幕間 精霊の子
「しかし、それは騙すようなものではありませんか?」
ドナートがサロモンの『提案』へ懸念を呈する。
「何を言うのです。彼らはリナ様の里親を探しているのでしょう? 要するに厄介払いしたいということではありませんか」
「厄介払いというのは……」
「言葉が過ぎるというなら言いなおしましょうか? 『手放す』でもいい。『未来を託す』でもいい。ですが所詮言葉です。言い直したところで、事実に変わりはありません」
「……」
「それに、これによって誰かが不幸になるわけではありません。むしろ皆が幸福になるのですよ?」
「……」
「我々は精霊の子を保護する栄誉にあずかる。彼らは見ず知らずの子供を扶養する義務から解放される。リナ様は生涯に渡って人々に敬われ、愛され、何不自由することなく暮らすことが出来る。死んだ母親も浮かばれると言うものでしょう」
「……はい」
「ですが、事実を先に明らかにしてしまえば、世の人というものは思わぬ欲をかくものです。金銭を要求するだけならまだましです。リナ様を隠して、もっと良い条件を出す悪人に渡しかねない。何しろあれらはエーリカの民だ」
「そのようなことは……!」
「ないと言えますか? あなた自身彼女らとはほんの少し言葉を交わしただけなのでしょう? 貴方もこれまで、凡庸な俗物が豹変する様を幾度も見てきたのでは?」
「それは……」
項垂れるドナートの肩にサロモンが手を置く。
「あなたは聖職者として真摯であり、人として誠実でもありますが、それだけでは手から零れ落ちてしまう者もいたことでしょう。あなたも経験があるはずだ。時には自らが汚れることを覚悟することも必要ですよ?」
「……はい」
彼の頷きにサロモンは満足そうに笑みを浮かべた。
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