第5話 インドア派のはじまりへの旅

「分かれ道も作れるかもしれません」


「ああ、いいですね~。ちょっと前までは分かれ道とか迷路とかあったんですよ。それが、勇者たちが全部更地に……」


 ああ、またフィオナ様がネガティブモードに……。


「部下も失い、まっさらなダンジョンに私一人。……やはり、数万年はここにこもって寝ていた方が」


「い、いや、だめですって」


「ですが、そうすれば魔王を封印できたと勘違いしてくれるかもしれません」


「そ、それに、一人じゃなくて、俺もいるじゃないですか」


「……そう、ですね。私にはレイがいます」


 フィオナ様。だいぶ参っているのかな……。

 まあ、無理もないか。自分以外全滅で拠点も壊されたとなると、落ち込む気持ちは十分わかる。

 だけど、ここで数万年も眠られたら、俺はそのまま野垂れ死ぬことになりかねない。

 なんとか、一緒にがんばっていこうと思ってもらわねば。


「えっと、じゃあとりあえず、部屋でも作ってみましょうか」


「いいですね。このままではただの洞窟ですから」


 壁作成:消費魔力 1

 床作成:消費魔力 1

 天井作成:消費魔力 1

 扉作成:消費魔力 1


 壁は四方に必要で、扉は手前と奥に必要なので、合計で8の魔力を消費する。

 俺の魔力だけだと足りないけれど、ダンジョンの魔力を使えるのなら話は別だ。


 ……ダンジョンの魔力って、どうやって使えばいいんだろう。

 手探りで、とりあえずダンジョンの魔力らしき数字を触ってみる。

 すると、数字が現在使用できるメニューと同じく白く光った。


 なんかいけそうだな。

 続いて壁作成を選択すると、壁が生成され、数値は49に減った。


「壁作成」


 同じように、ダンジョンの魔力を触ってから、今度は言葉と意思で壁を作る。

 どちらもうまくいき、ダンジョンの魔力から壁を作ることができた。

 よし、だいたい使い方もわかったことだし、部屋作りは簡単にできそうだ。


「う~ん、やっぱりすごいですね。部屋一つがわずか数秒ですか。最低限の修繕なら、思っていた以上の速さで終わりそうです」


「恐縮です……」


 あっさりとできたけど、この部屋ってあの獣人最強たちが壊すのに手こずっていたくらいの強度だよな。

 それをたった8の魔力で作れるとなると、ダンジョンマスターのスキルってすごいんじゃないか?


「あ……なにか文字が」


 メニューには新たに光る文字がいくつか増えていた。

 きっと、部屋を作ったことによって新たなメニューが解禁されたのだろう。

 説明はないが理解できる。なぜならば、こんなメニューも増えていたからだ。


 部屋作成:消費魔力 5


「これって、今作ったのと同じ部屋を作れるってことか?」


 試してみたい。

 なので、まずはフィオナ様に次の部屋を作る場所を聞かねば。


「フィオナ様。部屋をもう一つ作りたいんですけど、どこにしましょう?」


「やる気もあるみたいですね。どうやら、いい配下が仲間になってくれたみたいです」


 よしよし、フィオナ様からの評価も上がっている。

 ついでにスキルの実験もできるし、良いことづくめじゃないか。


「それでは、次はこちらにお願いします。無理はいけませんよ?」


「はい」


 先ほどの部屋を出て、道を進んだ先に新たに部屋を作る。

 なるほど、入口の方はそこまで広くないから、こうして道と部屋を数珠つなぎのようにした構造なのか。

 奥は広いので、分かれ道とかはそのへんで使うんだろうな。


 部屋作成:消費魔力 5


 まずは、ダンジョンの魔力を消費して、部屋を作成する。

 思ったとおり、先ほどと寸分変わらぬ部屋の出来上がりだ。

 普通にパーツごとに作ったよりも、消費魔力が若干お得になっているのが嬉しい。


「この辺には、配下やモンスターを配置していたんです」


「そうやって侵入者を撃退していたんですね」


「まあ……全員やられちゃいましたけど……」


「俺がいるから平気です!」


 平気ということはないけど、落ち込む前に念を押しておこう。


 ちなみに、相手も言葉は通じるわけだし平和的な話し合いってできないんだろうか。

 そもそも、なんでダンジョンに侵入を……うん、魔王を倒すためだろうな。話し合いなんて無理か。


「侵入してくる人って、やっぱりフィオナ様を倒すことが目的ってことですよね……」


「ええ、私を含めたすべての魔族を殺しつくすためですね」


「話し合いとかは……」


「あの獣人たちのように、一般的には魔族はすべての種族の敵であり、殺さなければいけないという認識です。難しいでしょうね」


 あいつらみたいにか……。種族を見てすぐに殺そうとしてきたな。

 到底話し合いなんて無理だ。というか、俺みたいな雑魚にそんな手段を選ぶことはできない。

 全力で撃退するか逃げるかしか選択肢はなさそうだ……。


 さて、部屋を作ったことでまたメニューが増えたな。


 広間作成:消費魔力 10

 迷路作成:消費魔力 20


「う~ん……さすがにこの消費量は、考えなしには使いたくないな」


「またできることが増えましたか? レイは優秀ですね」


「ありがとうございます。広間と迷路が作れるようになりましたけど、魔力の消費が激しいみたいで……」


「そんなものまで作れるんですか……ですが、無理はいけません。いずれ魔力が溜まってからでも問題ないでしょう」


 そう言ってもらえると助かる。

 さすがに、10とか20を消費できるほどの魔力はないからな。

 それに、これよりも試してみたいものがあるんだ。


 部屋を作ったときに解禁されたメニューは、他にも三つある。


 宝箱作成:消費魔力 5

 罠作成:消費魔力 5

 モンスター作成:消費魔力 5


 宝箱はともかく、他二つはいかにも侵入者を撃退できそうじゃないか。

 部屋ばかり作るよりも、このあたりを試すことに魔力を消費したい。

 しかも、すべて消費魔力が5というのもありがたい。

 回復手段がある俺自身の魔力でもギリギリ足りる魔力量だ。


「ちょっと、宝箱を作ってみますね」


「はい。宝箱……宝箱?」


 罠とモンスターは後回しだ。

 魔力が5ということは、作った瞬間に俺は再び気絶する。

 そんな状態で、罠が発動したりモンスターが制御不能になったら死んでしまうからな。

 なので、ここは安全であろう宝箱にすべての魔力を注ぐことにした。


 ということで、再び……魔力を、消費して……。


「ちょっと、なにしているんですか!? また、気絶しようとしていませんか!? していますよね!」


 すみません……。もう、メニュー選択しました……。

 あぁ……意識が暗転していく……。


「もう、無理するなって言ったのに……」


    ◇


「勇者が死んだということか」


「ええ、反応は消失。地底魔界まで攻め入り、順調に進んでいたようですが、恐らくは魔王の手により……」


「やはり、魔王は別格ということか……」


「そうなりますね。獣王国最強の戦士たちも、その機に乗じて挑んだようですが、結果は我々の勇者と同じようです」


「畜生どもの考えそうなことだ。大方手柄を横取りしようと、勇者と魔王を衝突させ、消耗したほうと戦う腹づもりだったのだろう」


 忌々しそうな表情を浮かべるのは人間の王。

 魔王だけでなく、他の種族の国さえも敵であると彼は考えていた。

 魔王という共通の敵がいるからこそ、表立って争うことはないものの、それが消えてしまえば他種族は敵になる。

 そんな未来が簡単に予想できてしまうため、王は他種族を信じない。そしてそれは、人間以外の種族も同じ考えであった。


「勇者たちの回収は?」


「残念ながら、騎士団たちの調査によると、地底魔界の入口が強固な壁で閉ざされてしまったようです。そのため、魂のみが帰還しています」


「……となると、装備の回収は不可能か」


「ええ……ですが、勇者たちの蘇生準備は進めています。再び力を取り戻すまでは、地底魔界に手を出さないほうがよろしいかと」


「そのようだな」


 王も無能ではない。勇者たちに装備を惜しんで魔王と戦わせるなどという愚は犯していない。

 だからこそ、装備品を失うことは惜しいが、勇者が蘇生できるのであれば、いずれはその損失も取り戻せるだろう。

 そして、この期間は下手に動くべきではなく、準備期間と思うべきだと思い直した。


「やはり、転生者が魔王討伐の鍵となるか……」


「前回の大転生から十年。近いうちに、様々な地に転生者が現れるはずです」


「ああ。一人でも多く我が国で確保したい。騎士団を可能な限り動員し、国の隅々まで見張らせるのだ」


「承知しました。すぐに騎士団長に通達いたします」


 騎士団のほとんどは、転生者探索へと駆り出される。

 魔王を倒すためという名目と、他国へと後れをとってはならないという思惑によって。

 幸いなのは、理由はともかく国のためということに違いはないという点だろう。

 転生者が魔王と戦うことになり、後に他種族と戦うことになるとしても、それはどちらも人間の国を守るためなのだから……。

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