら自動であの岩が転がってくれるんだろう。

 ここに挑む侵入者にどれほど通用するかはわからないが、嫌がらせ程度になってくれるなら十分か。


 できれば成果も見たいが、こんな近くで侵入者を待つほど命知らずでもない。

 この罠が役に立つかどうかはわからないが、そのうちモンスターを作成する合間に罠を増やすのもいいかもしれない。


「これでよし。プリミラさ……プリミラ。フィオナ様のところに戻りましょう」


「罠まで作れるのですか……。はい。お供いたします」


    ◇


 ひとまず魔力が回復するまでは休憩だ。

 入口は罠とモンスターたちに任せて、俺たちはフィオナ様の元へと引き返した。

 すると玉座にいたはずのフィオナ様が、宝箱を片手に俺たちを出迎えてくれた。


「フィオナ様。魔力の回復はいいんですか?」


「おかえりなさいレイ。魔力はもう回復しました」


 本当か? なんだかやけに早いような気がするが、玉座で回復したというのが原因か?


「魔王様……もしかして、玉座の間の魔力を」


「プリミラ。玉座の間の魔力は有事の際に使用する。あっていますね?」


「はい……申し訳ございません。出すぎた発言をお許しください」


「許します。それではレイ。宝箱を開けてもらえますか?」


 話の流れからすると、フィオナ様は貯蓄してあった魔力を消費したようだ。

 こういうときのためというのであれば、俺が口出しするのはやめておいたほうがいいな。

 まずは宝箱を開くとしよう。


「……クリスタル? いや、中に銀色の液体が入っている?」


「ああ……また違うものが……」


 フィオナ様が目に見えてしょんぼりしてしまった。

 初めて見るアイテムだ。つまり、望んでいた蘇生薬ではなかったということに他ならない。


「あの、これはどういうアイテムなんですか?」


「……それは、万能薬ですね。あらゆる状態異常を回復できる薬です。レイにあげます……」


 蘇生薬でなかったためか、フィオナ様はまだ若干落ち込んでいるようだ。


「それでですね。レイには再び宝箱を作っていただきたいのですが」


「魔王様。レイ様は先ほどダンジョンに罠をしかけたばかりです。宝箱を作った場合、魔力が枯渇する可能性があります」


「そ、そうでしたか……。では、無理のない範囲で宝箱が作成できるようになったら、また宝箱を作ってくれますか?」


「ええ、俺は別に今作ってもいいんですけど」


「それはだめです」


 しっかりと止められてしまった。

 しかし……フィオナ様大丈夫かな。なんだか、宝箱から出てくるアイテムというガシャにはまってしまったように見えるんだけど……。

 フィオナ様が変なガシャ沼にはまらないように、注意しておいたほうがいいかもしれないな。


    ◇


 あの獲物が逃げた穴が開いている。

 あと少しのところで壁に阻まれて引き返すことになった。

 その後仲間を連れて戻ったら穴は完全にふさがれていた。


 大トカゲはそれが気に食わなかった。

 あの弱そうな獲物をみすみす逃がすこととなり、その獲物をかくまうようなこの洞窟さえも嫌った。

 しかし、どういうわけか洞窟の入口に彼らの行く手をさえぎるものはない。

 そして今度は群れを率いている。あの獲物を逃す要因などなにもない。


 そう思い、群れを先導するように大トカゲは洞窟に足を踏み入れた。

 道は一本しかない。四つ足で這うように進んでいくと、カチッという聞きなれない音が聞こえた。

 小さな音だったため、特に気にすることなく歩みを進めようとしたが、彼はそこで命を失った。


 落下した岩は先導する大トカゲを潰すだけにとどまらない。

 球状の形と入口に向かって緩やかな坂となっている立地。

 それらが組み合わさり、岩の罠は大トカゲの群れをき潰しながら入口へと衝突することで、ようやく動きを止める。


 そうして彼らの命はダンジョンのための魔力へと変換されるが、それを知る者は誰一人として存在しなかった……。

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