幕間 一方その頃
ヴェスパは純白の本のページを繰る。
紙面を目で追った彼は、微かに笑みを浮かべる。
「本当に君は貪欲だな。まぁ煽った甲斐があるというものではある、か」
紙面から顔を上げて遠い目をする。
「あの時もそうだった」
老執事が珍しく、自ら主人に語り掛けるような仕草をする。
「――」
「君には不本意なことだったろうね」
「――」
「そうか。潔いものだな」
「――」
「ん? いや、今回は正直どちらに転がろうと良いのだけれどね」
顎に手を当てて考えるそぶりをする。
「あのまま醜態を晒し続けるよりは……ね。でも、彼女には少し後ろめたいところもあるしなぁ」
「――」
「まぁ、人ならば我が子が真っ当に生きるのを望むものなのかな。僕は人ではないから良く分からないのだけれど」
本を閉じて立ち上がり、窓に近寄ってその窓枠に手をつき外を眺める。
庭で地面をつついていた小鳥たちが、驚いて飛び立っていってしまう。それを眺めながらヴェスパは独白する。
「さて、ローズ君。キミは人の心、人の記憶を覗くという事が如何なることなのか、果たして理解しているのかな?」
それがどのような結果を導くのか、実のところヴェスパにも見えてはいなかった。
だが、それがたまらなく楽しい。
ふと気づく。草むらに潜んでいた蛇が、小鳥を逃がしたヴェスパを恨めし気に見上げている。……ように見えた。
ヴェスパが苦笑する。流石に彼でも小動物の気持ちは分からない。が、少し申し訳ない気分になる。
「わざとじゃないんだが……ままならないものだなぁ。ところでペチュアはまだ怒っているのかい?」
「――」
「仕事はちゃんとして欲しいものだが、まぁその反応も含めてか。ところで――」
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