閑話 ユキの後悔1
「どうしよう……」
昼食の席でどんよりしながら、それだけを口にするユキ。
マリアはステーキ肉を食べながら、テーブル越しにその様子を見て「んんー?」と軽く首を傾げる。
そして咀嚼中の肉を飲み込んだ後、決定的な言葉を口にする。
「ねぇ、ローズさんってロイズさんなの?」
「ええっ!?」
未だマリアには伝えられていなかったはずの事実を、唐突に指摘されてユキが驚愕する。
「あー、やっぱりそうなんだ。それで、リナちゃんはロイズさんの娘じゃなかったと」
「あ、うん、そうなんだけど……、なんで分かったの?」
色々すっ飛ばして核心をついてくるマリアにユキが慄いていると、マリアは笑顔で答える。
「そりゃ分かるよ。ヒント一杯あったし」
「そうだったかしら?」
「だって、ロイズさんが隠し子作ってたってユキがぷりぷりしだして、なぜか無関係なローズさんに当たりがきつくなってたし。そもそもユリウス? って人の言い分も大分おかしかったし」
「そう……だよね」
「それになにより、『ローズ』って名前、『ロイズ』とそっくりだし! あはは!」
「そ、そうね……」
確かに名前はあからさま過ぎて隠す気すらない。ただし自分はクロエに伝えられるまでそれに全く気付かなかった。少なからず落ち込むユキ。
(実の兄妹なのに……)
そしてマリアも言っているが、ユリウスの言い分がおかしいことに、自分は気づけもしなかった。
冷静になった今思い返してみれば、判断理由も言わずに、一方的にリナがロイズの子供だなどと、怪しいにもほどがあるではないか。
それをあっさり信じてしまった自分が信じられない。
「ユリウスはあんな嘘つくやつじゃないと思ってたんだけど……」
「たぶん、ユリウス君も本当だと思ってたんじゃない?」
「そう……なのかな?」
少々腑に落ちないが、恐らくそうなのだろう。
マリアはステーキをもりもりと食べながら、その合間にユキに語り掛ける。
「まぁ、そのリナ? って子のこともあるけど、ひとまずローズさんに謝らないとね」
「うん」
確かに早急に謝らなければならない。一度あわてて謝ってはいるがユキ的にあれは正式な謝罪とは言えないと思っていた。ちゃんとしっかり謝らなければ……
そこまで考えたところで、ふとマリアの言葉に引っかかりを覚える。
はて? マリアはリナと会ったことがなかっただろうか?
(あー、喋ったことはなかったかも)
リナがクランハウスに来た初日。マリアもその場にいたはずだが、特に話しかける様子がなかったことを思い出す。
その後もマリアは、リナの世話を焼くメンバーに加わることがなかった。世話焼き好きなマリアにしては、珍しく距離を置いた対応だった。
(引っかかると言えば)
連想的にユキはローズに対してもう一つ、いや二つ、引っかかっていたことを思い出す。
ひとつは重婚。そしてもう一つは……
「ユキは頑固だし、意外と引っ込み思案だし、早めに謝る事! 分かった? 何に引っかかってるのか知らないけど」
「う……」
マリアはユキをぴしゃりと叱った後、すぐに優しい笑顔になる。
その笑顔に自分の考えを見透かされているように感じて、ちょっとたじろぐユキ。もっとも、他人に誤解されやすい自分(自身の態度のせいもあると自覚はしているのだが)のことを、あっさり理解してくれるところに惚れたというのもあるので、若干嬉しさもこみ上げる。
「か、考えておくわ」
引っかかってる事の一つ目は重婚だ。これはマリアに相談しても仕方ない。重婚を許容するか否定するかは個人の倫理観、あるいは好みの話だ。ユキ自身は否定的だがマリアがどう考えているか分からない。それに、そんなことでマリアと意見をぶつけ合いたくはない。
そして、もう一つはマリアには絶対相談できない。
(折を見てローズにいさ……じゃなくて姉さんに聞いてみよう……)
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